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12話
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平穏な日々は長く続かない。あいつらは私を放っておいてはくれない。
森の中。
そこにあったのは、大きなログハウスだった。この家は、人間には見えないらしい。特別な膜を家の周りに張っているから、隠すことができているようだ。
「小さい家だが、私と人間一人、二人くらいなら、住むことができるだろう」
二階まである家を小さいと言えるのはすごい。流石、神様だ。
窮屈なところに住むよりは、広い方がくつろげる。そこは、良かったなと思う。
ドアを開いて、中を見てみると、意外に綺麗だった。手入れはされてないと思いきや、しっかり管理はしているらしい。
「なんだ、掃除はしているんだね」
「掃除? 私はそんなものをやったことはないぞ?」
「でも、綺麗に保たれている」
「ああ、レイラが何かやっていたな。ここは元々レイラの家だったから。……私は人間の家の手入れなど知らん」
レイラさんが何かをやっていなかったら、汚い部屋で過ごすことになっていたのだろうか。考えたくないので、もしかしたらというのは頭から追い出す。
「ここなら安全だ。簡単に人間は入ってこれない。もしこの領域に人が入ってきたら、私が関知できる。好きに過ごすといい」
水神が優しくて、不気味に感じる。まるで、私を守ると言ってくれているようだ。きっとレイラさんに似ているからなのだろうが……。
「村の人間に見つからないならそれでいいや。あいつらの鼻をへし折るにはどうすればいいかを考えないといけないからね」
「その村の人間の鼻をへし折るのに初めに考えていたことは?」
「えっ? 水神をころ……、消すこと?」
「誤魔化せてないからな。罰当たりな小娘め」
尾で頭を叩かれた。バシッといい音が鳴る。手加減してくれたのか、あまり痛みは感じなかった。
「水神はその姿で家に入れないよね?」
大きな蛇姿で家まで案内してくれた水神。ここで一緒に過ごすものだと思っていたが、違うのだろうか。大きい蛇は家の扉から入れないはずだ。別の場所に入り口があるとか? それとも、大きさを変えられるとか?
「小娘、私は蛇ではなくて龍だ。その頭は飾りなのか? 歩いたら忘れるのか?」
「あはははは~」
「笑って誤魔化すな」
龍なのは知っているが、蛇と呼びたかったのだ。ちょっとした嫌がらせをしたかったから。そのために、今度は蜥蜴と呼んでみようかな。水神の反応が面白くて、やめられない。
「はあ、私は龍だ! 覚えて置けよ? 蛇でも蜥蜴でもなく、龍だからな。次に蛇や蜥蜴と呼んでみろ、私は小娘に……」
「私に?」
「ははっ、想像を働かせて自分で考えてみるとよい。私はもう休む」
「はっ!?」
目の前には、白くて長い髪をした若い男がいた。瞳は黄金のように輝いている。陶器のような白い肌。潤いのある赤い唇。愛想のない表情ではあるが、均整のとれた顔は美しかった。神々しく、威厳のある姿であった。
「蛇から人の姿に変わるだけで、こんなに印象が変わるとは……」
ブツブツと呟いていた。その時、急に顔に水が直撃する。扉の前には冷えた目をした水神。
「小娘の頭はどうやら酷く悪いらしいな。私が直々に指導してやろう」
何をと思ったが、もう遅い。私は水神に首根っこを掴まれ、引きずられていく。ガチャンと扉が閉まった。助けてくれるものは誰もいない。
恐ろしいほど無表情をしている男に私は見下ろされている。私はこれから何をされるのだろうか。身が震えた。そして、私は身をもって、水神を蛇と言うべきではないと知らされる。みっともないけど、私は水神に泣いて謝ったよ。
森の中。
そこにあったのは、大きなログハウスだった。この家は、人間には見えないらしい。特別な膜を家の周りに張っているから、隠すことができているようだ。
「小さい家だが、私と人間一人、二人くらいなら、住むことができるだろう」
二階まである家を小さいと言えるのはすごい。流石、神様だ。
窮屈なところに住むよりは、広い方がくつろげる。そこは、良かったなと思う。
ドアを開いて、中を見てみると、意外に綺麗だった。手入れはされてないと思いきや、しっかり管理はしているらしい。
「なんだ、掃除はしているんだね」
「掃除? 私はそんなものをやったことはないぞ?」
「でも、綺麗に保たれている」
「ああ、レイラが何かやっていたな。ここは元々レイラの家だったから。……私は人間の家の手入れなど知らん」
レイラさんが何かをやっていなかったら、汚い部屋で過ごすことになっていたのだろうか。考えたくないので、もしかしたらというのは頭から追い出す。
「ここなら安全だ。簡単に人間は入ってこれない。もしこの領域に人が入ってきたら、私が関知できる。好きに過ごすといい」
水神が優しくて、不気味に感じる。まるで、私を守ると言ってくれているようだ。きっとレイラさんに似ているからなのだろうが……。
「村の人間に見つからないならそれでいいや。あいつらの鼻をへし折るにはどうすればいいかを考えないといけないからね」
「その村の人間の鼻をへし折るのに初めに考えていたことは?」
「えっ? 水神をころ……、消すこと?」
「誤魔化せてないからな。罰当たりな小娘め」
尾で頭を叩かれた。バシッといい音が鳴る。手加減してくれたのか、あまり痛みは感じなかった。
「水神はその姿で家に入れないよね?」
大きな蛇姿で家まで案内してくれた水神。ここで一緒に過ごすものだと思っていたが、違うのだろうか。大きい蛇は家の扉から入れないはずだ。別の場所に入り口があるとか? それとも、大きさを変えられるとか?
「小娘、私は蛇ではなくて龍だ。その頭は飾りなのか? 歩いたら忘れるのか?」
「あはははは~」
「笑って誤魔化すな」
龍なのは知っているが、蛇と呼びたかったのだ。ちょっとした嫌がらせをしたかったから。そのために、今度は蜥蜴と呼んでみようかな。水神の反応が面白くて、やめられない。
「はあ、私は龍だ! 覚えて置けよ? 蛇でも蜥蜴でもなく、龍だからな。次に蛇や蜥蜴と呼んでみろ、私は小娘に……」
「私に?」
「ははっ、想像を働かせて自分で考えてみるとよい。私はもう休む」
「はっ!?」
目の前には、白くて長い髪をした若い男がいた。瞳は黄金のように輝いている。陶器のような白い肌。潤いのある赤い唇。愛想のない表情ではあるが、均整のとれた顔は美しかった。神々しく、威厳のある姿であった。
「蛇から人の姿に変わるだけで、こんなに印象が変わるとは……」
ブツブツと呟いていた。その時、急に顔に水が直撃する。扉の前には冷えた目をした水神。
「小娘の頭はどうやら酷く悪いらしいな。私が直々に指導してやろう」
何をと思ったが、もう遅い。私は水神に首根っこを掴まれ、引きずられていく。ガチャンと扉が閉まった。助けてくれるものは誰もいない。
恐ろしいほど無表情をしている男に私は見下ろされている。私はこれから何をされるのだろうか。身が震えた。そして、私は身をもって、水神を蛇と言うべきではないと知らされる。みっともないけど、私は水神に泣いて謝ったよ。
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