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30話
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とぷりっと音が響く。水のようなものに引き込まれた。息苦しさはない。ただ体が下へ下へとゆるりと沈んでいく。突然、一点の光が見えてきた。私はその光へ手を伸ばす。闇が薄れた。薄暗くはあるが、人の影は見えるようになった。誰かはわからない。私に声をかけてくれていた子たちだろう。そう思っていた。
「ひっ!?」
私の目に映るのは、手を伸ばす人々。たくさんの人がいるようで、いくつもの手があった。私は目を逸らさずに後ずさるも手は私を追いかけてくる。まるで捕まえようとしているみたいで、恐ろしさを感じる。
「ちょうだい?」
「私に貸して?」
「奪う、逃げるな!」
何もあげられないし、何も貸さないし、普通に逃げるから! 目は血走っていて、狂ったように迫ってくるおどろおどろしいもの。これに捕まったら、私は――。
「怨念に引っ張られちゃったのね。その子たちもあなただから」
突然、手が引かれた。体は後ろに傾く。ぽすっと柔らかい何かにあたった。驚きはしたが恐怖心がまさり、体は固まった。
「まあ、しょうがないか。あなたは今、あの子たちに飲み込まれそうになっているもの。それより、早くここを離れないとね。切っても切り離せない存在だから、どこへ行っても見えてしまう。とりあえず、移動しよう」
顔は見えない。ただ話している人は私に手を伸ばしていたものたちとは違うと思った。落ち着いている様子は安心できる。さて、この人は薄暗い中でどこへ行くのか。この人が来てから恐ろしさを感じるものの動きは鈍っているように思う。
「あの、襲われることはないんですか?それとどこへ行くんですか?」
「襲われるのはあなただけ。私は襲われることはないし、あなたが襲われないように今から安全なところへ行くの」
「えーと、それはどこ?」
「ここはあなたの深層心理の中。いわば精神世界。だから、どこに行くも何もないわ。あるのは境界。私たちとあの子たちがいられる領域は分けられているの」
私の精神世界の中で、境目ができているようだ。普通ならあの恐ろしいものたちは私が話しているたちがいる領域には入ってこれない。その逆も同じで、この人たちもあのものたちの領域には入れないらしい。
「それなら、どうして私のところへ来れたの? あなたはあのものたちのところへ行けないはず」
「私は特別だから。あの子たちに引っ張られたあなたを迎えに行くことができた」
「特別って?」
「それは内緒」
「む、じゃあ、あなたがあの子たちと呼ぶ人たちは何なの?」
「あの子たちはね、怨念だよ。憎しみや恨みなどの負を背負っているもの。あの子たちは復讐したいの。自分たちを酷い目に合わせた者たちにね」
私は村の人たちに暴力を振るわれ、陰口を言われ、虐げられ、母親を殺されるなどの酷いことをされた。だから、村の人たちに嫌がらせをしてやろうと思った。私の中にいる怨念たちの復讐は村の人たちに嫌がらせをするということとは少し形を変えたもの。きっと嫌がらせ以上のことだろう。誰に何をしようとしているのかはわからない。何を望んでいるのだろうか?
「考えすぎると引きずり込まれるわよ。さあ、この膜を通って。これであの子たちはあなたに手を出すことはできなくなるわ」
目の前には、透明な壁のような隔たりがあった。薄暗くどこを通っているのかはわからなかったが、いつのまにかこの人が目的としていたところに着いていたらしい。私は膜と言われたものを触れてみる。それは硬かった。本当に通ることができるのかと思ったくらいには。ぶつかるだけでは、と怖気づく。たが、心の準備もできないまま、勢いよく背を押された。
「えっ?」
膜は歪む。私はそれに吸い込まれるように、膜を通り抜けた。「なにするの!」と振り返った。そこには誰もいない。目を丸くした。私がいた人は誰だったのだろう。もしかして、一人で喋っていただけ、とも考えてしまう。いや、質問に答えが返ってきていたし、それはないだろう。
「どこ行ったんだろう?」
ここまで連れてきた人の姿は見えない。ただ手を伸ばし続けている怨念たちは見えていた。ひくっと口元が引き攣った。
「やっときた」
「大丈夫よ。あの怨念たちはこの膜の内側には来れない」
「あ、私たちがあなたを呼びました。私たちは理性あるもの。あちらにいるのは怨念。だから、怖がらないでくださいね」
こちらは怨念たちがいるところよりは明るく、顔が見えた。誰しも輪郭が整っていた。美人であるものや可愛いものがいる。髪は黒系や茶色系のものがおり、どの人も瞳は暗めの色であった。肌は雪のようであった。髪の長さはそれぞれ異なっているものの、皆の顔立ちは似ていた。
「怖さはあるけど、ここにいれば襲われないんでしょ? それで、ここに呼んだ理由はなに?」
「うん、襲われないよ。安心安全!」
「そんなに急かさなくても今から話すわ」
