今まで我慢してきたことを言います!―王子様、聞いていただけますか?―

月詠世理

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中編

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 わたくし、王子様に呼び出されました。いつものことですが、今回は絶対に来いとのことです。
 わたくしが王子様のお誘いをお断りした日など、用事があって手が離せない時で、片手で数えられるほどしかありません。腐ってても王子様ですからね。なかなかお断りできないんですの。
 陽気な王子様はいいご身分ですよ。王子様ですから、身分だけは最上位ですものね。

「よー、ピカリン。今日はピカリンに大事な話があって、呼んだんだ」
「そうですか、急いでるので手短にお願いします」

 大事な話と言うくせに、二時間も待ちましたわ。指定した時間に自分がこないのは相変わらずですわね。このポンコツ王子様。

「あー、じゃあ、早速言うからな。怒るなよ。絶対に怒らないでくれよ」
「わたくしが怒るようなことを王子様はしたのですか?」
「い、いや、してない。そ、その前に……ルナちゃん、ファルちゃん、アクアちゃん、マリちゃん、入ってきて」

 なんと、王子様に呼ばれて入ってきたのは、王子様の遊び相手でした。しかも四人の女、全員いるよう。何か嫌な予感がするのは気のせいでしょうか?

「えっとな、ピカリン」
「あのですね、ピカリン様」
「そのですね、ピカリン様」
「えっとですね、ピカリン様」
「ええとですね、ピカリン様」

 微妙にバラバラなのが、イラッときますわね。それに、どいつもこいつも呼ぶ名前が違うのもムカつきます。しかも溜め込んでハッキリしないとは、どう言うことでしょう。話すならズバッと切り出してほしいものです。

「えっとな、ピカリン。俺が悪いんだ。だから、ルナちゃん、ファルちゃん、アクアちゃん、マリちゃんを責めないでほしい」
「ち、違います。王子様マルン様のせいではありません」
「そ、そうですわ。マルン様のせいではないです」
「そ、そうです。マルン様だけの責任ではございません」
「そうです、そうです。マルン様だけの問題ではありませんよ」

 一体、この人たちは何をしたいのでしょう。わたくしは一体何を見せられているのかしら? わたくしも暇ではないんです。話しを切り出す気がないなら、早々に帰りたいのですが? あの、もう帰ってもよろしいでしょうか?

「皆様、本題を切り出してくださいませ。何も用がないなら帰ります」
「はぁ、ピカリンは冷たいな。よし、ここは僕が代表して!」
「いえ、私が」
「いえいえ、私が」
「いえいえいえ、私が」
「いえ、私が言います!」

 いつまでわたくしはこの茶番劇に付き合わなければいけないのでしょうか? 王子様もよくわたくしに我慢させてきますが、この女たちも相当ですわね。わたくし、早くしてほしいと言っていますのに、皆様まったく話を聞いていないようです。

「はぁ、誰が言うのでも内容は一緒でしょう。ですから、王子様、代表してお願いしますね。ここはわたくしと王子様が話すところです。彼女たちも連れてきた理由は納得できるものであることを願いますよ」
「もう、ピカリンは真面目だな~。僕とピカリンが話す場所といえど、使用人たちはいるではないか!」
「王子様、いいからさっさと話してください」
「むぅ、今日はピカリン怖いぞ。いつもなら、優しく相槌してくれているのにな。まあ、いい。話そう! ルナちゃん、ファルちゃん、アクアちゃん、マリちゃんに僕の子供ができたんだ! だから、彼女たちを僕の側室にしようと思う。いいか?」

 え、このポンコツ王子様。今なんて言ったのでしょう? こ、子供と聞こえましたが、気のせいですよね? 聞き間違えですよね? わたくしの耳はきっとおかしくなってしまったのでしょう。

「きゃ! マルン様。ピカリン様にそんな酷なことを」
「ですが、ハッキリと言うマルン様はかっこいいですわ」
「マルン様の素敵~」
「マルン様の子供が産めるなんて幸せです」
「そうか! 僕もルナちゃん、ファルちゃん、アクアちゃん、マリちゃんが産んでくれるのは嬉しいぞ!!」

 どうやらこの皆様の反応を見ると嘘ではないらしいですわ。ええ、嘘ではないのですね。悲しいくらいに。
 わたくしが王妃様にビシバシ教育され、課題を大量に出され、苦労する中、王子様に呼び出されて何時間も待たされる日々。王妃様の課題期限を守るために徹夜をし、暇ではないというのに、王子様のわがままに時間を作り続けた日々。
 王妃様は「マルンもお年頃なのよ。大丈夫よ、あの子達とマルンが結婚することはないわ」と言っていました。ええ、王妃様にその気はなかったのでしょうね。でも、現実は違うようです。

