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猫になったが戻る(24話)
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お昼休憩時に過ごした教室まで夕羽が石英さんを引きずってきた。途中階段があって、――痛そうな音がしていたことだけ話しておく。
眠っている石英さんを見た先輩方は嬉々とした様子だった。椅子に座らせて、縄でぐるぐる巻きにしていた。頑丈にされていて抜け出すのは不可能だと思われる。念のため、魔法封印がほどこされた縄にしているそうだ。魔法が使えないように。
「あれ? そういえば、かえでちゃんは?」
「ほんとだ。猫宮さんがいないけど何かあったの?」
「心配せずともここにいますよ。アホなことをして今これです」
灰色の猫の私が夕羽に抱かれて皆の前に出された。抜け出そうと暴れる。
「猫宮さんって戦人だったのね。可愛い」
「夕羽嫌がっているようだし、離してあげたら?」
「やだ、コレ、俺の」
お前のものじゃない、と思っていても口から漏れるのは猫の鳴き声。人の姿になるのを邪魔されていて戻れないのもあり、ムカつく。お前、どれだけ猫が好きなんだよ。もがいて抜け出そうとしたが、力が強くて抜け出すことはできなかった。
「その様子じゃ撫でるのは無理そうね。それで? アホなことって何のこと?」
「ミッチーの手首とコイツの手首に手錠をつけたんです。壊れたけど」
夕羽は石英さんの手首を指した。そこから下がっているもう一つの輪っかがすでにないことがわかる。
「風間くん。逃げられないようにするんだから人と人もありな代物よ。設定次第で磁石みたいに引き寄せ合うこともできるし」
「ズルズルと力で引きずられていくのは見ました。そんな機能があったようには思えないです。磁石の性質を持つものなら、眠らせることなく、コイツがこの教室に来た時に引っ張ることができるのでは?」
右手と右足を掴まれて遊ばれている私。噛もうと口を開くと手を引っ込められて避けられた。夕羽に良いようにされている。早く飽きてくれないだろうか。
「……非常に申し訳ないことに渡したものは試作品だったみたい。完成品には設定しておいたから。でも、良かったわ。完成品の鍵はあるけど、試作品の鍵はないもの」
「えっ?」
「え!?」
「ニャッ!?」
奥村先輩も夕羽も私も驚きの声を上げた。話しにくそうに口に出した言葉はある意味で恐ろしかった。猫になっていなかったら、一生あの人とつながれていたということもあっただろう。夕羽ナイス。もう無闇に手錠なんて使わない。
「ほんとにかえでちゃんの手錠が壊れてて良かったよ」
安堵した様子の奥村先輩。頭を撫でられた。驚きのあまり動きが止まっていたこともあり、その隙をついて近づいてきたのだろう。先輩の手に頭を押し付ける。その様子にハッと気づいた夕羽が私を引き寄せた。もっと先輩に撫でて欲しかったのに、と思って切ない鳴き声が漏れた。
「別に取ろうとなんてしてないんだから、撫でるくらいいいじゃないか。それに、かえでちゃん、僕にもっと撫でられたいみたいだったし、もう少しだけ」
「俺のだからダメ! なんでこんな節操なしなんだ。もうお前とっとと人の姿に戻れよ」
理不尽。私を人の姿に戻さないように邪魔していたのはお前だろと強く鳴いた。それに不名答なことも言われたし。誰彼構わず近づいて撫でてもらったことなんてない。撫でられるのあんまり好きじゃないんだから。私は夕羽の手を引っ掻いた。それによほどイラっときたのだろう。ポイッと投げられ、皆から離れたところに。
危ないんだけど。あいつ、なんなんだと思った。私は瞬時に人の姿になる。
「あー、戻っちゃった」
「イテーよ。引っ掻くなつーの」
奥村先輩は残念そうな反応をしていた。アイツは文句を言っているから無視に限る。忌々しいとでもいうように睨まれたけど、お前が悪いんだから。
それにそろそろ石英さんをどうにかしないとだし。
「あー、羨ましい。――はい! 猫はいつでも振でられる! 問題はこっちだから。集中して。石英のこと起こすよ。まずは電気ショックから」
ビリビリと音がした。危ないから真似はしないし、人に向けないようにしよう。これで起きない石英さんはすごいなと変な感心をしてしまったけれど。
「山城先輩、それじゃ起きないですよ。うるさい音を立てて起こそうとしても無駄です。今日は行くところがあったようなので、そちらで攻めてみてはどうでしょうか?」
