今まで我慢してきたことを言います!―王子様、聞いていただけますか?―

月詠世理

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後編

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 バーっと思うことを話していきました。わたくし、まくし立てるように喋ってしまいましたが、まだまだ言いたいことはたくさんあります。こうなったからには、これまで話したかったことを全部言わないとですね。

「あの、だな。トンカチで頭を殴られたら、僕は死んじゃうよ」
「あら、ハンマーが良かったのですね?」
「そそそ、そういうことじゃなくてな……」

 タジタジになっているようですが、これくらいで終わるとは思っていませんよね? 常日頃から思っていたことはまだまだありますよ?

「だいたい、『ピカリン、なんかヨレヨレになってきたな。肌にも張りがないし、クマもできてるし、女として終わってるよ』とはどういうことです? わたくしの睡眠時間を削った張本人がそれを言いますか? まともに眠れない日々が続けばヨレヨレにもなりますわ! 挙句のあてには、『ピカリン、最近可愛くなくなったな。僕、他の女と遊んでも良い? 節度は守るから!!』ですって?」
「そ、それはだな~」
「わたくしに無駄な時間を浪費させているのは王子様ですわ! その時間があれば肌の手入れをできていたかもしれません。それなのに、時間泥棒の原因がわたくしに向かって、女として終わってるよ、というなんて最低のクズですわ。それに、他の女と遊んでいいとは一言も言ってないのに、勝手に遊び始めるとはクズの中のグズですわね」
「だって! 仕方ないだろ!! ピカリンみたいな可愛くない見た目より可愛い子の方が見ている分には良いじゃないか!!」

 わたくしはギロッと王子様を睨みつけました。それで、王子様がヒイッと声を上げていますが、そんなことはどうでもいいのです。

「ふーん、そうですか。まぁ、いいでしょう。わたくしもあなたのような丸くて丸くて丸ーい、見ていても癒しにならないような人間と、夫婦になりたいとは一度も思ったことはありませんから」
「な、なんだと!? 僕はかっこいいじゃないか!!」
「鏡見たらどうですか? おめでたいくらいに頭が空っぽな王子様。わたくし丸ーい人間よりも細くて体格がしっかりしている人のほうが好みですの」
「ピ、ピカリン!! 浮気だ、それは浮気だぞ!! そんなのは許されないことだ。僕の心は傷ついた!! 慰謝料を請求する!!」

 散々わたくしのことをボロクソに言ったことは棚にあげるんですね。だいたい好みのタイプを思うだけで、浮気ってどういうことですか。婚約者がいるにもかかわらず、子供を産ませている王子様のほうが浮気でしょう。たしかに、世継ぎはたくさん必要ですわ。でも、彼女たちは婚約者でもなんでもない女ではありませんか!

「はぁ、もういいです。これ以上、腐れ王子と話しても頭が痛くなるだけでしょう。なので、最後に一つだけ。節度を守って彼女たちと付き合うと言った人が産ませるとはどういうことですか!? 全然、言ったことを守れてないじゃないですか!!」
「なんだ? ピカリンも僕の子を産みたかったんだな。だったら、産ませてやるぞ? ピカリンはなんたって僕の正妃だしな」
「……」

 この王子様、話聞いてました? どこをどう切り取ったらわたくしが王子様の子供が欲しいということになるのでしょう?
 先程まではみっともなく震えて、青ざめた表情かおをして、タジタジになっていたくせに、都合が良くなって胸を張り、威張り出すとは……。
 わたくし、もう話し疲れましたわ。

「いいぞ! ルナちゃん、ファルちゃん、アクアちゃん、マリちゃんもピカリンが僕の子供を持つのを許してくれるだろう。な、みんな!! ……あれ?」

 キョロキョロと辺りを見回して、彼女たちを探しているようですが、彼女たちはわたくしたちの話の途中で逃げて行きましたよ。話の矛先が自分たちに向くのが怖かったのでしょうね。わたくしの喋り方は恐ろしいほど、勢いがありましたから。
 ふぅ、怒りを通り越すと呆れるのですね。もういいですわ。最後の最後にもう一つだけ言っておきましょう。

「ポンコツ腐れグズ王子様。わたくしの名前はアンリリカです。二度とピカリンなんてふざけた名前で呼ばないでくださいね?」

 では、王子様さようなら。
 王様と王妃様にはこのことをちゃんと報告しましょう。まぁ、わたくしが行動する前に、話しを聞いていた使用人たちがすでに報告していたらしいですがね。さすが、王家に仕えてる人たちです。仕事が早いですわ。


 あれから、王子様と彼女たちのことについては大騒ぎにはなりませんでした。この詳細は公には伏せられたからです。ただ、短期間ですが、バタバタしていたとは思います。王様が信頼できる人たちと共に、王子様とわたくしと彼女たちに起こった問題を内密に処理していましたので。

