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15話
しおりを挟む俯きがちに話す者。それに対して、村長と呼ばれていた老人は陽気に答える。
「良い良い。水神様が心地よく過ごせるような環境づくりもわしらの仕事じゃ。ククリが水神様の棲家を荒そうとしているのだ。水神様の棲家はわしらが守るべきであろう?」
「……は、はい」
村人はびくびくとしている。それは、村長の顔を伺いながら、返事をした。そのことに笑みを浮かべる村長。笑みを深めて、村人たちに指示する。
「ククリを見つけ出せ! 罰を与えよ! わしの前に引っ張り出せ!!」
力強く、圧のかかった声に村人たちは、村長にもう一度頭を下げた。その後、行動に移っていった。
***
村長と呼ばれた老人の前に人々はいなくなった。その時、村長の姿は一瞬にしてブレた。そのブレは大きな歪みとなり、姿が変化する。
「老人の姿も真似事も容易ではない」
杖をつき、腰が曲がっていた老人であった。それなのに、若い男、好青年の姿に変わっている。その男は、小さな笑みをこぼし、村人たちが消えた方を見つめていた。
「水神の棲む村の権力者は我だ。誰にも渡すものか! あの娘も我以外、頼ることなど許さない」
青年にそぐわない真っ白な髪。瞳の色は青かった。青年の鋭い瞳が見つめている先は、村人たちではなかったのかもしれない。
「失ったものを取り戻す方法は多くの犠牲だ。必要なものは生贄だった。……ふふふ、あははははっ!! あの娘は我のものだ! これは、罰。我を捨てた罰。大丈夫だ。他の者たちが虐げるお前を我が救ってやろう」
その声を聞く者は誰もいなかった。村人たちはあの娘を探しに行ったのだから。青年の声は誰にも届くことなく、彼方に消えていった。そう思われた。が、陰に隠れて聞いていた者が一人だけいた。それは薄暗い中で立っていたあの女であった。
女は青年の言葉に顔をしかめ、唇を噛んでいる。歯ぎしりもしており、両手を力強く握り締めてもいた。女はなぜを悔しそうな、不愉快であるというような表情をしているのだろうか。なぜ拳に力を込めているのだろうか。その理由は、わからない。
青年が老人の姿に戻ると、女は力強く握っていた手を解いた。陰から様子を伺う女とそれに気づいていない男。彼らはどういう関係なのだろうか。女の反応からして、ただならない関係であるのは確かであろう。
ほくそ笑んだ男は、村にある家へ足を進めていく。「今度こそ必ず手にしてみせる」と呟いた声が風に乗って届いた。それは女の耳にも入ってきたのだろうか。女はキッと男の後ろ姿を睨み、「許さない」と呟いた。そして、青年がいなくなるのと同時に影から消えた。
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