 王妃様もお遊びだと思っていたようですが、いえ、王様もわたくしも一時のお遊びだと思っていました。どうやらお遊びで終わるものではなかったようです。子供を産ませたらしいです。しかも、王家の血筋を引いているようです。王子様との子ですから当たり前でしょうが。

「で、ピカリン。いいよな? ルナちゃん、ファルちゃん、アクアちゃん、マリちゃんを側室にしても。本当はピカリンが正妃なんて嫌なんだぞ!! でも、ピカリンは僕の正妃になれるんだから感謝しろよ」

 この上から目線はなんでしょうか。普通、謝罪しませんか? はぁ、この王子様に普通を、謝罪を、求めることこそがもう間違いですわね。
 わたくし、とうとう我慢の限界がきたようです。
 彼女たちを側室にしたところで、仕事ができるとは思えません。これから勉強すれば良いことでしょうが、押し付けられるのが目に見えています。王子様のお仕事と彼女たちのお仕事、わたくしの仕事が増えるではありませんか。

 せめて側室にするなら、もう少しまともな方たちを選んでください。こんな容姿ばかりのバカっぽそうな人たちが側室で、わたくしが正妃になった時に一緒にお仕事をするかもと思うと嫌で嫌で仕方ありません。

 さて、わたくしは全てを放棄しましょう。この人たちを妻にするというならそれで構いません。ですが、わたくしは王子様や側室のための労働力ではありません。わたくしにデメリットしかない王妃などごめんです。

 もともと王妃をやるのも嫌でしたし、このポンコツ王子様と結婚して正妃をやるのも嫌でした。王子様の遊び相手(王子様にとっては遊び相手ではない)に子供ができたようなので、わたくしはお役目を降りてもいいですよね?

「王子様。わたくし、常々王子様に言いたいことがありました。それを聞いてくだされば、王様や王妃様に側室のことを報告いたしましょう」
「ほんとうか!?」
「ええ、本当です。なので、わたくしの話しを聞いてくださいますよね?」
「おーい、ルナちゃん、ファルちゃん、アクアちゃん、マリちゃん!!側室になっていいってさ!!」

……。
…………。
………………。

 この腐れ王子様。人の話くらいよく聞きましょうか? その空っぽの頭によく言い聞かせてやりたいですわ。
 盛り上がっているところ申し訳ありませんが、わたくし、もう我慢しないことにいたしました。我慢は健康に悪いですからね。

 バアンッ!!

 机を思いっきり叩いた手が痛いですわ。でも、今の問題はポンコツ王子様達です。
 音に驚いて、皆様黙ったようです。そして、音を立てた原因のわたくしに皆様が視線を向けています。

「おい、ピカリン! びっくりしたじゃないか。もう少しおしとやかにできないのか?」
「うるさいですわね! この腐れ王子!! わたくし、これまでたくさん我慢してきたことがありますが、限界を超えましたわ」

 ポカンっとわたくしを見つめていますが、先を続けましょう。

「まず、わたくしの名前はアンリリカです。ピカリンとは誰ですか? 名前のないものへ付けるならまだしも、アンリリカという可愛らしく素敵な名前があるわたくしにピカリンとあだ名をつけるとはどういうことです? わたくしの名前は一切関係ないではありませんか! どこの女と間違えているのでしょうか、このポンコツといつも思っておりました」
「え、えっとだな」
「次に、時間を指定して呼び出しておきながら、本人が寝ているとはどういうことです? わたくし、いっつも何時間も待たされているんですよ。美味しいご飯やお菓子があるからと言って、何度も何度も待たされれば嫌になります。そして、呼び出した本人は寝ているのですから」
「そ、それはだな……」
「わたくしもぐっすり眠りたいというのに、あなたのようなポンコツが朝の七時に呼ぶのです。わたくしは七時にこのお城へ到着しないといけないので、二時間も早めに起きて準備しないといけないのです。とんでもない嫌がらせをされているのだといつもいつも思っておりました」
「えーとだな、そ、それは、良かれと思ってだな……。それよりさ、怒らないと言ったのに、なんで怒るんだよ!!」
「はぁ? 怒らないなんて約束した覚えはありません!! そ・れ・に、良かれと思ってどういうことですか? 全然良くないに決まっているでしょう! この腐れ王子!!」

 プルプルと震えて、顔が真っ青になっていますが、無視しましょう。わたくしはまだ言い足りないのです。

 「わたくしとの指定した時間には来ないくせに、彼女たちとのお約束の時間には急いで走り去っていきますね。わたくしとの時間に間に合っているのならまだしも、全く違うのですよ? いつもノロノロと歩き、扉から入ってきて、謝罪もなく、申し訳ないとは一つも思っていない顔で平然としていますわね。そこから一方的に何の役にも立たない自慢話を永遠とされ、わたくしの話は一切聞きません。わたくしが話したものを、王子様は自分の良いように解釈します。トンカチで頭を殴ってやろうと何度思ったことでしょう」

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