猫は恋したので、カフェに行く(仮)

月詠世理

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番外編①

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 椅子ごと縄でぐるぐる巻きにされている人がいる。ボロボロと涙を流して謝っていた。それが落ち着いた頃。

「さて、帰るか」

 夕羽が声を上げた。それに合わせて、皆が教室から退出しようと扉に向かっているところ、騒がしい声が。

「待って!? 平然と僕のこと置いていこうとしないで!? え? 僕ずっとこのまま?」

 少しガラガラ声のような気もするけれど、泣いていたとは思えないほどの大きな声であった。

「ミッチーのせいで連絡先変えなきゃじゃん! 金かかったら後で請求するから」
「ゆっちゃん! 無視しないで!」

 呼ぶ声は聞こえていないとでもいうように、スタスタと外へ行ってしまった。

「連絡先を不特定多数に配るなんてことするからですよ」
「さっちゃんまで」

 教室から出ていく山城先輩の姿があった。連絡先で人を呼び込むという恐るべきことをした石英さん。それが発覚した時は、夕羽と奥村先輩に圧力をかけられ、椅子が倒れても起こされることなく、身動き一つ取れずにブルブルと震えていた。何度も謝罪をしていたが、他のこともあり、なかなか威圧感が消えることはなかった。たぶん、これから先と石英さんがやったことは許されることはないだろう。二人に去られて、奥村先輩にすがるような視線を向けるも。

「そこでしばらく反省してください」

 すげなく断られていた。ニッコリとした微笑みで、教室から出ていく。残ったのは私と石英さんだ。

「ねぇ、僕、石英道セキエイミチ。君、猫宮さんっていうんだよね? 君のせいで、こんなことになったんだから助けてよ」

 助けを求められている感じがしなかった。私のせいというより自らの行いのせいではと思う。ひとまず、教えてもらったので、あれはしっかりしないと。緊張して名前を言い忘れることもあるけれど。

「あ、あらためまして、はじめまして。私は猫宮かえで、です」
「うん、かえちゃんね。で、助けてくれるの? それとも、助けてくれないの?」

 二択を迫られているが、実質断ることができない雰囲気であった。

「私ではその頑丈に巻かれた縄を解くのは無理です」
「えー? 魔法を使って解いてよ」
「それ、魔法を封印する縄ですよね? 魔法を使ったところで効き目はなさそうですよ」

 二人して黙ってしまった。石英さんの顔色が真っ青になっている。

「え? もしかして、僕一生このまま? まともに生活できないよ!?」
「皆を呼んできますか?」
「そんなことする必要ないよ」
「えっと?」

 石英さんのことを置いていきたかったのではないだろうか。声がした方を振り向くと先程教室から退出していった皆いた。目を見開く石英さん。意地悪そうに笑う夕羽。

「ミッチー、驚かせるの成功したね」
「ゆっちゃん、道の縄解きに戻ってきてくれたんじゃないの!?」
「え? 解きにきたよ? ミッチーいなきゃはじまらないのもあるし」
「あ、そういう……」

 善意だけではない理由に落ち込んでいるようだ。

「夕羽は優しいね。僕はこのまま外に放置しておきたいよ。椅子が学園の備品じゃなければできたのにさ」
「りっちゃん、怖っ!!」

 冷たい笑みを浮かべる奥村先輩を引いた様子で見ている石英さん。

「椅子の作製でも頼んだら? そうすれば、放置できるかもよ?」
「すぐにできるわけじゃないと思うし、今日は諦めます」

 山城先輩の提案で閃いた様子であったが、無理そうだと考えたのか非常に残念そうな表情を浮かべている。

「おい、さっさと解くぞ!」
「そうだね。さっさと終わらせて、今度こそ置いていこう」

 そうしてはじめた縄解きであるが、思ったよりも苦戦していた。頑丈にしすぎたがゆえだろう。夕羽は雑な感じであったが、奥村先輩は器用なようであった。途中から山城先輩と私も協力して、なんとか皆で縄を解くことはできた。
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