猫は恋したので、カフェに行く(仮)

月詠世理

文字の大きさ
上 下
13 / 41

時に言葉は鋭い刃物(13話)

しおりを挟む
 山城先輩がスタッフルームから帰ってくるのはいつになるのだろうか。アプリが使用できない現状、いつもと勝手が異なって一人を対応するのに時間かかる。作業量も増えており、人手が欲しい。私の手際が悪いだけなのだろうが、アプリが落ちているのは致命的だと思う。

「いらっしゃっいませ。現在、システム停止などの問題がございます。アプリで発行されたコードを保存していない場合は口頭でのご注文をお願いしております。ご了承くださいませ」

 接客と接客の合間で度々大きな声で知らせていた。次に控えている方を驚かせてしまうので、申し訳なく思う。その知らせを聞き、注文せずに帰る人もいれば、提供まで待つ人もいるし、手元に届くまでにどれくらい時間がかかるのか聞く人もいた。中には、怒る人もいたけれど、私は事情を話すことしかできない。

「アプリで先に注文してたのに、内容を伝えないといけないの? エラーで使えないのはそっちの責任でしょ? ちゃんと使えるようにしておきなさいよね。最悪だわ」
「この度はお手数おかけして申し訳ございません。差し支えなければ、ご注文をお願いいたします」
「はぁ、持ち帰りでチーズケーキとExtra エクストラのコーヒー」
「かしこまりました。冷たいものと温かいもの、どちらにいたしますか?」
「冷たいの」
「かしこまりました。ご注文いただいた品々でお値段は千ポイントです。こちらで精算をお願いいたします」

 電子決済する機器に誘導するが、キッと睨みつけられた。

「先にアプリで払ってるわよ!!」
「大変申し訳ございませんが、今回は全てこちらで精算をしていただくようお願い申し上げます。お客様においてはアプリ内で精算を済ませているとのことで、この場合は調査後に返金の対応をする手筈です。こちらのお知らせは後程、当店には貼り紙で、アプリは復旧次第通知をする予定です」

 これで納得してくれたらいいのだけど。険しい表情を見る限り、そう簡単にはいかなさそうだ。

「事前に払ってるんだから二重に払う必要はないでしょ? 返金対応するからいいってものじゃない。いつ返金されるかもわからないのに」
「いつ対応がされるのか心配がございますよね。大変心苦しいのですが、後程調査後に返金という形でして日程の目処は立っておりません」
「そもそも私は払っているのだからここで払う必要がないって言ってるの! わかる?」
「すでにアプリでお支払いいただいていることは承知いたしました。今回はアプリがエラーとなっていることもあり、当店で精算いただけるようご協力をお願いしております」

 お客様が苛立っているのは明らかだ。語尾が強くなり、口調も荒々しいものになっている。丁寧に対応しているつもりだけれど、なかなかに難しい。お客様の要望を通すことはできないのだから。

「あのさ、払え払えってうるさいのよ!! 私はすでに支払っているから払う必要はないって何度言えばわかるの? そういうことなんだよ。だから、早くしてくれない?」
「そうはおっしゃられましても――」
「ホントとろいわ。あんたさ、やめれば? もういいわ。全部キャンセル。融通の利かない残念なところね。所詮、あんたは陸斗目当てで妖精の隠れ家に面接を受けて幸運にもスタッフになれただけの能力なし。迷惑だからさ、仕事できないならやめなよ?」

 おどろおどろしい笑みを浮かべているお客様。慣れてきたとはいえ、こういうトラブルに対処する経験はほとんどなく、未熟なものだ。このカフェに入ろうと思ったのも不当な運由で聞違っていることは何にもない。それなので、お客様の言葉は胸に刺さった。今回は私の対応が良くなかったから、納得しきれずに不満ををかせてしまったのだろう。私の力不足が招いたことだ。

「浮ついた気持ちでそこに立ってるあんたのせいで人が来なくなるかもね」

 この言葉を最後に、去っていった。私のせいで人が来なくなるのは嫌だな。次のお客様もいるため、気持ちを切り替えようとするが、言われた言葉が頭にこびりついて離れない。笑顔を浮かべるも心は曇ったままで。これ以上失敗はできないのだから、今はお客様に集中しないと。

「この度はご迷惑をおかけして申し訳ございません。お待たせいたしました」

 どんな表情をしているのだろか。私自身のことに精一杯で、お客様の顔が見えなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

処理中です...