28 / 41
執事とご主人様(28話)
しおりを挟む
ある部屋で。
豪華な椅子に足を組んで座っている顔の見えない人と執事服を着た黒い前髪で顔が隠れている人がいた。椅子に座っている人は近くにある机を叩く。イライラしている様子であった。
「ちょっと、どういうこと!? ちゃんと連れて来いって言ったじゃない!!」
「申し訳ありません」
すっと姿勢を正して、頭を下げた。強張った表情を浮かべていた。
「謝ったってお前が失敗したことが取り消せるわけないでしょ! この役立たず!! あのカフェであの泥棒猫に文句言うくらいしかできなかったわ」
机の上に乗っていたお皿などを手当たり次第取って投げる。ガチャンッと叩きつけられた音などが響いた。
「お、落ち着いてください。ただいま――」
「うっさいわね。ぐず! 口を挟むな。お前は誰のもの?」
「ご、ご主人様のものです」
「じゃあ、出しゃばるな。許可なく自分の行動を決めようとするな。また、お家の方々に躾られたいの? 役立たずのゴミはそれくらいしないとだめなのかもね。言ったこともまともにこなせないんだ
もの」
不気味な笑みを浮かべていた。また、クスクスと楽しそうな笑い声もあった。目を細めて、執事服を身に纏っている人を見る。
「お前、誰を見下ろしているの? しゃがめ。地べたに這いつくばって謝るところでしょう? 頭が高いのよ」
椅子に座っている人の前に行き、言われた通り、地に膝をつけて、床に額をつけた執事服の人。その頭をぐりぐりと踏みつける座っている人。くぐもった声が漏れるが、それが聞こえていないのか気にしていない。
「あの方々たちは皆のものだというのに、ぽっと出てきた子がお近づきになるなんてなんて図々しいの!! カフェのスタッフにまでなるなんて。邪魔でしかない。だから、どんな手を使っても排除してやる。あの生意気な女は」
ぜえぜえと息を吐いていた。どうやら興奮しすぎたらしい。背もたれに体を預けて、肘をかける。目をつぶり、じっとしていた。力を入れていた足の動きも鈍る。
「はぁ、今頃バレていてもおかしくないわね。お金を裏切らない金好きを利用したけれど」
「――様、発言のお許しをいただけませんか?」
「あはっ! ごめんごめん! 踏みっぱなしだった。もう立ってもいいわよ。それで何か言いたいことでもあるの? 言ってみなさい」
「ありがとうございます」
静かに立ち上がる。憂いや怒りの感情が面に出るかと思われたが、平然とした様子であった。
「それで何?」
「ご主人様のことは知られないと思いますよ。足がつくとしたら――」
「お前のことを言っているに決まっているでしょ? この愚鈍。動きもとろいし。使えそうなのもあったけどさ。捨ったら最後まで面倒見ないとじゃん。でも、足手纏いはいらないんだよね。だ・か・
ら・ね?」
唇が動く。執事姿をしている人は目を見開いた。ぱちりと瞬きをする。目から少しずつ輝きが失われていった。
「どいつもこいつも言われたことできないしさ、お前ぐらいはぶつかっていってくれないと。あの泥棒猫を呼ぶのが無理ならそれくらいしないとね。人前を避けろとか言わないから好きにやりなよ」
席を外す。残ったのは、焦点の合わない濁った目をしている人だけ。
豪華な椅子に足を組んで座っている顔の見えない人と執事服を着た黒い前髪で顔が隠れている人がいた。椅子に座っている人は近くにある机を叩く。イライラしている様子であった。
「ちょっと、どういうこと!? ちゃんと連れて来いって言ったじゃない!!」
「申し訳ありません」
すっと姿勢を正して、頭を下げた。強張った表情を浮かべていた。
「謝ったってお前が失敗したことが取り消せるわけないでしょ! この役立たず!! あのカフェであの泥棒猫に文句言うくらいしかできなかったわ」
机の上に乗っていたお皿などを手当たり次第取って投げる。ガチャンッと叩きつけられた音などが響いた。
「お、落ち着いてください。ただいま――」
「うっさいわね。ぐず! 口を挟むな。お前は誰のもの?」
「ご、ご主人様のものです」
「じゃあ、出しゃばるな。許可なく自分の行動を決めようとするな。また、お家の方々に躾られたいの? 役立たずのゴミはそれくらいしないとだめなのかもね。言ったこともまともにこなせないんだ
もの」
不気味な笑みを浮かべていた。また、クスクスと楽しそうな笑い声もあった。目を細めて、執事服を身に纏っている人を見る。
「お前、誰を見下ろしているの? しゃがめ。地べたに這いつくばって謝るところでしょう? 頭が高いのよ」
椅子に座っている人の前に行き、言われた通り、地に膝をつけて、床に額をつけた執事服の人。その頭をぐりぐりと踏みつける座っている人。くぐもった声が漏れるが、それが聞こえていないのか気にしていない。
「あの方々たちは皆のものだというのに、ぽっと出てきた子がお近づきになるなんてなんて図々しいの!! カフェのスタッフにまでなるなんて。邪魔でしかない。だから、どんな手を使っても排除してやる。あの生意気な女は」
ぜえぜえと息を吐いていた。どうやら興奮しすぎたらしい。背もたれに体を預けて、肘をかける。目をつぶり、じっとしていた。力を入れていた足の動きも鈍る。
「はぁ、今頃バレていてもおかしくないわね。お金を裏切らない金好きを利用したけれど」
「――様、発言のお許しをいただけませんか?」
「あはっ! ごめんごめん! 踏みっぱなしだった。もう立ってもいいわよ。それで何か言いたいことでもあるの? 言ってみなさい」
「ありがとうございます」
静かに立ち上がる。憂いや怒りの感情が面に出るかと思われたが、平然とした様子であった。
「それで何?」
「ご主人様のことは知られないと思いますよ。足がつくとしたら――」
「お前のことを言っているに決まっているでしょ? この愚鈍。動きもとろいし。使えそうなのもあったけどさ。捨ったら最後まで面倒見ないとじゃん。でも、足手纏いはいらないんだよね。だ・か・
ら・ね?」
唇が動く。執事姿をしている人は目を見開いた。ぱちりと瞬きをする。目から少しずつ輝きが失われていった。
「どいつもこいつも言われたことできないしさ、お前ぐらいはぶつかっていってくれないと。あの泥棒猫を呼ぶのが無理ならそれくらいしないとね。人前を避けろとか言わないから好きにやりなよ」
席を外す。残ったのは、焦点の合わない濁った目をしている人だけ。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

