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授業の場所へ・先生から呼び出し(10話)
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あの場所 にたまたま通りかかった先生が騒動を治めてくれた。授業へ行くようにそこにいた生徒を促して。授業を受けるのに、教室へ向かっていたくらいだし、皆はそれに従った。
あの赤の魔法の件で、少しごたごたがあったから教室への到着は遅れた。教室へ入るのは一斉に視線を向けられそうで怖かったので、奥村先輩がいてくれてほっとした。一人だったら集中的に大勢の視線を受けることになっていたから教室へは行かずにサボっていたかもしれない。
おどおどしている私に対して奥村先輩は堂々としていた。先生に説明をしている姿は頼もしかった。事情を聴き終えた先生はすんなり許してくれる。すでに情報が伝わっていたのだろうか。理解が早かったように思う。
「かえでちゃん、空いている席に座ろう」
私にだけ聞こえるくらいの小さな呟きだった。私はそれに頷く。奥村先輩に手を引かれてついていった。前の空いていた席に二人で座る。すでに手は離されているが、先輩が手をつないでくれたことや先輩が隣にいることに顔がにやけそうになる。それが見えるとしたら先生だけ。ただ、だらしのない表情はできれば誰にも見られたくない。恥ずかしいから。
表情を緩めないように力をこめた。指名されても困るし、授業に集中しようと決める。夢見心地で上の空だった気持ちもチクチクと刺されているような居心地の悪い視線で吹き飛んでしまったというのもある。変に目立ってしまったからだろうか。悲しい。
授業は滞りなく進んだ。ずっと針の筵で最悪だったけど。
せめて、実にスマートな奥村先輩を見れたことを頭に焼き付けて宝にしておこう。
***
放課後。カフェへ向かうための準備をしていた。それが終わり、いざ出発と足を踏み出した時、声がかけられる。
「猫宮さんですよね?」
「はいそうですよ? えっと? どちら様でしょうか?」
黒と銀が混じった髪の毛。その長い前髪で顔が隠れていた。口元には薄く笑みが浮かんでいる。学生服を着ているので、この学園の生徒であることは間違いないだろう。私が話したことのない相手かつ初対面の相手なはず。
「あー、これは失礼しました。僕は榎橘音路です」
「ご丁寧にありがとうございます? ご存じのようですが、私は猫宮かえでです。えーと、それで、何のご用件でしょうか?」
どう反応して良いのかわからないので反応に困った。とりあえず、名乗られたので名乗り返し、早速本題に入るように尋ねた。用事もないのに知らない人間に声をかけるとは思わないので。
「そうでした! 本日あった赤の魔法の騒動で先生が猫宮さんにもその時のことを伺いたいとおっしゃっていまして。僕も呼ばれててですね……よろしければ一緒に行きませんか?」
「そうなんですね。でも、私、カフェに行かないといけないので、後ででも問題なければ――」
「それは先生が伝えておくそうです!! 早めに騒動のことについて聞きたいそうで、こちらを優先するようにと。だから問題ないと思います。早くいきましょう!!」
荷物を持っていない手とは逆の腕をグイッと引っ張られた。腕を掴まれたまま歩く。急いでいるようではあるが、少々強引であるような気もした。なんだかぎこちない感じもしている。本当に伝わっているのだろうかと不安が押し寄せる。その雰囲気が読み取れたのか榎橘さんは明るい声で。
あの赤の魔法の件で、少しごたごたがあったから教室への到着は遅れた。教室へ入るのは一斉に視線を向けられそうで怖かったので、奥村先輩がいてくれてほっとした。一人だったら集中的に大勢の視線を受けることになっていたから教室へは行かずにサボっていたかもしれない。
おどおどしている私に対して奥村先輩は堂々としていた。先生に説明をしている姿は頼もしかった。事情を聴き終えた先生はすんなり許してくれる。すでに情報が伝わっていたのだろうか。理解が早かったように思う。
「かえでちゃん、空いている席に座ろう」
私にだけ聞こえるくらいの小さな呟きだった。私はそれに頷く。奥村先輩に手を引かれてついていった。前の空いていた席に二人で座る。すでに手は離されているが、先輩が手をつないでくれたことや先輩が隣にいることに顔がにやけそうになる。それが見えるとしたら先生だけ。ただ、だらしのない表情はできれば誰にも見られたくない。恥ずかしいから。
表情を緩めないように力をこめた。指名されても困るし、授業に集中しようと決める。夢見心地で上の空だった気持ちもチクチクと刺されているような居心地の悪い視線で吹き飛んでしまったというのもある。変に目立ってしまったからだろうか。悲しい。
授業は滞りなく進んだ。ずっと針の筵で最悪だったけど。
せめて、実にスマートな奥村先輩を見れたことを頭に焼き付けて宝にしておこう。
***
放課後。カフェへ向かうための準備をしていた。それが終わり、いざ出発と足を踏み出した時、声がかけられる。
「猫宮さんですよね?」
「はいそうですよ? えっと? どちら様でしょうか?」
黒と銀が混じった髪の毛。その長い前髪で顔が隠れていた。口元には薄く笑みが浮かんでいる。学生服を着ているので、この学園の生徒であることは間違いないだろう。私が話したことのない相手かつ初対面の相手なはず。
「あー、これは失礼しました。僕は榎橘音路です」
「ご丁寧にありがとうございます? ご存じのようですが、私は猫宮かえでです。えーと、それで、何のご用件でしょうか?」
どう反応して良いのかわからないので反応に困った。とりあえず、名乗られたので名乗り返し、早速本題に入るように尋ねた。用事もないのに知らない人間に声をかけるとは思わないので。
「そうでした! 本日あった赤の魔法の騒動で先生が猫宮さんにもその時のことを伺いたいとおっしゃっていまして。僕も呼ばれててですね……よろしければ一緒に行きませんか?」
「そうなんですね。でも、私、カフェに行かないといけないので、後ででも問題なければ――」
「それは先生が伝えておくそうです!! 早めに騒動のことについて聞きたいそうで、こちらを優先するようにと。だから問題ないと思います。早くいきましょう!!」
荷物を持っていない手とは逆の腕をグイッと引っ張られた。腕を掴まれたまま歩く。急いでいるようではあるが、少々強引であるような気もした。なんだかぎこちない感じもしている。本当に伝わっているのだろうかと不安が押し寄せる。その雰囲気が読み取れたのか榎橘さんは明るい声で。
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