猫は恋したので、カフェに行く(仮)

月詠世理

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時に言葉は鋭い刃物(13話)

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 山城先輩がスタッフルームから帰ってくるのはいつになるのだろうか。アプリが使用できない現状、いつもと勝手が異なって一人を対応するのに時間かかる。作業量も増えており、人手が欲しい。私の手際が悪いだけなのだろうが、アプリが落ちているのは致命的だと思う。

「いらっしゃっいませ。現在、システム停止などの問題がございます。アプリで発行されたコードを保存していない場合は口頭でのご注文をお願いしております。ご了承くださいませ」

 接客と接客の合間で度々大きな声で知らせていた。次に控えている方を驚かせてしまうので、申し訳なく思う。その知らせを聞き、注文せずに帰る人もいれば、提供まで待つ人もいるし、手元に届くまでにどれくらい時間がかかるのか聞く人もいた。中には、怒る人もいたけれど、私は事情を話すことしかできない。

「アプリで先に注文してたのに、内容を伝えないといけないの? エラーで使えないのはそっちの責任でしょ? ちゃんと使えるようにしておきなさいよね。最悪だわ」
「この度はお手数おかけして申し訳ございません。差し支えなければ、ご注文をお願いいたします」
「はぁ、持ち帰りでチーズケーキとExtra エクストラのコーヒー」
「かしこまりました。冷たいものと温かいもの、どちらにいたしますか?」
「冷たいの」
「かしこまりました。ご注文いただいた品々でお値段は千ポイントです。こちらで精算をお願いいたします」

 電子決済する機器に誘導するが、キッと睨みつけられた。

「先にアプリで払ってるわよ!!」
「大変申し訳ございませんが、今回は全てこちらで精算をしていただくようお願い申し上げます。お客様においてはアプリ内で精算を済ませているとのことで、この場合は調査後に返金の対応をする手筈です。こちらのお知らせは後程、当店には貼り紙で、アプリは復旧次第通知をする予定です」

 これで納得してくれたらいいのだけど。険しい表情を見る限り、そう簡単にはいかなさそうだ。

「事前に払ってるんだから二重に払う必要はないでしょ? 返金対応するからいいってものじゃない。いつ返金されるかもわからないのに」
「いつ対応がされるのか心配がございますよね。大変心苦しいのですが、後程調査後に返金という形でして日程の目処は立っておりません」
「そもそも私は払っているのだからここで払う必要がないって言ってるの! わかる?」
「すでにアプリでお支払いいただいていることは承知いたしました。今回はアプリがエラーとなっていることもあり、当店で精算いただけるようご協力をお願いしております」

 お客様が苛立っているのは明らかだ。語尾が強くなり、口調も荒々しいものになっている。丁寧に対応しているつもりだけれど、なかなかに難しい。お客様の要望を通すことはできないのだから。

「あのさ、払え払えってうるさいのよ!! 私はすでに支払っているから払う必要はないって何度言えばわかるの? そういうことなんだよ。だから、早くしてくれない?」
「そうはおっしゃられましても――」
「ホントとろいわ。あんたさ、やめれば? もういいわ。全部キャンセル。融通の利かない残念なところね。所詮、あんたは陸斗目当てで妖精の隠れ家に面接を受けて幸運にもスタッフになれただけの能力なし。迷惑だからさ、仕事できないならやめなよ?」

 おどろおどろしい笑みを浮かべているお客様。慣れてきたとはいえ、こういうトラブルに対処する経験はほとんどなく、未熟なものだ。このカフェに入ろうと思ったのも不当な運由で聞違っていることは何にもない。それなので、お客様の言葉は胸に刺さった。今回は私の対応が良くなかったから、納得しきれずに不満ををかせてしまったのだろう。私の力不足が招いたことだ。

「浮ついた気持ちでそこに立ってるあんたのせいで人が来なくなるかもね」

 この言葉を最後に、去っていった。私のせいで人が来なくなるのは嫌だな。次のお客様もいるため、気持ちを切り替えようとするが、言われた言葉が頭にこびりついて離れない。笑顔を浮かべるも心は曇ったままで。これ以上失敗はできないのだから、今はお客様に集中しないと。

「この度はご迷惑をおかけして申し訳ございません。お待たせいたしました」

 どんな表情をしているのだろか。私自身のことに精一杯で、お客様の顔が見えなかった。
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