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3話
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朝食が終わった後、お皿洗いを母に任せて部屋に戻った。ショボショボとした目をして起きているわらちゃんがそこにはいた。
「おはようなのです」
ふわっとあくびをしているわらちゃん。
「おはよう」
返事をしながら、学校へ行く準備をしている。
「ど、どこにいくなのです」
「学校なのですぅ」
わらちゃんの真似をして応えた。嫌味のようなものだ。彼女に通じるとは思えないし、自分でやってみてありえないって思った。
「私も行くなのですぅ」
「お弁当は一つしかありません」
「いいなのです。私のご飯は、ありますなのですぅ」
彼女を家に置いていきたいがために、ご飯のことを言ってみたが失敗してしまった。私はこの時とてつもなく嫌な予感がしたのだ。私のご飯が狙われてしまうのではないかと根拠もなくそう思った。案の定、この予感は的中した。
学校に到着し、つまらなくて暇な授業を受けた。先生の声を左から右に流しながら、黒板をボーっと見ていた。先生の解説など必要なことはノートにメモをとったり、文字を書き込んでいったりしていく。時折、早く授業が終わらないものかと時計に視線を動かしていた。
私が授業を大人しく受けている中、わらちゃんはせわしなく動いていた。彼女は私の机の周りをぐるぐるとまわっていた。また、私の傍に立ってギャーギャーと騒いでいた。それなので、一回だけ蹴り飛ばした。
授業中に殴る動作をするのは、他人に妙な目で見られてしまう。私はその対策に、安直であるが、足を使うことにした。私はただ、わらちゃんが私の机の前に来た時に蹴ったのである。彼女はその痛みからか泣きわめいていた。私は何も見ていない、何も聞いていないと自分に言い聞かせた。
最初、気にしていたわらちゃんのうるさい声。それをずっと引きずるのは精神衛生上によろしくないと思ったので、彼女を無視し続けていた。変な者について何も見聞きできないことは素晴らしい。
母が作ったご飯、お弁当の中身は何だろう。昼食に思いを馳せて、午前の授業をなんとかやり過ごした。
「お弁当なんだろう?」
お昼休みになり、お腹を満たすことだけを考えている。美味しいご飯だと嬉しい。ルンルンとしていて音符でもとんでいるのでは、と思われるような気分であった。しかし、その気持ちはどん底に落とされる。水色の二段のお弁当箱。それを開ければ、中身があるはずだった。
「はいぃぃ!?」
何もない。何もないというのは語弊がある。ご飯粒や野菜は残っていた。だが、ほとんどのおかず等が食べ散らかされている。そういえば、わらちゃんがゴソゴソとカバンをあさっていたような……。
「このこの! ご飯食べましょうなのです」
目の前に現れた彼女の口の周りにはご飯粒がついていた。
「わ、わらちゃん……」
誰かに聞こえないように小さくつぶやいた。私のお昼ご飯は、この子に食べられたのだと瞬時に理解できた。拳を作って私は彼女を思いっきり殴った。彼女はうずくまって泣いていたが、私はご飯を食べられなかったことへ意識が向いていた。
「お腹減った。購買のご飯、売り切れてそうだしな~」
お腹を満たすためには、どうしたら良いのかと考える。しかし、名案は出てこなかった。私はお昼休みから空腹のまま過ごすことになる。本当に腸が煮えくり返るよ。
わらちゃんが人を不幸にする理由。それは、彼女が他人の気持ちを考えずに、自分の欲望のまま過ごしているからではないのか。彼女は、人が喜ぶことをしてあげられない。だから、彼女は幸福を他人に運ぶことはできない。もし、彼女が人のことを考えて行動できるようになれば、どうだろうか。私の役目は終わって、彼女から解放されるのだろうか。
わらちゃん、私は絶対に忘れない。食べ物の恨みは恐ろしいのである。
昼食を食べ損ねてから、授業を何とか終えた。おへそと背中がくっつきそうだ。学校から家に帰る時、わらちゃんと並んで歩いていた。私に友達がいないのかと思った人はいるだろうか。私に友達はいる。ただ、帰る方向がその子とは違うのだ。だから、友達と一緒に帰ることはできない。
「わらちゃん」
「はい、なのです」
私は彼女を呼びかける。彼女はしっかり返事をしてくれた。
「もしわらちゃんがお腹すいている時に、ご飯を食べられていたらどんな気持ちになる? わらちゃんのために用意された、あなただけのご飯が他人に目の前で奪われるの」
彼女は立ち止まった。必然的に私も数歩先で立ち止まる。彼女の回答を私は待っている。何を想像したのかは不明だ。ただ彼女は目に透明な液体を溜めていた。
「このこの。ごめんなさいなのですぅ。私も自分のために作られたものが他者に奪われるのは悲しいですぅ」
「ごめんなさい」と何度も頭を下げる彼女。私はそんな彼女の様子に嬉しくなった。自分が嫌だと悲しいと思うことを考えることができる。それが可能ということは、他人のことを考えることができるはずなのだ。
わらちゃん、早く私のために他人を思いやるということを理解し、その考え方を身に着けて行こうね。
