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14話
しおりを挟む薄暗い中、一人の女が立っていた。
肩くらいの茶色の髪。薄い橙色のような肌。猫のような茶色っぽいものの黄色の瞳。真っ赤な唇。豊麗な身体。
その女はニンマリと笑っていた。それは純粋な笑みではなく、不気味なものに見える。ただ、その笑う姿は、人を魅力させるものだろう。魔性の女のような色気がある。
女は目を細めた。それとともに口元が歪む。
「あの娘! 水神のもとへいったのか! 早く、村の人間を向かわせて、村長に報告させねば……。早く、連れ戻さねば……」
夜が明ける。女は、急いで近くにいる人間に言う。
「ミクルの娘の家へ行け! そこに娘がいなければ、村長に報告しろ!」
狼狽える村人。それに苛立ったように、爪を噛んだ女は大声を上げた。
「早くいけ! あの娘のようになりたいのか?」
その言葉に体を震わせた人は、走り出した。転びそうになりながらも、前に前に足を進めていく。あの娘のように虐げられるのは嫌だとでも思っているのだろう。青い顔に、ゼーゼーと上がっている息。そんな状態であるものの足を止めることはない。
「逃げるのは許さない。あの女に似ているなら尚更、地獄に突き落としてあげるの」
誰もいないのに、睨んでいる女。その目は、人を一瞬で黙らせることができるようなものだった。恐ろしく冷たい、不気味な瞳。女はその目を誰に向けているのだろうか。
――村にて。
日が高く上った頃、大騒ぎが起きていた。
「ククリがいない」
「逃げ出した」
「いや、そんなはずはない。どこかに隠れているはずだ!」
「じゃあ、どこにいる!? 探そう!」
怒声が辺りを飛び交っていた。焦りが村人たちの間に広がっていく。村人たちの胸中は読めない。が、虐げられるかもしれないとでも思っているのだろうか。落ち着きのない村人たちが、駆けだそうとした時。そこに現れたのは、一人の杖をつく老人だった。
村人たちは、一瞬で静かになった。彼らは、その人に対して、地に両膝をつけ頭を下げる。
「そ、村長様!」
「村長!」
村長と呼ばれた老人は、村人たちの中心に立った。彼らは村長の言葉を待っている。村の偉い人の頂上に冷や汗を流しているものもいるだろう。
「皆、御苦労。頭を上げることを許そう。皆、落ち着くのじゃよ。わしはククリがいなくなったことはすでに知っておる」
「で、では、村のどこにあの娘はいるのですか?」
「ククリは村のどこにもおらんよ」
村長の柔らかな否定の言葉に、村人たちはざわざわと騒々しくなった。きっと村の中にいないことに、混乱しているのだろう。
「それでは、村から逃げ出したのですか?」
「この村で育ったのに、恩知らずなものね」
「ふぅ、皆。落ち着くのじゃよ。ククリは水神の棲家にいるとわしは思っておる。一応、村の中を探してみてくれ。それで村にいないこという確認がとれたら、水神様がいる湖へ探しにいきなさい。村を探さず、水神様の下へ行くのには失礼にあたるからのう」
ハッと目を見開き、固まる人々。彼らは、村長をジッと見つめていた。辺りが沈黙に包まれているところで、一人が口を開く。
「そ、村長! 水神様が棲んでいる近くを探してもよいのでしょうか?」
恐る恐る村長に問うた者がいた。
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