騒音でも起きないのに、起こす方法があるのだろうか。
眠っている石英さんを見た先輩方は嬉々とした様子だった。椅子に座らせて、縄でぐるぐる巻きにしていた。頑丈にされていて抜け出すのは不可能だと思われる。念のため、魔法封印がほどこされた縄にしているそうだ。魔法が使えないように。
「あれ? そういえば、かえでちゃんは?」
「ほんとだ。猫宮さんがいないけど何かあったの?」
「心配せずともここにいますよ。アホなことをして今これです」
灰色の猫の私が夕羽に抱かれて皆の前に出された。抜け出そうと暴れる。
「猫宮さんって戦人だったのね。可愛い」
「夕羽嫌がっているようだし、離してあげたら?」
「やだ、コレ、俺の」
お前のものじゃない、と思っていても口から漏れるのは猫の鳴き声。人の姿になるのを邪魔されていて戻れないのもあり、ムカつく。お前、どれだけ猫が好きなんだよ。もがいて抜け出そうとしたが、力が強くて抜け出すことはできなかった。
「その様子じゃ撫でるのは無理そうね。それで? アホなことって何のこと?」
「ミッチーの手首とコイツの手首に手錠をつけたんです。壊れたけど」
夕羽は石英さんの手首を指した。そこから下がっているもう一つの輪っかがすでにないことがわかる。
「風間くん。逃げられないようにするんだから人と人もありな代物よ。設定次第で磁石みたいに引き寄せ合うこともできるし」
「ズルズルと力で引きずられていくのは見ました。そんな機能があったようには思えないです。磁石の性質を持つものなら、眠らせることなく、コイツがこの教室に来た時に引っ張ることができるのでは?」
右手と右足を掴まれて遊ばれている私。噛もうと口を開くと手を引っ込められて避けられた。夕羽に良いようにされている。早く飽きてくれないだろうか。
「……非常に申し訳ないことに渡したものは試作品だったみたい。完成品には設定しておいたから。でも、良かったわ。完成品の鍵はあるけど、試作品の鍵はないもの」
「えっ?」
「え!?」
「ニャッ!?」
奥村先輩も夕羽も私も驚きの声を上げた。話しにくそうに口に出した言葉はある意味で恐ろしかった。猫になっていなかったら、一生あの人とつながれていたということもあっただろう。夕羽ナイス。もう無闇に手錠なんて使わない。
「ほんとにかえでちゃんの手錠が壊れてて良かったよ」
安堵した様子の奥村先輩。頭を撫でられた。驚きのあまり動きが止まっていたこともあり、その隙をついて近づいてきたのだろう。先輩の手に頭を押し付ける。その様子にハッと気づいた夕羽が私を引き寄せた。もっと先輩に撫でて欲しかったのに、と思って切ない鳴き声が漏れた。
「別に取ろうとなんてしてないんだから、撫でるくらいいいじゃないか。それに、かえでちゃん、僕にもっと撫でられたいみたいだったし、もう少しだけ」
「俺のだからダメ! なんでこんな節操なしなんだ。もうお前とっとと人の姿に戻れよ」
理不尽。私を人の姿に戻さないように邪魔していたのはお前だろと強く鳴いた。それに不名答なことも言われたし。誰彼構わず近づいて撫でてもらったことなんてない。撫でられるのあんまり好きじゃないんだから。私は夕羽の手を引っ掻いた。それによほどイラっときたのだろう。ポイッと投げられ、皆から離れたところに。
危ないんだけど。あいつ、なんなんだと思った。私は瞬時に人の姿になる。
「あー、戻っちゃった」
「イテーよ。引っ掻くなつーの」
奥村先輩は残念そうな反応をしていた。アイツは文句を言っているから無視に限る。忌々しいとでもいうように睨まれたけど、お前が悪いんだから。
それにそろそろ石英さんをどうにかしないとだし。
「あー、羨ましい。――はい! 猫はいつでも振でられる! 問題はこっちだから。集中して。石英のこと起こすよ。まずは電気ショックから」
ビリビリと音がした。危ないから真似はしないし、人に向けないようにしよう。これで起きない石英さんはすごいなと変な感心をしてしまったけれど。
「山城先輩、それじゃ起きないですよ。うるさい音を立てて起こそうとしても無駄です。今日は行くところがあったようなので、そちらで攻めてみてはどうでしょうか?」
騒音でも起きないのに、起こす方法があるのだろうか。
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