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1話

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婚約者はヒロインさんであるアリスを溺愛しているようです。

そもそもなぜゲームの悪役令嬢である私を婚約破棄したかというと、その原因はヒロインさんにあるようです。

詳しくは知りませんが、殿下たちの会話を盗み聞きした結果、そのように解釈できました。

では私がヒロインさんへ嫌がらせをしなければいいのではないでしょうか? ですが、彼女は事あるごとに私に噛みついてきています。

出会いがしらに「ちょっと顔がいいからって調子に乗るな」と怒鳴ったり、私への悪口を書いた紙をばら撒いていたりします。

当然ながらすべて回収、処分しております。

しかも彼女は自分が嫌がらせを受けていると吹聴して回っているようで、私への悪評はとどまるところを知りません。

まったく..........困ったものですわ。

「アリス様っ」

私が登校していると、ヒロインさんが駆け寄ってきます。

「おはようございます」と私は挨拶をしましたが、彼女は私に恨みがましい視線を向けます。

「何の用ですか?」

「あんたって本当に性格悪いのね」

「意味が分かりませんわ」

何を根拠に私が性格が悪いと言っているのでしょうか。

「あんた、殿下たちに色目を使っているって本当なの?」

「色目も何も、私は王太子妃を目指しています。王太子殿下と親しくなるのは当然のことですわ」

「そんなものは愛じゃないわ! 男の愛っていうのはね、もっと情熱的なものなのよ!」

彼女の言葉に対して私は心の底から思います。

.............何を言っているのでしょう?

「それはあなたの妄想でしょう?」

「違うわ! 本当はあんただって分かっているんでしょ!? 好きな人に振り向いて欲しくて意地悪をする。それが女の子なの! それを愛っていうのよ!」

「違いますわ」

「っ..........!」

私は彼女を見つめます。

「あなたは人を愛するという言葉の意味をはき違えていますわ」

「..........違うもん..............あたしは間違ってないもん……」

ヒロインさんは涙を流し、走り去っていきました。

まったく……面倒な人だこと。

そんな面倒な人とは反対に、もう一人の攻略対象であるフレッド殿下は私にとても優しくしてくれます。

今日も学園への通学路を歩いていると、フレッド殿下が私を見つけて駆け寄ってきます。

「おはようアリス」

「おはようございます殿下」

フレッド殿下は私に手を伸ばします。

「学園までエスコートするよ」

「ありがとうございますわ」

私は彼の手を取り歩き出します。

こんな普通の女の子の日常を疑似体験できるなんて夢にも思いませんでしたわ。

このままずっと続けばいいのですが……どうやらそうはいかないみたいですわ。

私はある女子生徒を見ました。

彼女は私と目が合うと、逃げるように走り去ってしまいました。

「どうかしたのかい?」

「何でもありませんわ」

私は笑顔で答えます。

でも本当は……モヤモヤと心に靄がかかっています。

これは彼女がヒロインさんだからでしょうか? それとも私が悪役令嬢だからでしょうか? そんなことを考えてながら、今日も私の一日が始まりました。

学園の休日、私は王都までお買い物にやってきました。

お目当ては最近話題になっていると噂のスイーツ店です。

なんでもこのお店で食べられるパフェというスイーツがとても美味しいらしいのです。

私はウキウキした気持ちでお店に入ります。

すると……。

「いらっしゃいませ~」

メイド服を着た店員さんが私を出迎えてくれました。

とてもかわいらしい方ですわ。

きっと王都に出てきたばかりの新人なのでしょう。

店内には他のお客さまもいませんでしたので、私は彼女に話しかけました。

「ここのオススメは何ですか?」と尋ねると、彼女は笑顔で答えます。

「当店の看板メニューのイチゴパフェがおすすめですよ」と言ってくれます。

「ではそれを一つください」

私はイチゴパフェを注文します。

数分待つと、店員さんがイチゴパフェを持ってきました。

とても美味しそうですわ。

早速一口食べると……ああ、なんて美味しいのでしょう! 今まで食べたことがないくらい絶品でしたわ! それから私は毎日のようにお店に通いました。

ヒロインさんが学園に来なくなりました。

きっと私に嫌がらせを受けて心が折れたのでしょう。

これで私も穏やかに学園生活を送れますわ。

そんな折、私に王子様からお呼びがかかりました。

「アリス、君に伝えたいことがある」

「何でしょうか?」

私が尋ねると、彼は悲しそうな表情を浮かべます。

「……婚約破棄をしてほしいんだ」

「……え?」

彼の口から発せられたのは衝撃的な言葉でした。

そして私はそのまま彼に連れていかれ、人気のない校舎裏に連れていかれます。

ああ、とうとうこの時が来てしまったのですね……。

分かってはいたことですが、やはりショックなもので……目頭が熱くなってきました。

「アリス、今まですまなかったね」

「殿下……」

私は必死に涙を堪えます。

ここで泣いてしまったら彼を傷つけてしまいますもの。

「実は私には好きな女性がいるんだ」

ああ……ついにこの時が来てしまいましたわ……。

胸が張り裂けてしまいそうですわ。

でも、せめて最後は笑顔で見送らなくてはいけませんわね。

私は笑顔を作ります。

「……わかりましたわ」

そんな私の様子を見て、殿下が申し訳なさそうに微笑みます。

彼は私の手を取り、言いました。

「今までありがとうアリス。君の幸せを祈っているよ」

「……ありがとうございます」

ああ……私の初恋はこうして終わりを告げましたわ……。
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