猫は恋したので、カフェに行く(仮)

月詠世理

文字の大きさ
上 下
1 / 41

猫が1匹、猫が2匹……(1話)

しおりを挟む
 ここはレイル国。主に獣人と人間が暮らす国。昔はとても仲が良く、異種族間でいがみ合っていたらしい。争いがあったとかなかったとか言われている。現在においては、両者は仲良く、協力し合い、生活している。獣人と人間が結婚することもあるが、同種族間での結婚が多めだ。

***

 私は獣人の母と人間の父の間に生まれた子ども。猫宮かえで。性別は女。現在十六歳。猫の獣人だ。苗字に猫がついているので、覚えやすいと思う。猫の獣人だけあって、身体能力が高く、足は速い。また、高いところも楽々と飛び乗れる。

 木の上に登って「降りられたくなったら危ないから登らないで」と父に泣かれたことが多々あった。その度に「父に心配かけさせるようなことをするな」と母に怒られた。それでも、登りたくななったら、木に飛び乗っていた気がする。

 こんな私は現在、両親が通っていたらしいアレイルア学園にいる。各地にいる人間や獣人などが集まってきて、魔法や薬作りなどを学ぶところだ。すでに入学式は終わっている。その時に友達になった舞凛まりちゃんという子がいるが、その子についてはまた今度話そう。今は重要な任務があるから、それが優先だ。私は偶然見つけた。あのビビッときた衝撃が忘れられない。その人を見て、雷が頭の中で降ったんだ。私はその人と近づきたいがために、行くところがある。成績表を握りしめて、突撃する予定。

「私、スタッフになれるかな? なれたらいいな~」

 震える足をゆっくりと動かす。向かう場所はカフェ。生徒が主体となって行う活動として、学園側が出店を認めたところ。他にも、占いや探索、交換、衣服、お菓子、ゲーム、指導など様々なお店がある。

 カフェのように場所を借りていて集団で活動するお店は、授業があるため、放課後開いている。場所を借りていても、個人で活動が可能であり、短時間で終わるものは休憩時間でも営業が可能だ。学園内でお店を開くのにも条件はあるが、それは後ほど。

 私は一目惚れした人と一緒の時間を過ごすために、カフェのスタッフになる。それが相手と距離を縮めるための一番の近道のはずだ。

 成績は筆記は苦手だが、実技は得意だし、問題ないはずだ。暗記して、作成するのは苦手だが。ああ、心配だ。成績が良くないと面接を受けさせてもらえない可能性がある。もし面接があっても質問に答えられるか不安だ。どうか事が上手く運びますよう。あの人と一緒に活動できますように。ダメだったら盛大に泣く。そういう自信はある。お願いです。どうか神様、私が泣くことがないようにしてください。

***

 猫が一匹。猫が二匹。猫が三匹。猫が……落ち着け。私は受かってみせる。こういうのは虚勢が大事。猫宮かえで。あなたなら大丈夫よ。恋する乙女は負けないもの。この扉を開けたら、あの人に会える。怖気付いてないで、行くんだ。深呼吸。

「やっぱり無理!」

 踵を返して逃げた。途中まで来た道を戻ってまたカフェに来てを繰り返す。

「もう! こういうのは勢いよ。勢い!!」

 決意を固め、静かに扉を開けた。行くのはあの人がいるカウンター。

「いらっしゃいませ。ご注文の画面をご提示お願いいたします」

 視界に映っているのは、目鼻立ちが整った男の子。澄んだ翡翠の瞳。ワインレッドの柔らかそうな髪の毛。このカフェの制服だろう黒に統一されている服装。似合っていた。彼の周りが輝いて見える。

「お客様? もしかして当店のご利用は初めてでしょうか?」

 彼に夢中になっていて、ぼんやりとしていたが、我に返る。私の目的が果たせないところだった。ここは思い切りが大事。ハッキリと伝えるの。

「こ、こ……」
「?」

 首を傾げる仕草が可愛い。可愛いとかっこいいを両方持っているなんて――。言葉にならない。彼の素敵なところをもっと見ていたかったが、今は他にやるべきことがある。首を左右に振って、悪魔の誘惑を振り払う。もたもたしすぎて迷惑になってるだろう。早く言うべきことを言え、猫宮かえで。

「――私の先輩になってください!!」
「はい?」

 間違えてないけど、間違えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

【完結済】自由に生きたいあなたの愛を期待するのはもうやめました

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
 伯爵令嬢クラウディア・マクラウドは長年の婚約者であるダミアン・ウィルコックス伯爵令息のことを大切に想っていた。結婚したら彼と二人で愛のある家庭を築きたいと夢見ていた。  ところが新婚初夜、ダミアンは言った。 「俺たちはまるっきり愛のない政略結婚をしたわけだ。まぁ仕方ない。あとは割り切って互いに自由に生きようじゃないか。」  そう言って愛人らとともに自由に過ごしはじめたダミアン。激しくショックを受けるクラウディアだったが、それでもひたむきにダミアンに尽くし、少しずつでも自分に振り向いて欲しいと願っていた。  しかしそんなクラウディアの思いをことごとく裏切り、鼻で笑うダミアン。  心が折れそうなクラウディアはそんな時、王国騎士団の騎士となった友人アーネスト・グレアム侯爵令息と再会する。  初恋の相手であるクラウディアの不幸せそうな様子を見て、どうにかダミアンから奪ってでも自分の手で幸せにしたいと考えるアーネスト。  そんなアーネストと次第に親密になり自分から心が離れていくクラウディアの様子を見て、急に焦り始めたダミアンは───── (※※夫が酷い男なので序盤の数話は暗い話ですが、アーネストが出てきてからはわりとラブコメ風です。)(※※この物語の世界は作者独自の設定です。)

処理中です...