猫は恋したので、カフェに行く(仮)

月詠世理

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帰り道(19話)

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 妖精の隠れ家から寮への帰り道。私は夕羽に腕を掴まれたままだった。

「ちょっと! いつまで引っ張っていく気?」

 指摘したら、急に立ち止まった。それに合わせて私も止まる。くるっと向きを変えた夕羽。視線が腕を掴んでいる手に固定されている。

「あっ」

 気づいたことにより、すぐさま手を離した。呆然としてその手を見つめている。

「そんなにジッと見つめてるけど、手に何かあるの?」

 見下したようなキツイ目線が向けられた。

「お前さっ、マジでうざいな」
「はあ!?」

 尋ねただけで罵倒が浴びせられるとは思ってもいなかった。その理不尽さに不機燥になる。詮索する気はないが、もやもやとした気持ちはあるわけで。

「あいかわらず、意味がわからないやつね。ただ質問しただけで悪口なんて」
「お前はあいかわらず雰囲気を察せないやつだな。あれはそっとしておくとこだっつーの」
「そうなんだね。それはごめん。立ち止まって手を見ているあんたを置いて寮に行けば良かった。そうしたら不審者扱いされていたかもしれないのに……そこまで頭が回らなかったことが残念でならないよ」

 引きつった表情を見せた夕羽。怒りをあらわにして睨みつけられたので、負けずと私も睨み返す。そこで、夕羽はふうっと息を吐いて力を抜いた。

「アホ相手にムキになりすぎるのは良くないよな。アホだし。考えなしのアホだし」
「何度もアホアホ言うな!」
「はっ? ほんとのことだろ?」

 ニヤリと馬鹿にするような笑みを向けられたので、言い返そうと口を開きかける。

「あなたたち、二人だけの世界に入り込まないでくれる? ウチがいるの忘れてない?」

 ピタリッと私たちは動きを止めた。声がした方向を同時に見る。

「や、山城先輩……」
「どう見てもそんな甘い雰囲気はなかったと思いますが、山城先輩。それに陸斗と一緒にいるだろう先輩がなぜここに?」

 変なところを見られてしまった。私は苦笑いを浮かべる。夕羽は冷たい視線を先輩に送っていた。

「おお怖い。そんな目で見ないでよ。険悪な雰囲気になりそうだったからあえてああ言ったのよ。てか、話しかけにくいから言い合いとかやめてくれる?」
「それで? 陸斗と一緒にいたんじゃないんですか?」
「急かさないでよ。――あのねぇ。風間くん。ウチがあの場に長く残らないと思っていたくせにそれを聞くのは酷いわよ。それとやつあたりはほどほどにね」

 山城先報の目が恐ろしい。夕羽の視線とぶつかり合って、この場が冷えてきたような気がした。先輩は口元に笑みを浮かべていて、それが能面のようでさらに恐怖心が増す。

「あー、すいませんでした」

 先輩のおどろおどろしいあの圧に耐えられなかったのだろう。それと悪いところがあったと自覚しているのもあるかもしれない。謝罪した夕羽。それに対し、先輩はため息を吐いた。

「許します」

 凍えるような空気が霧散したので、ほっとする。これにて解決であっているだろうか。丸くおさまってほしい。
 二人の様子が落ち着いているのもあり、問いかけるタイミングとしては今しかない。

「あの~、先輩がカフェに残っていられないとはどういうことでしょうか? それと奥村先輩は一人で大丈夫なんでしょうか?」
「ポンコツが心配することなんてなんもねーよ」
「猫宮さんは気にしないでください。奥村くんなら大丈夫です」

 言い合っていたのに、意気投合でもしているかのような協力プレイをする二人。少しは気まずくなると思っていたのもあり、不思議なものだった。それにしても明らかに探られることを避けているだろう二人。仲間外れにされたようでちょっとムッとする。私が知ってはいけないこともあるのかもしれないけど、隠されると気になるよ。
 ポンコツ呼びは普通にムカつくけどね。

「いいですよ。訳アリなようですし、……お腹空いたので先に行きます」

 私は二人を置いて走った。だから、残った夕羽と山城先輩が話していたことは知らない。

「あれはふてくされてるな。くいしんぼう理由に逃げるとは。誤魔化し方下手くそ」
「探られて困るのはこちらだし、助かったわね。質問されても私たちも知っているわけではないから答えられないし。……あら? 風間くん、猫宮さんのこと可愛いと思ってない? 笑みが浮かんでいるわよ」
「なっ! そんなこと思ってないです!! アホなやつって思ってるだけです!!」
「それならムキになることもないと思うわよ」
「山城先輩、椿先生みたいな顔してますよ?」
「薄気味悪い笑みを浮かべているということ? それは勘弁。――風間くんも誤魔化すの下手よね。騙されてあげるけど」

 とても嫌そうな表情を浮かべていた山城。最後はボソッとした呟きだった。

「何か言いましたか?」
「いいえ?」

 牽制の意味での問いなのか、それとも耳に入ってこなかったからの問いであるのか。それがわかる者はいないだろう。日が落ちて暗い中を黙って二人は歩いた。

「それにしても猫宮さん、足が速いのね。すぐに見えなくなっちゃった」
「小さい頃からですよ」

 こんなほのぼのとした会話も少しはあった。
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