猫は恋したので、カフェに行く(仮)

月詠世理

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猫になる(23話)

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 手錠が邪魔だ。鍵を所有しているのは山城先輩だけなので、外せそうにない。壊れない特別なものらしいし。石英さんを眠らせるのであれば、手錠をつける必要はなかったように思う。この後、どうやってこの呑気に寝ている人を運べば良いのか。寝ている人を移動させるのは労力がかかる。
 抵抗する人よりは楽に運べそうだけれど。大変なのには変わりなさそう。

「ねぇ、これどうするの? 手錠をつけたまま運ぶとなると私の手首が悲惨なことになりかねないし。壊れないのが売りであるコレだけはダメージなく、無事そうだけど」

忌々しげに手錠を見てしまった。私自身が使った結果なので、道具は悪くないのだが。

「本当にそれを使うやつがあるか! それは山城先輩が柱などの動かない物にミッチーをつないでおくように作らせたものだぞ。そうすれば、簡単に逃げられないし、そのまま放置できるし」

 私の使い方は本来のものと違っていたようだ。そうかといってい近くに手錠をはめられそうな物はなかったけれど。あの話の流れからいくと、私と石英さんをつないで逃げられないようにするものだと勘違いするよ。

「アホだな。 そうだっ! お前、猫になれ。それ、自動で対象に合わせてサイズが調節されるらしいけど、猫の姿ならミッチーの体を踏み台にできるし、問題なさそうじゃん」

 薄いベールのようなものが私たちを包んだ。人に見られることがないよう、夕羽なりの配慮だろう。何も言われていないが、早くしろ、と表情が語っており、ジーッと見つめられる、アンタの前で猫になるのは嫌なのに。迷った末で仕方なく任されたことを優先した。

 獣人である私は普段人の姿をしているが、動物の姿になることができる。人の姿のまま動物の耳と尻尾を出す半獣半人になることもできる。生活するにあたり、人の姿でいるのが良いのでこの姿を選んでいる。私は猫の姿を想像し、頭の中で念じた。ポ
フンッという音が鳴ったような気がした。

「ニャニャニャニャニャ」

 私の想像通りであれば、毛並みの美しい小柄な灰色の猫であるもう一つの私の姿になっているはずだ。ただ、難点がある。この姿になると人間の言葉は話せない。猫の鳴き声になる。

「おっ、手錠が壊れたな。猫のサイズの取り扱いはしてなかったらしい。あとで先に言えよ。間違った使い方をしてごめんなさいって。――威嚇すんな。いくぞ」
「ニッ!!」

 わざわざ余計なことを言うな。鳴き声と態度でしか不満を伝えられないので、もどかしい。たまに猫の意識が強く出て人間の言葉がなんとなくしかわからないこともあるし。大人の獣人なら動物の姿になっても私のように意識が引っ張られることなく理性を保っていられるのだろう。本能に忠実になることはありそうだけれど。

「ミギャッ!!?」
「変な声出すなよ」

 急に体を持ち上げられた。肩にしがみつく。その私の様子を見てから、夕羽は石英さんの後ろ襟首をつかんで引きずっていく。

「ニャーニャー」
「歩けるから下ろせって? やだよ。どっか行かれて探すことになるの俺じゃん! だから、大人しくしてろよ」
「ニー!!」

 猫の姿になる度に、どこかへ行って行方不明になっているみたいに話すな。尻尾を使って顔をバシバシ叩いてやる。

「うっとおしいだけだからやめろ。落とすぞ?」
「ニャー!!」

 やれるもんならやってみろ。着地くらい楽々できるわ。もし落とされたら、足にこの立派な爪を立ててやってもいいかもしれない。
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