猫は恋したので、カフェに行く(仮)

月詠世理

文字の大きさ
上 下
33 / 41

チーム決めも一苦労かな(31話)

しおりを挟む
 休憩時間。バタバタと騒がしく教室から出ていく人たちがいた。その慌ただしさに何事かと視線を送ったところ、広がる光景に唖然とした。男女問わずに人で溢れかえっていたのだ。人が大きな箱にギュウギュウに詰まってでもいるのかと思うくらいには廊下が埋まっていた。

「奥村! 俺たちと組め!!」
「ねぇねぇ、私たちと組まない?」
「風間くんは誰と組むか決めた? 決まってなければぜひ私たちと!」
「はあ? 彼は僕たちと組むんだよ。邪魔すんな!!」

 聞こえてきた大声からして勧誘目的のようだ。彼らのところに人が集まっていることが推測できる。とんでもなく競争率が高いようだ。舞凛ちゃんに頼まれているけれど、すでに負けが確定している気がしてきた。奥村先輩と夕羽のいる場所に人が密集するほど人々の情熱がスゴイとは思わなかった。

「ふざけんな。俺たちとチームになるんだよ!!」
「違う!! 奥村くんに返事もらってないくせに勘違い甚だしいわ!!」
「奥村くんは私たちと来るのよ!」
「誰が君たちのようなうるさいヤツと!」
「なんですって!?」

 一人をメンバーにするためにいろんな人たちが取り合いをしていた。険悪な雰囲気になっていることしか想像できた。聞こえてくる会話からきて読み取ることしかできないけれど。

「僕たちとあなたが組めば優勝間違いなしです。ぜひ僕たちと一緒に出場しましょう!!」
「あんたたちみたいなヒョロヒョロと一緒のチームになったら、風間くんが潰れちゃうでしょ!!」
「そんなにヤワな方ではありません! それにヒョロヒョロじゃない。そんなにいうなら君たちだって!!」
「風間くんが強いことなんて知ってるわよ! だから誘ってるんでしょ!! それと私たちに何か文句あるわけ??」
「君たちが先に僕たちのことを言ってきたじゃありませんか!!」

 別のところでもバチバチとやり合っているらしい。口が止まらないみたいだ。
 アイツもアイツで人気なのかと他人事のように思った。実際そうなんだけど。口はあんまり良くないし、意地悪だし、平気で人のこと見捨てるし、どこが良いのか不思議だ。やはり顔が整っているからだろうか。成績が優れているからだろうか。わからない。
 奥村先輩は人当たりが良いし、親切だし、優しいから人気なのはわかる。それに成績も優秀で組みたい人はたくさんいると予想ができた。アイツに人が押し寄せるくらい人気なのは予想外だったけれど。

「カフェが終わったら話せる時間あるかなぁ~」

 そう小さく呟いた。教室内も人がほとんど出払っているので、誰にも聞こえてはいないはずだ。人の海に入ったところで押し流されるだけ。落ち着いて話せる時に話そうと思う。

「奥村! 組めー!!」
「風間くん! どこ行くのー!!」
「あっ!! 待てぇぇぇぇ!!!」
「私たちとチームに!!」
「うるせー!! 教室移動だってのっ!! お前ら
邪魔!! どけっ!!」

 一人逃走したようだ。それを走って追いかけるたくさんの足音が響き渡る。大きな声もね。アイツが走り出したことで、少しは人が減ったようだけれど、奥村先輩から目当ての人がまだ大勢いる。そのため、廊下にはまだまだ人が残っているようだ。

「こいつは俺らと組むんだ!」
「私たちとに決まってるでしょ!!」

 肝心の当人たちの声は大勢の声にかき消されているため、全く聞こえてこなかった。先程のアイツの声は叫んでいたこともあって、たまたま聞こえてきたものだったのだと思う。
 チャイムが鳴り、先生の注意があるまで、勧誘の騒ぎは続いた。

「メンバーを集めるためとはいえ、時間確認は怠らない!! 授業は遅れないように!! さっさと散る!!」

 鶴の一声。これに生徒たちは反応して慌ただしく走っていった。

「廊下は走らない!!」

 先生に注意され、授業の開始時刻になっている状況に焦っているだろうから、その声は届いていなさそうだ。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

【完結済】自由に生きたいあなたの愛を期待するのはもうやめました

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
 伯爵令嬢クラウディア・マクラウドは長年の婚約者であるダミアン・ウィルコックス伯爵令息のことを大切に想っていた。結婚したら彼と二人で愛のある家庭を築きたいと夢見ていた。  ところが新婚初夜、ダミアンは言った。 「俺たちはまるっきり愛のない政略結婚をしたわけだ。まぁ仕方ない。あとは割り切って互いに自由に生きようじゃないか。」  そう言って愛人らとともに自由に過ごしはじめたダミアン。激しくショックを受けるクラウディアだったが、それでもひたむきにダミアンに尽くし、少しずつでも自分に振り向いて欲しいと願っていた。  しかしそんなクラウディアの思いをことごとく裏切り、鼻で笑うダミアン。  心が折れそうなクラウディアはそんな時、王国騎士団の騎士となった友人アーネスト・グレアム侯爵令息と再会する。  初恋の相手であるクラウディアの不幸せそうな様子を見て、どうにかダミアンから奪ってでも自分の手で幸せにしたいと考えるアーネスト。  そんなアーネストと次第に親密になり自分から心が離れていくクラウディアの様子を見て、急に焦り始めたダミアンは───── (※※夫が酷い男なので序盤の数話は暗い話ですが、アーネストが出てきてからはわりとラブコメ風です。)(※※この物語の世界は作者独自の設定です。)

処理中です...