15 / 15
15
しおりを挟む「あらあら、どのドレスも似合っちゃって困るわね~、にしてもルナちゃん痩せすぎよ!もうちょっと食べましょうね!」
「は、はい」
今、絶賛着せ替え人形になっている。
マリア様は、本当に女の子が欲しかったようで部屋にはいっぱいにドレスや小物が積まれていた。
次から次へとドレスをあてたり、髪にアクセサリーを合わせたりして、それをメイドさん達がどんどん仕分けしていく。
「これ!とても似合ってる~!レースが多いフリフリも言いけれど、プリーツ入ってるスカートも素敵ねぇ…私、こんなに可愛い娘が出来て嬉しいわぁ!」
「え、いえ、恐れ多いです!私はマリア様の娘では…」
「あら、そんな悲しいこと言わないでちょうだい。ルナちゃんは私の娘よ!私の事お母様って呼んでもいいのよ?ねぇ、ルナちゃん」
「え…」
マリア様は少し変わってるのかもしれない。
本来、口を聞くことさえ幅かれる奴隷という身分のものにも親切でお優しい。
私は、本当の母の記憶がもうないけれど、もしも家族が貧乏でなくて、今も一緒にいられたのならばこんなに……。いや、私が奴隷だったからディルク様にもジェイド様にも会えたんだ。
そんな『もしも』はいらない。
「マリアお、お母様…」
合っているか分からなくて、少し声が震えてしまった。それでも、呼んだあとに女神のように微笑んでくれるマリア様を見たら安心してくる。
「あぁ!!本当に可愛い!!ルナちゃんは私の娘なの!!これから、お母様とも仲良くして頂戴ね!お茶会もしたいし、もっともっとドレスも着てほしいわ!ここにあるドレス全部貴方のものよ!!」
「あ、あの、でも先日ジェイド様とディルク様にもドレスを買っていただいたばかりですので、その、」
「いいの!!女の子はドレス何着あってもいいのよ!!大丈夫、可愛いドレスしか着せないから!!」
マリアお母様は、そう熱烈に語るとまた次から次へとドレスを箱から出てきた。
しばらくして、私の顔に疲れが出たのかメイドさんが用意してくださったお茶を飲もうとソファに座った。
「ジェイドとディルクはどう?意地悪されない?大丈夫?」
「はい、ジェイド様もディルク様もとても良くして下さってます。ジェイド様もディルク様も優しいです。」
「そう。」
マリアお母様は、嬉しそうにほほ笑んだ。
「学園では、どんな風に過ごしてるの?」
「ジェイド様は、本を読んでいることが多いと思います。ディルク様は、ポカポカする所が好きみたいでよくお昼寝されてます。たまに、御二人で盤上のゲームをやったりお話されています。」
「…そうなの。よかった…あの子達はね、7歳の頃につけた家庭教師から、勉学を全て身につけてしまって、その後は自分たちで本を読んだりして学園で学ぶことがなくなってしまったの。
貴族だから、学園には通わなくては行けないけれど、それも退屈だったみたいで。よく、悪戯しては私達が呼び出されたわ。」
その重たいため息に、当時の苦労が感じられてしまう。御二人が悪戯してるのは、あまり想像がつかないけれど、本当のことなのだろう。
「あの子たちにつけた執事や従僕も虐めるものだから、どんどん辞職していって誰もあの子たちに近づかなくなった。それは、ここでも学園でも。」
「でも、今なら貴方が居る。ありがとう、あの子たちと一緒にいてくれて。どうか、困ったら私の事を頼ってね。だから、どうか。あの子たちを見捨てないであげて。」
人に居てもらえて感謝されることは、初めてだった。ただただ、商会をたらい回しにされて居場所なんてどこにも無かった。そんな私を買って、そばに置いてくれて、居場所を与えてくれたのはジェイド様とディルク様だ。
だから、もし見捨てられることがあるとすれば、私の方なのに…。
やっぱり、マリアお母様は少し不思議な人だと思った。奴隷にも優しくて、暖かくて、慈悲深い。
「…ジェイド様は、よく頭を撫でて下さいます。可愛いってたくさん言ってもらえて、甘やかされます。ディルク様は力持ちで、よくお膝に乗せられて…でも優しくて安心します。……見捨てるなんて有り得ません。御二人は、とても優しくて、大切です。」
いつものことを思い出して語ると、今一人でいる事が、御二人が隣にいないことがすごく寂しいと感じてしまう。無意識に、涙が込み上げてきて鼻がツンとした。
「あらあらあらあら、どうしましょう。寂しくなってしまったわね。大丈夫よ、もうすぐあの二人も帰ってくると思うから。」
マリアお母様は、私の隣に来て零れる涙をハンカチで拭いてくださった。
「失礼します、母上、そろそろルナを解放してください。もう小一時間はたって……えっ!?どうしたんだ!ルナ!!」
一度流れた涙は、壊れたように止まらなくて。入室してきたエルゼお兄様にも見られてしまった。
「ジェイド達が居なくて、寂しいみたいなの。そろそろ、帰ってくると思うのだけど……」
「ルナ、大丈夫だ!アイツらはもう帰ってくるぞ、だから泣かなくていい。あ、そうだ。ルナはベリーが好きなんだろ?ベリーのジュースを用意させるよ。ほら、だから泣かないで」
「…ご、ごめ、んなさい、っ」
「謝らなくていいのよ、いつも一緒に居たもの。居ないと不安で寂しいのは当たり前だわ。大丈夫よ、大丈夫。」
濡れるのをお構い無しに抱きしめられた。私の戸惑いに気づかないまま、ゆらゆらと頭を撫でられる。
暖かい温もりに、優しい手つきで撫でられ気づいたら私はそのまま眠ってしまった。
10
お気に入りに追加
1,576
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(47件)
あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
更新お待ちしてます!よろしくお願いいたします🙏
更新お待ちしております!
退会済ユーザのコメントです