悪魔も恋をする

月詠世理

文字の大きさ
上 下
16 / 34

16話

しおりを挟む
 目を開けると一人の男が視界に入る。傷一つない綺麗な顔はまるで人形のようだ。私と一緒のベッドで寝てしまったようである。じーっと男を見つめていた。

「そんなにジロジロ見られたら穴が空くよ。おはよう、シア」

「あ、あなたはだれ?」

 知らない者と一緒に寝ていたのか。それにシアとは誰のことだろうか。こてん、と首を傾けた。

「シアとはそなたのことだ。寝る前に教えたが、疲れていたのだろう。仕方がないな。」

「シアは私のこと?」

「そうだ」

「じゃあ、あなたは?」

 シアが自分の名前ということはわかった。では、目の前にいる彼の名前は何だろうか。質問から逃げることのないように彼の服の裾を掴む。

「我はデレアスモス。シアに仕えている執事で、シアの主人でもある」

「執事なのに主人?」

「今は気にしなくていい。それよりも調子はどうだ?」

 私はそれに返事することはなかった。


 デレアスモスはシアを見る。彼女は今にも瞳を閉じそうであった。また、服の裾をキュッと掴んでいる手が、なんといじらしいことか。

「眠いなら寝てもいいんだ」

 記憶を消したことによって判断力や思考力が低下しているのだろう。日常生活にも支障が出てくるだろうが、我が世話をするし、問題ないな。

「おやすみ、シア」


 この大きなお屋敷には、使用人が一人しかいないらしい。一人で掃除等をするなら、この屋敷の維持はきっと大変なことだろう。あの後、眠りから目覚めたシアにデレアスモスは少しだけ今の状況を説明したようだ。
 シアはこの現状に違和感を持つことはない。デレアスモスという悪魔が彼女の全てを支配しているのだから。

「シア。我とシアは秘密の恋人同士であった。だから、キスをしよう?」

 デレアスモスはシアに顔を近づけていく。シアはそれを疑うことはできないだろう。記憶を消されてしまっているのだから。
 シアとデレアスモスの距離はだんだんと縮まる。もう少しで唇と唇が触れ合いそうだった。

「そんなにボーッとした、警戒心のない表情を他の人に見せるなよ」

 重なり合う唇。シアはただそれを受け入れた。


 私の唇は恋人であるらしい彼の唇に塞がれていた。落とされたキスは私の思考を奪うのには十分すぎるほど、甘くて深いもの。だが、受け止めたキスは熱くて蕩けそうなものなのに、なぜ私はそれを冷たいと感じてしまうのだろうか。ズキズキと胸が痛むのはなぜなの。一筋の雫が頰に流れる。私は悲しいと思っているのか。それとも、嬉しいと思っているのか。
 私は何度も何度も交わされるキスにより、何も考えられなくなった。


 デレアスモスはシアを抱いた。自分なしでは生きられないようにするためにシアを貪る。時には優しく、時には激しくシアと行為をする。
 短時間過ごしただけでシアを気に入ってしまったのだろうか。それとも元から彼女を気に入っていたのだろうか。
 その答えを知っているのはデレアスモス自身である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの嫉妬なんて知らない

abang
恋愛
「あなたが尻軽だとは知らなかったな」 「あ、そう。誰を信じるかは自由よ。じゃあ、終わりって事でいいのね」 「は……終わりだなんて、」 「こんな所にいらしたのね!お二人とも……皆探していましたよ…… "今日の主役が二人も抜けては"」 婚約パーティーの夜だった。 愛おしい恋人に「尻軽」だと身に覚えのない事で罵られたのは。 長年の恋人の言葉よりもあざとい秘書官の言葉を信頼する近頃の彼にどれほど傷ついただろう。 「はー、もういいわ」 皇帝という立場の恋人は、仕事仲間である優秀な秘書官を信頼していた。 彼女の言葉を信じて私に婚約パーティーの日に「尻軽」だと言った彼。 「公女様は、退屈な方ですね」そういって耳元で嘲笑った秘書官。 だから私は悪女になった。 「しつこいわね、見て分かんないの?貴方とは終わったの」 洗練された公女の所作に、恵まれた女性の魅力に、高貴な家門の名に、男女問わず皆が魅了される。 「貴女は、俺の婚約者だろう!」 「これを見ても?貴方の言ったとおり"尻軽"に振る舞ったのだけど、思いの他皆にモテているの。感謝するわ」 「ダリア!いい加減に……」 嫉妬に燃える皇帝はダリアの新しい恋を次々と邪魔して……?

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。

恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。 キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。 けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。 セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。 キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。 『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』 キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。   そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。 ※ゆるふわ設定 ※ご都合主義 ※一話の長さがバラバラになりがち。 ※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

処理中です...