十分我慢しました。もう好きに生きていいですよね。
りまり
恋愛
三人兄弟にの末っ子に生まれた私は何かと年子の姉と比べられた。
やれ、姉の方が美人で気立てもいいだとか
勉強ばかりでかわいげがないだとか、本当にうんざりです。
ここは辺境伯領に隣接する男爵家でいつ魔物に襲われるかわからないので男女ともに剣術は必需品で当たり前のように習ったのね姉は野蛮だと習わなかった。
蝶よ花よ育てられた姉と仕来りにのっとりきちんと習った私でもすべて姉が優先だ。
そんな生活もううんざりです
今回好機が訪れた兄に変わり討伐隊に参加した時に辺境伯に気に入られ、辺境伯で働くことを赦された。
これを機に私はあの家族の元を去るつもりです。

【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)
野村にれ
恋愛
番(つがい)の物語。
※短編集となります。時代背景や国が違うこともあります。
※定期的に番(つがい)の話を書きたくなるのですが、
どうしても溺愛ハッピーエンドにはならないことが多いです。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

私は王子の婚約者にはなりたくありません。
黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。
愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。
いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。
そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。
父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。
しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。
なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。
さっさと留学先に戻りたいメリッサ。
そこへ聖女があらわれて――
婚約破棄のその後に起きる物語

愚か者の話をしよう
鈴宮(すずみや)
恋愛
シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。
そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。
けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる