猫は恋したので、カフェに行く(仮)

月詠世理

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助っ人と交代(14話)

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 泣きそうになるのをこらえた。意識しても簡単に気持ちの切り替えはできないものだ。私自身の不甲変なさと先程の言葉で頭がいっぱいで。失敗を恐れるあまり失敗を重ねる悪循環に陥るようなことにはなりたくない。

「お客様、少々失礼いたします。――おい、お前バックヤードに行って陸斗の手伝い。そんなブサイク顔で人前に出られても迷惑」

 やっぱり変な笑顔でもしていたのだろうか。そうだとしても言い方はあると思う。私の背後からやってきたのは、ハニーブラウンの短い髪にシャープな印象のはちみつ色の目をしている人。服装はカフェのもので、黒いシャツに黒いズボンだ。襟元には赤いひもが蝶々結びされていた。

「私は――(ちゃんとできるよ)
「自分の状態を理解しているくせに何言おうとしてるんだ? 今のお前ができるのは引っ込むこと。素直に退けよ。後は俺が対応するから」

 レジから追い出された。暗い気持ちを処理できていないのと精神的にしんどかったのもあり、代わってくれるのはとてもありがたいことだった。私が引き続き対応することなのにね。

「おい、さっさと行け。邪魔だ。――大変お待たせして申し訳ございません。店内をご利用ですか? それともお持ち帰りでしょうか? 現在システムのトラブルが確認されています。そのため、口頭でのご注文をお願いします」

 一般的に精神面を理由に代わってもらえることなんてなかなかないことだと思う。今回は甘えさせてもらう。経験を積んで今度は対処できるようにしよう。それにしても、アイツの切り替えが早い。客商売でモタモタしているわけにもいかないけれど。私は言われた通り、裏へ行くことにする。

「あ、かえでちゃん。お疲れ様」
「お疲れ様です」

 裏へ人ると、そこで作業をしている奥村先輩がいた。他には、洗い物をする自動機械人形オートマタがいた。それには食器類の回収や机拭きなどをするのもいる。

「休憩はあげられないけど、人前に出てるよりは疲労も軽減されるでしょ。僕、温かい飲み物を用意したり、食品を作ったりで手が寒がってるから、かえでちゃんは冷たい飲み物作ってくれるかな?」
「はい、お気道いありがとうございます。ただ、抽出の時間を待っている間はケーキなどの用意はできますから何かあれば指示をお願いします」
「丁解」

 このカフェのメニューは少なめではある。飲み物の種類が八種類にケーキが四~五種類、アイスクリームが二種類だ。他に、ドーナツ六種類もある。
期間限定品がある時にメニューは増えるが、普段は決まっているものだ。
 ジュース系の飲み物はあらかじめ作られているもので準備に時間がかかることはほとんどないが、紅茶系のものだと抽出する必要があり、用意する時間がいる。そのため、提供するのに準備している分を冷蔵庫に入れておき、それがなくなってきたら改めて作るのだ。これは冷たい飲み物紅茶の話。

 今回は多めにストックが作られていたようで助かっていたと思う。トラブルがあって、山城先輩が椿先生のところに出張しているのもあり、新しいものを準備するのも難しかっただろうから。案外、奥村先輩なら簡単に準備してしまうかもしれないけど。

「何か嫌なこと言われなかった? ホールの仕事代わったやつ、風間多羽かざまゆはっていうんだ。いいやつではあるんだけど口悪いからさ」

 話している間にも作業をしている先輩。私だったら話すか、手を動かすかのどちらかに夢中になってしまうので、見習いたいところだ。

「奥村先輩が心配することはありません。知っているので、大丈夫です」
「え? もしかして、夕羽と知り合い?」

 話すべきか話さないべきか。迷いながらも口を開く。

「……幼馴染です」
「えっ!? そうなんだ! ――かえでちゃん、シュガードーナツ取って」
「はい。持ち帰りですか?」
「ううん、店内」
「じゃあ、お皿に載せますね」
「よろしく」

 それから、紅茶系の飲み物を作るのにセットしておいたタイマーが鳴り響き、各自の仕事に集中していた。それであの話はうやむやになったのだった。新たな助っ人には本当に感謝しかないけど、素直に喜べないのもまた事実。助けてもらったのに、ね。
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