猫は恋したので、カフェに行く(仮)

月詠世理

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夢が現実で自己紹介(4話)

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 私はいつのまにやら椅子に座っていたようだ。目の前にはゆったりと紅茶を飲んでいる女の人。スーツを着ている。ストレートの長いピンクの髪がとても特徴的だった。左側の一房が三つ編みされている。髪の隙間からは耳に付いている銀のリングのピアスが見えた。

 少々近寄りがたい雰囲気はするが、印象とは違って親しみやすい人かもしれない。どちらにしろ私はこの場を乗り越えなければならない。このカフェのスタッフになり、自由に出入りするために、先輩と同じ時間を過ごして距離を縮めるために。

「あの、これ私の成績表です!」

 白い封筒を差し出した。先程『合格』の言葉が聞こえた気がするが、きっと私の願望が作り出したものだろう。白昼夢でも見ていたに違いない。思うように事が運ぶなんてことがあるはずはないのだから。

「そうだな。一応もらっておこう」

 女の人は白い封筒を受け取り、ポイっと机の端に置いた。中身見ないのかなと思う。

「よし、自己紹介をしよう。これから面識を持っていくことだし。――あたしは、椿雪つばきゆき。この学園の教師兼このカフェの責任者。面白がって店長と呼ぶやつもいるが、先生と呼んでくれ。呼び慣れてるから反応しやすい」
「は、はいっ! ……ってすみません! こちらから先に申し上げることでした。えっと、私は猫宮ねこみやかえでです。本日はお忙しい中、なんの連絡もなく、押しかけてしまい、大変申し訳ございませんでした。お時間割いていただいてありがとうございます」
「うんうん、礼儀正しくてよろしいが、そういうのはどうでも良い。今更だし。あたしが君を合格したんだから。自己紹介はしておく必要がある」
「えっ? 合格??」

 あれは私が見た都合の良い夢だったのではないのだろうか。そういえば、これからどうとか言っていたような。頭がこんがらがっている。

「なんだ? 驚きのあまり、合格の件は吹っ飛んだのか? 君は合格だよ」
「成績表を確認していないのに、合格にして問題ないんですか? 私から申すのも変ですし、嫌ですけど、成績良くないです……」
「喜べばいいのに、わざわざ自己申告するやつがいるか。まあ、成績に関しては日々の努力でなんとかしてもらう他ない。それに心配することでもないさ。あたしが君をココに入れることに決めた。あたしの決定は覆らない。よって、このカフェを潰したくないなら生徒たちが君をどうにかするさ。最悪、試験前に首を切ればいいからな」
「それはそれで怖いですね。ココのスタッフになれることが決まったのはとっても嬉しいですけど」

 顔が引き攣りそうになった。複雑な気持ちだ。私のせいで他の人たちがカフェの営業をできなくなったらと思うと不安で気持ち悪くなってくる。最悪を考えると楽観視してはいられない。そうかといって、やめさせられるのは嫌だ。せっかくスタッフになれたのだし、先輩と一緒にいられるし、やるからには精一杯頑張りたい。

「今から肩肘張ってたら疲れるよ? ほら、せっかく紅茶があるんだし、飲んで飲んで」

 勧められた通り、喉を潤おす。上品な香りで甘さ控えめで美味しい。ちょっと落ち着いた。

「君、そんなに成績悪いの?」
「成績をご覧いただければ、すぐにおわかりになるかと思います」

 実技はまあまあいけるけど、筆記がよろしくない。暗記系は苦手だ。実技で評価が良くても筆記で全体評価はマイナス。誰か私の代わりに試験受けて。即刻バレて、空に打ち上げられてから吊るされるのは嫌だから頼まないけど。休みの日に同じ単語を何時間も書き続けるとか、薬の実験台にされて顔に吹き出物ができて解毒薬がなくてしばらくそのままで寝込むとか、嫌すぎる。

「やめたくなかったらそれなりに努力するしかないな。誰かの根拠ある使える話があったら、あたしが問題横流ししてあげてもいいけど」
「せ、せんせっ!!」
「冗談だからそんな目で見るな。罰受けて、解雇で職がなくなるのはごめんだよ。適当にやってられる仕事を逃したくもないし」

 不正は良くないよね。自分自身の力で乗り越えるしかない。心底困ったらアイツに頼もう。できれば、頼りたくないが。何ふっかけられるかわかったものじゃない。
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