猫は恋したので、カフェに行く(仮)

月詠世理

文字の大きさ
上 下
25 / 41

問い詰める(25話)

しおりを挟む
 山城先輩が椅子ごとぐるぐる巻きにされている人に近づいた。

「あなたの推しがあなたのことを大嫌いと言ってました。もう二度と来ないでください、だそうです」

 これを聞いた石英さんは顔を勢いよく上げ、起きた。

「ねぇ!? それホント!? え? マジ?」

 目覚めたばかりだが元気な様子。騒がしいくらいだ。たぬき寝入りでもしていたのかと疑うが、眠らせたのは夕羽だし、道中に起きる気配もなかったし、それはないだろうと結論が出る。必死な様子の石英さんの質問。

「知りません」

 山城先輩が淡々とした答えていた。

「さーちゃん、冗談でもそんな怖いこと言っちゃだめだよ。知らないならホントやめてね!?」
「真実にするので問題ありません」
「真顔で問題しかねーこと言うな!」

 涙目になりながら意見した石英さんに追い打ちをかけるように声をかけた奥村先輩。その先輩の言葉に鋭い突っ込みがされた。
 ふと、寒気でもしたのか、夕羽のトゲトゲしい視線に気づいて、息を呑む石英さん。

「ミッチー次第で現実にもなるし、夢にもなる。だから、洗いざらい吐きなよ」

 推しに嫌われるとメンタルがやられるのかもしれない。そういうことはわたしにはわからないけれど、好きな人に嫌われるのは傷つくよね。それが現実になるかもしれないなんて気分が落ち込むよ。
 体全体を使ってガタガタと椅子を揺らしながら抗議する石英さん。

「さっちゃん、りっちゃんに続き、ゆっちゃんまで。このみちが何をしたって言うんだ!! 悪ふざけは良くないぞ。いじめならなお良くない」
「知らないフリですか? 心当たりありますよね?」
「そんなのあるわけねーでしょ。ホントになんも知りません。早くこの縄外してよ。学園のアイドルに会いに行ける時間が過ぎちゃうじゃないか!」

 縄から抜け出そうとする石英さん。それを冷ややかに見つめる私以外の人。
 夕羽からの情報によると、カフェの様々なトラブルはこの人のせいらしいが、知らないと否定している。この人は利用されただけで、自らの意思でやっていない可能性もあるのだろうか。

「信じられないので、あなたが推しに会いに行ける予定は今のところナイです」
「正直に話してくだされば、その縄をほどくことを考えます」
「推しを選ぶか、依頼人を選ぶか」
「なんでよっ! みんな信じてって! 道はホントに何もしてないの。無罪。無罪を主張する。ほら、そこの子も何か言って」

 私に話を振られても困る。首を左右に振って拒否すると、疲しそうな表情をされた。捨てないで、と言っているようで。

「猫宮さん、ソレに構うことはないです。あれの用意を」

 石英さんに傾きかけた気持ちが山城先輩の言葉によって、皆側へ戻ってくる。私を味方にしようとしたのだろうが、上手くいくことはなかった。危なかった。夕羽が声に出してはいないけれど、アホ、と口を動かしてるのが見えた。それにたじたじとなるが、今回はどう考えても私が悪いよなと思う。

 机に近づく私。お昼休憩の時に、こんなのあったかなと思うような大きな紙袋と小さな紙袋が複数置かれていた。その一つの袋の中に私は手を入れ、触れたものを取り出す。片手では難しかったので、両手を使って。出てきたのは、箱に入ったミニフィギュアみたいなものだった。

「あっ!? それ!! なんで!?」
「あなたは金と推しの味方。だから、素直に言いたいことが言えるように僕たちがあなたの部屋から持って来ました」
「りっちゃんの悪魔! プレミアム品も持って来てないよね? 僕が大事に大事に保管してるものとか!!」
「目についたもの片っ端から持ってきたからわかんね。ゴメンナ、ミッチー」
「謝るならやるなよ、ゆっちゃん。それに、こんなことが許されるわけがない!」
「ミッチーのルームメイトの人が許してくれたし、許されるでしょ。あ、俺たちミッチーにお願いされて持ち出すことになったって言ったから責めんなよ」

 石英さんの目が泳ぎ出した。日は動いているが、縄から抜けるのに動かしていた体は止まっている。

「そ、そこの君。それ、丁重に扱ってよ。壊されたらガチでなくからね!?」
「それはあなた次第です。嘘をついたらここにある品は燃えるか、塵になるか、売られるか、潰されるかします。あっ、試すとこんな感じです。奥村くん」

 先輩がいつの間にかポスターを取っていたらしい。それが燃やされた。

「ギャーーーー!!!!」

 ショックで悲鳴を上げて、暴れていた。そのせいで、椅子ごと倒れた。

「ミッチー大丈夫?」
「ゆっちゃん、これが大丈夫に見えるのか? 僕の心はボロボロだぞ?」
「先輩、大丈夫だって。それに、ちゃんと息してる」
「倒れる前に衝撃が軽くなるようにしておいたし、どこか痛むってことはないと思うよ。ここに連れてくるまでの夕羽にやられた傷は酷いけど」

 夕羽と奥村先輩は倒れた椅子を立てた。ボロボロと泣き出した石英さん。

「胸が痛いっつーの!!」

 大声で先輩に言葉を返していた。

「あなたが嘘を吐く度にあなたが汗水垂らしてかき集めたグッズがどうなるか理解できたでしょう。これからの質問に嘘偽りなく答えてくださいね? 一つ目、妖精の隠れ家に何かしましたか?」
「な、なんもしてないってさっきから……」

 先程の元気な様子はなく、怯えている感じの石英さん。震える声で返事をしたものの私が持っていた箱が山城先輩に持ち上げられて、床に落とされた。そして、箱ごと潰される。
 予想通り、「ギャー」という大きな悲鳴が上がった。

「猫宮さん、じゃんじゃん持って来て。奥村くんも風間くんも遠慮はいらないから、好きにやりなさい」

 これがまだまだ続くとか控えめに言っても言わなくても地獄でしかない。石英さんのグッズは最後には何が残るのだろうか。この勢いだと全てなってそうな気もする。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

十分我慢しました。もう好きに生きていいですよね。

りまり
恋愛
三人兄弟にの末っ子に生まれた私は何かと年子の姉と比べられた。 やれ、姉の方が美人で気立てもいいだとか 勉強ばかりでかわいげがないだとか、本当にうんざりです。 ここは辺境伯領に隣接する男爵家でいつ魔物に襲われるかわからないので男女ともに剣術は必需品で当たり前のように習ったのね姉は野蛮だと習わなかった。 蝶よ花よ育てられた姉と仕来りにのっとりきちんと習った私でもすべて姉が優先だ。 そんな生活もううんざりです 今回好機が訪れた兄に変わり討伐隊に参加した時に辺境伯に気に入られ、辺境伯で働くことを赦された。 これを機に私はあの家族の元を去るつもりです。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

邪魔しないので、ほっておいてください。

りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。 お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。 義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。 実の娘よりもかわいがっているぐらいです。 幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。 でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。 階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。 悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。 それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!

処理中です...