猫は恋したので、カフェに行く(仮)

月詠世理

文字の大きさ
上 下
5 / 41

好きな人の名前を知りました(5話)

しおりを挟む
「よし。心臓に悪い話はこれで終わりということで」

 苦虫を噛み潰したような表情が一変する。愉悦な表情を浮かべている先生。嫌な予感。

「君さ、陸斗のどこを好きになったの?」

 誰のことだろうか。これが表情に出ていたのだろう。先生は困ったように眉を寄せ、首を傾げた。

「えーと、陸斗さんって私の知っている方でしょうか?」「君、それ本気で言ってないよね? あんなに熱烈に『先輩になって』って頼み込んでいたのに……」

 一瞬、思考が停止した。もしかして、陸斗さんという人は私が一目惚れした相手だろうか。初めて知った。

「あの方の名前は陸斗さんというんですね。ステキ!」
「大袈裟な反応だなぁ。君、本当に知らなかったんだ。恋する相手の名前くらいすでに把握済みだと思ってた。陸斗を追ってくる行動力があるし」
「先生!? なんで誰にも話してないのに私がこ、こ、恋してるってわかったんですか? それに『先輩になってください』と言った時、先生はこちらの部屋にいたはずです。なんで知っているんですか?」

 不思議だ。ジーっと先生を見つめて返事を待った。私が胸に秘めている想い。これがどうして先生にバレているのだろうか。

「嘘? 君さ、それで隠せていると思ってるの? わかりやすく態度にも表情にも出てるし、テンパったからこその『先輩』発言でしょ? 鈍くなければ察するって」

 驚きと呆れが見られた。私はそんなに顔に出ているのだろうか。態度もわかりやすいと言われたし。これでも隠していたのに、衝撃の言葉だった。

 心理戦は苦手な自信はある。でも、運は良いから案外なんとかなりそう。それよりも私の反応で簡単に恋してるということが周りに伝わってしまうのは恥ずかしい。表情筋を鍛えてみようかな。私は気まずくて先生から目をそらす。

「バレてしまっているなら思い切って白状しますよ。ええ、ええ、私はり、り、り、り、……がす、す、す、す、す、す、……好き……です。それで!! 先生はなんで!!本人に『先輩』と言ってしまったことを知っているんですか!? まさか、すでに噂になっているんですか?」

 前のめりな姿勢になった私。この勢いにタジタジな先生がいたが、ペースを取り戻したようだ。かわすのは上手いらしい。

「まあまあ、落ち着いて。噂がどうこうは知らないけどさ、今の君、熟れていて食べたら美味しそうだね。それに、最終的に名前を呼べなかったの可愛いと思うよ」
「からかわないでください! もういいです。先生のおかげでここのスタッフになれたんです。それで十分です」
「いや、別に教えないとは言ってないんだけど……。でも、話さなくてもいいならわざわざ話す必要もない。――応援してるからね」

 にやあ、と嫌な笑みを浮かべた先生。これから、私が遊ばれる玩具からかわれるおもちゃにならないか心配だ。

「それで? 君、陸斗のどこが好きなの? あ、外見の話はなしで」
「――、一目惚れして追いかけてきたんです。だから、えーと、困ります。これからも好きなところは探していきますが。えーと、その、そんなすぐに具体的には出てこないというか……もー! ニヤニヤしないでください!! 何言わせてくれてるんですか!!」

 目をそらし、口ごもったのだが、先生の反応を見て怒鳴ってしまうのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

処理中です...