猫は恋したので、カフェに行く(仮)

月詠世理

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執事とご主人様(28話)

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 ある部屋で。
 豪華な椅子に足を組んで座っている顔の見えない人と執事服を着た黒い前髪で顔が隠れている人がいた。椅子に座っている人は近くにある机を叩く。イライラしている様子であった。

「ちょっと、どういうこと!? ちゃんと連れて来いって言ったじゃない!!」
「申し訳ありません」

 すっと姿勢を正して、頭を下げた。強張った表情を浮かべていた。

「謝ったってお前が失敗したことが取り消せるわけないでしょ! この役立たず!! あのカフェであの泥棒猫に文句言うくらいしかできなかったわ」

 机の上に乗っていたお皿などを手当たり次第取って投げる。ガチャンッと叩きつけられた音などが響いた。

「お、落ち着いてください。ただいま――」
「うっさいわね。ぐず! 口を挟むな。お前は誰のもの?」
「ご、ご主人様のものです」
「じゃあ、出しゃばるな。許可なく自分の行動を決めようとするな。また、お家の方々に躾られたいの? 役立たずのゴミはそれくらいしないとだめなのかもね。言ったこともまともにこなせないんだ
もの」

 不気味な笑みを浮かべていた。また、クスクスと楽しそうな笑い声もあった。目を細めて、執事服を身に纏っている人を見る。

「お前、誰を見下ろしているの? しゃがめ。地べたに這いつくばって謝るところでしょう? 頭が高いのよ」

 椅子に座っている人の前に行き、言われた通り、地に膝をつけて、床に額をつけた執事服の人。その頭をぐりぐりと踏みつける座っている人。くぐもった声が漏れるが、それが聞こえていないのか気にしていない。

「あの方々たちは皆のものだというのに、ぽっと出てきた子がお近づきになるなんてなんて図々しいの!! カフェのスタッフにまでなるなんて。邪魔でしかない。だから、どんな手を使っても排除してやる。あの生意気な女は」

 ぜえぜえと息を吐いていた。どうやら興奮しすぎたらしい。背もたれに体を預けて、肘をかける。目をつぶり、じっとしていた。力を入れていた足の動きも鈍る。

「はぁ、今頃バレていてもおかしくないわね。お金を裏切らない金好きを利用したけれど」
「――様、発言のお許しをいただけませんか?」
「あはっ! ごめんごめん! 踏みっぱなしだった。もう立ってもいいわよ。それで何か言いたいことでもあるの? 言ってみなさい」
「ありがとうございます」

 静かに立ち上がる。憂いや怒りの感情が面に出るかと思われたが、平然とした様子であった。

「それで何?」
「ご主人様のことは知られないと思いますよ。足がつくとしたら――」
「お前のことを言っているに決まっているでしょ? この愚鈍。動きもとろいし。使えそうなのもあったけどさ。捨ったら最後まで面倒見ないとじゃん。でも、足手纏いはいらないんだよね。だ・か・
ら・ね?」

 唇が動く。執事姿をしている人は目を見開いた。ぱちりと瞬きをする。目から少しずつ輝きが失われていった。

「どいつもこいつも言われたことできないしさ、お前ぐらいはぶつかっていってくれないと。あの泥棒猫を呼ぶのが無理ならそれくらいしないとね。人前を避けろとか言わないから好きにやりなよ」

 席を外す。残ったのは、焦点の合わない濁った目をしている人だけ。
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