「あなたを呼んだのは、あることをしてもらうためです。あなたの知りたいことはあとで答えます」
ある事ってなんだろう。そう疑問に思いつつもこの人たちに従うことにする。この世界から抜け出すのにはこの人たちの力が必要だもの。
「ひっ!?」
私の目に映るのは、手を伸ばす人々。たくさんの人がいるようで、いくつもの手があった。私は目を逸らさずに後ずさるも手は私を追いかけてくる。まるで捕まえようとしているみたいで、恐ろしさを感じる。
「ちょうだい?」
「私に貸して?」
「奪う、逃げるな!」
何もあげられないし、何も貸さないし、普通に逃げるから! 目は血走っていて、狂ったように迫ってくるおどろおどろしいもの。これに捕まったら、私は――。
「怨念に引っ張られちゃったのね。その子たちもあなただから」
突然、手が引かれた。体は後ろに傾く。ぽすっと柔らかい何かにあたった。驚きはしたが恐怖心がまさり、体は固まった。
「まあ、しょうがないか。あなたは今、あの子たちに飲み込まれそうになっているもの。それより、早くここを離れないとね。切っても切り離せない存在だから、どこへ行っても見えてしまう。とりあえず、移動しよう」
顔は見えない。ただ話している人は私に手を伸ばしていたものたちとは違うと思った。落ち着いている様子は安心できる。さて、この人は薄暗い中でどこへ行くのか。この人が来てから恐ろしさを感じるものの動きは鈍っているように思う。
「あの、襲われることはないんですか?それとどこへ行くんですか?」
「襲われるのはあなただけ。私は襲われることはないし、あなたが襲われないように今から安全なところへ行くの」
「えーと、それはどこ?」
「ここはあなたの深層心理の中。いわば精神世界。だから、どこに行くも何もないわ。あるのは境界。私たちとあの子たちがいられる領域は分けられているの」
私の精神世界の中で、境目ができているようだ。普通ならあの恐ろしいものたちは私が話しているたちがいる領域には入ってこれない。その逆も同じで、この人たちもあのものたちの領域には入れないらしい。
「それなら、どうして私のところへ来れたの? あなたはあのものたちのところへ行けないはず」
「私は特別だから。あの子たちに引っ張られたあなたを迎えに行くことができた」
「特別って?」
「それは内緒」
「む、じゃあ、あなたがあの子たちと呼ぶ人たちは何なの?」
「あの子たちはね、怨念だよ。憎しみや恨みなどの負を背負っているもの。あの子たちは復讐したいの。自分たちを酷い目に合わせた者たちにね」
私は村の人たちに暴力を振るわれ、陰口を言われ、虐げられ、母親を殺されるなどの酷いことをされた。だから、村の人たちに嫌がらせをしてやろうと思った。私の中にいる怨念たちの復讐は村の人たちに嫌がらせをするということとは少し形を変えたもの。きっと嫌がらせ以上のことだろう。誰に何をしようとしているのかはわからない。何を望んでいるのだろうか?
「考えすぎると引きずり込まれるわよ。さあ、この膜を通って。これであの子たちはあなたに手を出すことはできなくなるわ」
目の前には、透明な壁のような隔たりがあった。薄暗くどこを通っているのかはわからなかったが、いつのまにかこの人が目的としていたところに着いていたらしい。私は膜と言われたものを触れてみる。それは硬かった。本当に通ることができるのかと思ったくらいには。ぶつかるだけでは、と怖気づく。たが、心の準備もできないまま、勢いよく背を押された。
「えっ?」
膜は歪む。私はそれに吸い込まれるように、膜を通り抜けた。「なにするの!」と振り返った。そこには誰もいない。目を丸くした。私がいた人は誰だったのだろう。もしかして、一人で喋っていただけ、とも考えてしまう。いや、質問に答えが返ってきていたし、それはないだろう。
「どこ行ったんだろう?」
ここまで連れてきた人の姿は見えない。ただ手を伸ばし続けている怨念たちは見えていた。ひくっと口元が引き攣った。
「やっときた」
「大丈夫よ。あの怨念たちはこの膜の内側には来れない」
「あ、私たちがあなたを呼びました。私たちは理性あるもの。あちらにいるのは怨念。だから、怖がらないでくださいね」
こちらは怨念たちがいるところよりは明るく、顔が見えた。誰しも輪郭が整っていた。美人であるものや可愛いものがいる。髪は黒系や茶色系のものがおり、どの人も瞳は暗めの色であった。肌は雪のようであった。髪の長さはそれぞれ異なっているものの、皆の顔立ちは似ていた。
「怖さはあるけど、ここにいれば襲われないんでしょ? それで、ここに呼んだ理由はなに?」
「うん、襲われないよ。安心安全!」
「そんなに急かさなくても今から話すわ」
「あなたを呼んだのは、あることをしてもらうためです。あなたの知りたいことはあとで答えます」
ある事ってなんだろう。そう疑問に思いつつもこの人たちに従うことにする。この世界から抜け出すのにはこの人たちの力が必要だもの。
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