水神の棲む村

月詠世理

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20話

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 家族が殺されたのは、神子は一人いれば十分なんていうふざけた理由だった。そんな僕の心が澱まないわけがない。それに、心が澱まない人間なんていないからね。誰しも心の内には、ドロドロとした感情を飼っている。それを表に出さないように理性で押し込んでいるか、押し込んでいないかの違いだよ。まあ、水神様は神様だから、そういうのに敏感なのかもね。彼女ククリにもそういう感情はあるだろうに……。僕が気に食わないのかな?

 ふふふふ、今は気にせずにいこう。僕に力を貸してくれればそれでいい。僕たちを気の抜けた表情で眺めている彼女にも知ってもらわないとね。自分は関係ないなんてことは言わせないよ。僕が村のやつらに復讐するために、ククリという存在は必要不可欠なんだ。水神様も彼女も、僕の助けになってくれると嬉しいな~。僕にはまだ秘密があるけれど、それはまだ教えない。簡単に人に晒せるものは、秘密とは言えないからね。

※※※

 シズクと名乗った少年と水神の視線が絡み合う。お互い何を思って相手を見ているのかはわからないが、一人は無表情で、一人は嫌そうに眉を顰めていた。

 私は、彼らが作り出した微妙な空気から逃げたいのだが、少年が言った「利用と生贄」が気になった。生贄に関しては私にも関係ある話である。だから、聞く権利はあると思うし、なによりも聞きたいと思った。真実を知りたい。

 利用したのは誰だろう? なぜ利用したのだろう? 生贄を求めたのが水神でないのだろうか? 水神でないなら誰がこの制度を作ったのだろうか? 疑問は尽きない。

「まぁまぁ、そんな顰めっ面してないで、僕の話きいてよ~。水神様はこの話に興味を持つよ?」
「そうか。では、早く帰れ」

 素早い返事をした水神。秒で断ったよ。自身の命が消えようとしていたのに、そうなった原因とかに興味ないのかな。
 それにしても、少年彼はよく水神に間延びしたしゃべり方をできるな。感心するよ。まるで恐れを知らないようだ、と思った。

「ええっ!? その反応おかしいよ~。普通、『教えてください』っていうところだよね! 水神様って実は照れ屋なんだね。だいじょーぶだよ、僕、ちゃ~んとわかってるから」
「……」

 いやいや、そんな丁寧に頼まないって。仮にも神様だしさ。それに、冷たい眼差しで見られてるよ。ぜんぜん照れてる様子ではないよ。あ、私が失礼なことを思ったからか、ギロリっと鋭い眼光で睨んできた。

「だんまりしちゃって~。それはよくないよ~。ねぇ、水神様は本当に何も知らないんだよね? だったら、村の人たちに利用されていること知っておいたほうがいいってわかるでしょ? うんうん、いいや。僕、優しいからね! いろいろ教えてあげるよ。僕の過去も含めけど、嫌がらずに聞いてね。水神様。……ククリもね」

 人を煽るような話し方をどうにかしてください。空気がピリピリしてるよ。誰のとは言わないけどね。
 話を聞きたいから言われなくてもいるけど、私はおまけですか。シズクさん? 
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