 まぁ、公へ詳しい情報は隠されていますが、気づいている人は気づいているでしょう。王子様の婚約者で、王妃候補であったわたくし。それが突然、王子様の婚約者ということ事態が無かったことになったのですから。臣下たちとて考える頭もあって、情報収集もそれなりにできるのです。気づかないわけがありません。みんな口を閉じているだけですわ。いつか今回の件が話題にのぼって、弱味にならないといいですわね。

 そうそう、王子様と四人の女たちは、王様と王妃様を烈火のごとく怒らせたようです。王子様は王様と王妃様にガッツリと再教育・指導されているみたいですわ。四人の女たちは、自分たちの思うようにいかなくなったことを悟ったのか、お家に逃げて助けを求めたらしいのです。でも、王家から召喚を命じられて、皆様連れ出されたのですよ。それで、四人とも王家の子を孕んでいることから、王子様の婚約者になりました。

 あの四人彼女たちは側室になったら遊び放題、仕事はわたくしに押し付けようと思っていたみたいですね。その計画が崩れて、今となっては王妃様にビシバシしごかれているって話ですわ。わたくしは、王妃教育から逃れられて嬉しいです。これからは皆様が頑張ってくださいね!!

 あの四人彼女たちが孕んでいるのが本当に王子様の子かは怪しいですが、あとは王様と王妃様がなんとかするでしょう。わたくしにはもう関係ないことですもの。

 王子様との縁が切れてからぐっすりと眠れるようになりましたし、お肌の手入れもできるようになりました。まぁ、お肌の手入れは侍女たちが率先して行ってくれたのですけれど。そのおかげで見違えるように変わりましたよ。

 あとですね、わたくしはたまに、王妃様の話し相手に呼ばれます。(王子様のことを申し訳なく思っているようです。それなら、もう呼ばないで欲しいといいたいのですが……)。その時に偶然にも王子様に会ったことがあります。ねぇ、あの王子様、わたくしを見てなんて言ったと思いますか?

「おお、妖精のようだ! その輝かしさはこの世の奇跡が生んだもの。僕のお嫁さんにふさわしい。どうか、僕と結婚してくれないかな?」

 散々ボロカスのように人のことを言っておいて、何様だこのポンコツ。あ、王子様でしたわ、と思いました。
 もちろん、わたくしにとって嫌がらせのような提案は、すぐさま丁重にお断りしました。

「そ、そんな!?  僕が振られるなんて! だって、僕、器量良し、頭良し、性格良し、だよ!!」
「いえ、王子様は器量、頭、性格、全て最悪ですわ。底辺の底辺です。器量に関してはわたくしにとっては最悪なだけで、王子様の婚約者様たちにとっては最高なものなのでしょうけれど。そうでなければ、王子様と付き合っていくのは無理ですわ。王子様はとっても婚約者様たちに愛されているのですね!!」

 わたくしは王子様に伝えたいことを言って、颯爽と彼の前から去りました。その後の王子様の様子は、噂によると、愕然としたように固まって、お城の廊下に立っていたらしいです。通行の邪魔になるようなところで何時間もいたみたいですよ。本当に迷惑な王子様ですわね。

 わたくし、王子様と結婚なんてしなくて良かったです。幸せな作りものの物語。そのように末永く幸せになんて暮らせるわけがありません。あの王子様と結婚していたら、わたくしはイラつき、ストレスの溜まる日々を送っていたことでしょう。もしくは仕事のしすぎで過労死です。

 王様と王妃様は、王子様が王様になるまでには教育すると言ってましたが、親バカでしたからね。問題が起きてからですが、再教育になったのは良かったことでしょう。はじめからわたくしに国王までものお仕事をさせるようにするのではなく、王子様にもお勉強をするように言っていただけたら、嬉しかったです。

 今更、文句を言ったところで終わったことですが……。それなので、王子様に対して思うことは、これから親の愛のムチをたくさん受けてくださいな、ということです。わたくしが王子様の代わりに任されそうになった仕事のお勉強ですから、もともとは王子様が頑張ることだったのです。これが当然のことなのですよ。

 王様も王妃様もこれからビシバシとあの王子様の甘ったれた性根を叩き直してくださいね。あと、国王としての役目を果たすことができるように教育に力を入れてください。あの王子様がこの国の王様になるくらいなら、わたくしたちは国外逃亡いたしますわ。

 運が良かったことにあの王子様がとんでもないことをやらかしてくれました。そのおかげで、わたくしはあのポンコツ王子様から離れられたのです。王子様と結婚することもなくなりましたし、王妃様になる未来もなくなりました。

 わたくしはあの王子様と長い年月を付き合うこともなくなったのですから、きっと未来は希望に満ち溢れたもの明るいものでしょう。そうであって欲しいものです。

 あとは、王子様が王様になった時、この国が良いものになるか、悪いものになるかですが、それはわたくしにもまだわかりません。ただ一つ言えることは、逃げる準備はしておいたほうがいいのかもしれないということです。

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