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出店条件に初仕事で挨拶(6話)
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アレイルア学園では生徒の自主性を重んじており、学園内であればお店を開くことが可能だ。出店の条件はいくつかあり、その主なものは三つ。一つが先生から承諾を得ること。一つが承諾を得た先生が責任者となること。一つが店内で働く生徒が一人でも評価がD以下であった場合、決められた期間内の活動禁止または解散となること。この条件があるため、成績表の提出は必須。学生の成績によってお店の営業ができなくなる可能性があるからこそ、審査は厳しめだ。
成績が悪いと面接すらしてもらえないとの噂もある。興味があってあるお店で働きたいと思っても門前払いされるということだ。その点私は一風変わった先生のおかげでスタッフになることができた。運が良い。これからは妖精の隠れ家のスタッフとしても、恋を叶えるためにも努力していきたい。
ちなみに、先輩の方々が残されたお店を継ぐ場合は、新学期の一ヶ月で責任者となる先生を探す必要があるそうだ。これは先輩方の卒業とともに先生もいなくなってしまった時の話。通常は同じ先生が継続して責任者となる。もし探すことになったら、その期間中は代理の先生がいれば営業することは許されるらしい。
とりあえず、私は足を引っ張らないようにしたいな。成績面でも。初めてのことでいろいろな失敗はするだろうけれど、早く慣れて貢献したい。あの人に褒めてもらえるように、スタッフの人たちに迷惑ばかりかけないようにしよう。役立たずは傷つくし、嫌。こう思っていたのがまるで遠い昔のように懐かしい。実際には、昨日の今日で一日しか経っていないのだが。
更衣室で黒いシャツに黒いズボンに着替えた。ベルトをつける。長い髪は一つに縛った。手洗いを済ませて、営業前に集まったところで元気よく挨拶。
「はじめまして。一学年の猫宮かえでです。今日からよろしくお願いします!」
これに対して、「よろしくね」「よろしく」などの返事があった。
「じゃあ、次はうちね。二学年の山城沙智よ。わからないことがあったら遠慮せずに聞いてくれて大丈夫だから。慣れるまではサポートするわ。猫宮さん、今日からよろしくね」
スレンダーで背は高め。黄緑色のボブ。はらりと揺れ動く髪。フレームが深緑の眼鏡をかけていて、その奥からは茶色の瞳がのぞいていた。彼女が山城先輩。外見からは氷のようで堅実そうなイメージがあったが、サバサバ系で案外気楽に接することができる人かもしれないと思った。
「昨日ぶりだね。僕は奥村陸斗。猫宮さんと同じく一学年だよ。山城さん、今日は僕が猫宮さんに付いていいですか?」
ワインレッドの短髪は柔らかそうだ。翡翠の瞳には輝きがある。目鼻立ちが整っている彼は穏やかそうな人であった。物腰が柔らかいため、話やすそうだ。
私は緊張で話しかけるのもダメそうだけど。見ているだけでクラクラしそうだし。気を引き締めていこう。彼の魅力に圧倒されてポンコツ具合を晒したら、しばらく立ち直れないから。
「確かに、うちより同じ学年の奥村くんのがいいかもね。状況を見て変更も視野に入れていくけど、本日の主な教え役は奥村くんでいこう」
「OKです」
「猫宮さんはどうかな?」
「え? 大丈夫です。お願いします」
話聞いてなかった。早くもやらかしている。まあ、なんとかなるはずだ。気を緩めるな、猫宮かえで。
成績が悪いと面接すらしてもらえないとの噂もある。興味があってあるお店で働きたいと思っても門前払いされるということだ。その点私は一風変わった先生のおかげでスタッフになることができた。運が良い。これからは妖精の隠れ家のスタッフとしても、恋を叶えるためにも努力していきたい。
ちなみに、先輩の方々が残されたお店を継ぐ場合は、新学期の一ヶ月で責任者となる先生を探す必要があるそうだ。これは先輩方の卒業とともに先生もいなくなってしまった時の話。通常は同じ先生が継続して責任者となる。もし探すことになったら、その期間中は代理の先生がいれば営業することは許されるらしい。
とりあえず、私は足を引っ張らないようにしたいな。成績面でも。初めてのことでいろいろな失敗はするだろうけれど、早く慣れて貢献したい。あの人に褒めてもらえるように、スタッフの人たちに迷惑ばかりかけないようにしよう。役立たずは傷つくし、嫌。こう思っていたのがまるで遠い昔のように懐かしい。実際には、昨日の今日で一日しか経っていないのだが。
更衣室で黒いシャツに黒いズボンに着替えた。ベルトをつける。長い髪は一つに縛った。手洗いを済ませて、営業前に集まったところで元気よく挨拶。
「はじめまして。一学年の猫宮かえでです。今日からよろしくお願いします!」
これに対して、「よろしくね」「よろしく」などの返事があった。
「じゃあ、次はうちね。二学年の山城沙智よ。わからないことがあったら遠慮せずに聞いてくれて大丈夫だから。慣れるまではサポートするわ。猫宮さん、今日からよろしくね」
スレンダーで背は高め。黄緑色のボブ。はらりと揺れ動く髪。フレームが深緑の眼鏡をかけていて、その奥からは茶色の瞳がのぞいていた。彼女が山城先輩。外見からは氷のようで堅実そうなイメージがあったが、サバサバ系で案外気楽に接することができる人かもしれないと思った。
「昨日ぶりだね。僕は奥村陸斗。猫宮さんと同じく一学年だよ。山城さん、今日は僕が猫宮さんに付いていいですか?」
ワインレッドの短髪は柔らかそうだ。翡翠の瞳には輝きがある。目鼻立ちが整っている彼は穏やかそうな人であった。物腰が柔らかいため、話やすそうだ。
私は緊張で話しかけるのもダメそうだけど。見ているだけでクラクラしそうだし。気を引き締めていこう。彼の魅力に圧倒されてポンコツ具合を晒したら、しばらく立ち直れないから。
「確かに、うちより同じ学年の奥村くんのがいいかもね。状況を見て変更も視野に入れていくけど、本日の主な教え役は奥村くんでいこう」
「OKです」
「猫宮さんはどうかな?」
「え? 大丈夫です。お願いします」
話聞いてなかった。早くもやらかしている。まあ、なんとかなるはずだ。気を緩めるな、猫宮かえで。
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