猫は恋したので、カフェに行く(仮)

月詠世理

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まだまだ(34話)

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 次々と注文が届くため、裏はバタバタと忙しない。気持ちに余裕がないからそう感じるのかもしれないけれど。

「おいっ! シューガードーナツとハニードーナツはまだか?」
「うっ! 今からっ!!」
「遅い。さっさと用意して飲み物と一緒に出せ」
「わ、わかった」
「その次はバニラアイス2カップな」

 ドーナツを入れる持ち帰り用の袋が切れていたので、取ってきたところだ。そのため、用意が遅れてしまった。夕羽の言う通り、素早くドーナツを袋に入れる。その間に、次の指示があったからそれを頭に入れながら。

 私は用意が終わっているだろう置かれている飲み物を見た。注文票にアップルティとアイスティの表記があった。夕羽がコップに印を付けており、どちらの飲み物が入っているのかわかりやすくなっていた。

 私は表の人に届くように声を出し、注文票とそこに書かれている用意した飲食物を小窓から台へ置いた。私の声に気づいた山城先輩がこちらを見て合図していたので、それほど時間をかけることなくお客様に届くだろう。

 今度はバニラアイスの用意だ。測ってカップに1つずつ入れる。

「アイスできたよ」
「オレンジとグレープフルーツと一緒に」
「了解」

 送られてくる注文票を見て即座に何を用意するかを判断し、指示を出す。慣れてくるとできることらしいが、焦ることなくテキパキと動いているのですごいと思った。私はまた小窓から台へ用意したものを乗せた。

「オレンジとグレープフルーツ、バニラアイスできました!」
「こっちで出すから引き続きよろしく」

 奥村先輩の返事が聞こえてきた。山城先輩は接客をしているのだろう。接客と接客の合間に提供も行っていて、優秀すぎる人たちだと思う。

「猫宮! ボサっとしてんな。ケーキ用意しろ!」
「ひえ~! ご、ごめん。店内でチーズケーキとホットケーキね」
「生クリームも忘れんなよ」
「はい!」

 私も夕羽もこんな感じで次々と届く注文に対応していった。

 ――あれから人足が減ったのか、大分落ち着きつつあった。

「ひと段落ついたな」
「うん、お疲れ様」
「片付けしつつ、注文が来たら用意だな」
「そうだね」

 使用していた器具を洗浄したり、在庫を確認したり、足りないものを補充したりする。洗い終わってある食器は戻してくれる子がいるから問題はないだろう。少し疲れた。現状はメニューが少なめだからなんとかなってるのもありそうだ。分量とか作り方とか覚えるの大変だし。頭から抜け落ちるし。間違えないように気をつけないとだし。

「指示がないとダメなところもあるけど、動けるようになってきたよな」
「ホント!?」

 コイツが人を褒めるようなことを言うのは珍しいが、嬉しいものは嬉しいので、頬が緩んだ。

「何変な顔してんだよ。お前なんかまだまだだっての」
「うん、わかってた。あんたそういうやつだった」
「は? それじゃなんも伝わってこねーよ。注文きたぞ」
「私1人で用意するよ」
「ジュースだけだしな」

 浮ついた気持ちは鎮まった。冷静になれたので夕羽の突き落としがあって良かったと思う。いや、純粋に褒めるなら褒めるだけにして欲しかったなという気持ちもある。ただ、高揚してて変な失敗しても困るから、これでいいんだ。言ってることは間違ってない。まだまだひよっこだもの。
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