限られたある世界と現実

月詠世理

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限られたある世界と現実

求婚×逃亡×執着

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 幸運と思うこともなく、不幸とも思うことのない一日。平凡な日を過ごしている。何事もなく、ただただ時が過ぎていくのだろうな、と思っていた。普通が一番いいし、特別なんて面倒くさい。変わりのない毎日でいい。少しは幸せな瞬間があって欲しいけど、不幸はいらない。そんなことを思って日々を過ごしていた。けれど、突然はあるもので――。

「見つけたー!! 僕の運命の人!!」

 背後から大きな声が聞こえた。誰のことだろう。私には関係ないよね、と思い、無視する。次の瞬間、身体に衝撃が走った。勢いよく、何かに抱きつかれた。え、怖い。突撃された。しかも、知らないやつだよ。知ってる人ではないと思う。多分。パニック状態でありながら、冷静に考えているところもあった。これ、逃げるべきだよね。それとも通報、いや、周りの人に助けてもらう? 無理だ。みんな遠巻きに見てるよ。一瞥して去っていく人々。できることならば私自身も関わりたくない。

「僕のお嫁さん見つけた! 僕と早く帰ろう?? それで結婚して、あんなことやこんなことをするんだ。起床後、毎日キスしようね!!」

 意味わからない。現在、恋人なしの私がお嫁さんとはどういうことだろう。結婚? 付き合ってもいないのに結婚しないって。まず恋人いたこともない。それに、段階すっ飛ばして夫婦はやだ。しかも、知らない人。多分初対面。顔も知らないし、声も初めて聞いたよ。
 なんか、ぐりぐりと肩にすり寄っているようだが、やめていただきたい。

「ねぇねぇ、お嫁さん! 僕に声を聞かせて?」

 これはやばいやつだ。絶対やばいやつ。それ以外の何者でもない。頭がとち狂ったか、妄想ワールドを現実に持ち込んだ異常者か。まあ、どちらにしても関わりたくない。

「おーい、聞こえてる? お嫁さん? お嫁さーん!!」

 耳元で叫ばなくても聞こえてる。ぎゅーって締め付けてこないで。よし、逃げよう。

「あの、一旦離していただけますか? あなたの顔が見てみたいです」
「え! 僕の顔見てみたいの? 僕と会いたかったってこと? 嬉しい!! うんうん、待ってね。今離れるから。緊張するから三秒後に振り向いて。心の準備するから」

 いいから、早く離して! 私は逃げるんだから。

「じゃあ、離すよ。三……二……一……」

 よし、離れた。では、もう二度と会うことがありませんように。変な人よ、さようなら。カウントダウンをしている人を置いて、走る。家に帰って、数日引きこもっておけば大丈夫でしょう。きっと何かの間違いなんだから。そう楽観視していた。

「お嫁さん、逃げるなんて酷い! 僕の純情な心を弄ぶなんて、傷ついた!! でも、恥ずかしくて逃げちゃったんだよね? そんな照れ屋なところ、可愛いよ。さて、今回は僕から逃げたこと許してあげるけど、次はないからね? 鎖で繋いで、僕から一生逃げられないようにしてあげる。いっそのことそうしちゃおうかな?? ねぇ、お嫁さんはどうしたい??」

 なんで家の前にいるんですか? それに、怖いこと言ってて怖いです。ねぇ、誰かこのとち狂った頭の持ち主をどうにかしてください。お金なら出せる範囲で払います。お願いですから、助けて!! 
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