結局、このははわらちゃんに他人のことを言っておきながら、自分のことしか考えていなかった。ご飯を取られることをまだ根に持っているのだろう。
「おはようなのです」
ふわっとあくびをしているわらちゃん。
「おはよう」
返事をしながら、学校へ行く準備をしている。
「ど、どこにいくなのです」
「学校なのですぅ」
わらちゃんの真似をして応えた。嫌味のようなものだ。彼女に通じるとは思えないし、自分でやってみてありえないって思った。
「私も行くなのですぅ」
「お弁当は一つしかありません」
「いいなのです。私のご飯は、ありますなのですぅ」
彼女を家に置いていきたいがために、ご飯のことを言ってみたが失敗してしまった。私はこの時とてつもなく嫌な予感がしたのだ。私のご飯が狙われてしまうのではないかと根拠もなくそう思った。案の定、この予感は的中した。
学校に到着し、つまらなくて暇な授業を受けた。先生の声を左から右に流しながら、黒板をボーっと見ていた。先生の解説など必要なことはノートにメモをとったり、文字を書き込んでいったりしていく。時折、早く授業が終わらないものかと時計に視線を動かしていた。
私が授業を大人しく受けている中、わらちゃんはせわしなく動いていた。彼女は私の机の周りをぐるぐるとまわっていた。また、私の傍に立ってギャーギャーと騒いでいた。それなので、一回だけ蹴り飛ばした。
授業中に殴る動作をするのは、他人に妙な目で見られてしまう。私はその対策に、安直であるが、足を使うことにした。私はただ、わらちゃんが私の机の前に来た時に蹴ったのである。彼女はその痛みからか泣きわめいていた。私は何も見ていない、何も聞いていないと自分に言い聞かせた。
最初、気にしていたわらちゃんのうるさい声。それをずっと引きずるのは精神衛生上によろしくないと思ったので、彼女を無視し続けていた。変な者について何も見聞きできないことは素晴らしい。
母が作ったご飯、お弁当の中身は何だろう。昼食に思いを馳せて、午前の授業をなんとかやり過ごした。
「お弁当なんだろう?」
お昼休みになり、お腹を満たすことだけを考えている。美味しいご飯だと嬉しい。ルンルンとしていて音符でもとんでいるのでは、と思われるような気分であった。しかし、その気持ちはどん底に落とされる。水色の二段のお弁当箱。それを開ければ、中身があるはずだった。
「はいぃぃ!?」
何もない。何もないというのは語弊がある。ご飯粒や野菜は残っていた。だが、ほとんどのおかず等が食べ散らかされている。そういえば、わらちゃんがゴソゴソとカバンをあさっていたような……。
「このこの! ご飯食べましょうなのです」
目の前に現れた彼女の口の周りにはご飯粒がついていた。
「わ、わらちゃん……」
誰かに聞こえないように小さくつぶやいた。私のお昼ご飯は、この子に食べられたのだと瞬時に理解できた。拳を作って私は彼女を思いっきり殴った。彼女はうずくまって泣いていたが、私はご飯を食べられなかったことへ意識が向いていた。
「お腹減った。購買のご飯、売り切れてそうだしな~」
お腹を満たすためには、どうしたら良いのかと考える。しかし、名案は出てこなかった。私はお昼休みから空腹のまま過ごすことになる。本当に腸が煮えくり返るよ。
わらちゃんが人を不幸にする理由。それは、彼女が他人の気持ちを考えずに、自分の欲望のまま過ごしているからではないのか。彼女は、人が喜ぶことをしてあげられない。だから、彼女は幸福を他人に運ぶことはできない。もし、彼女が人のことを考えて行動できるようになれば、どうだろうか。私の役目は終わって、彼女から解放されるのだろうか。
わらちゃん、私は絶対に忘れない。食べ物の恨みは恐ろしいのである。
昼食を食べ損ねてから、授業を何とか終えた。おへそと背中がくっつきそうだ。学校から家に帰る時、わらちゃんと並んで歩いていた。私に友達がいないのかと思った人はいるだろうか。私に友達はいる。ただ、帰る方向がその子とは違うのだ。だから、友達と一緒に帰ることはできない。
「わらちゃん」
「はい、なのです」
私は彼女を呼びかける。彼女はしっかり返事をしてくれた。
「もしわらちゃんがお腹すいている時に、ご飯を食べられていたらどんな気持ちになる? わらちゃんのために用意された、あなただけのご飯が他人に目の前で奪われるの」
彼女は立ち止まった。必然的に私も数歩先で立ち止まる。彼女の回答を私は待っている。何を想像したのかは不明だ。ただ彼女は目に透明な液体を溜めていた。
「このこの。ごめんなさいなのですぅ。私も自分のために作られたものが他者に奪われるのは悲しいですぅ」
「ごめんなさい」と何度も頭を下げる彼女。私はそんな彼女の様子に嬉しくなった。自分が嫌だと悲しいと思うことを考えることができる。それが可能ということは、他人のことを考えることができるはずなのだ。
わらちゃん、早く私のために他人を思いやるということを理解し、その考え方を身に着けて行こうね。
結局、このははわらちゃんに他人のことを言っておきながら、自分のことしか考えていなかった。ご飯を取られることをまだ根に持っているのだろう。
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