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しおりを挟む「あらあら、どのドレスも似合っちゃって困るわね~、にしてもルナちゃん痩せすぎよ!もうちょっと食べましょうね!」
「は、はい」
今、絶賛着せ替え人形になっている。
マリア様は、本当に女の子が欲しかったようで部屋にはいっぱいにドレスや小物が積まれていた。
次から次へとドレスをあてたり、髪にアクセサリーを合わせたりして、それをメイドさん達がどんどん仕分けしていく。
「これ!とても似合ってる~!レースが多いフリフリも言いけれど、プリーツ入ってるスカートも素敵ねぇ…私、こんなに可愛い娘が出来て嬉しいわぁ!」
「え、いえ、恐れ多いです!私はマリア様の娘では…」
「あら、そんな悲しいこと言わないでちょうだい。ルナちゃんは私の娘よ!私の事お母様って呼んでもいいのよ?ねぇ、ルナちゃん」
「え…」
マリア様は少し変わってるのかもしれない。
本来、口を聞くことさえ幅かれる奴隷という身分のものにも親切でお優しい。
私は、本当の母の記憶がもうないけれど、もしも家族が貧乏でなくて、今も一緒にいられたのならばこんなに……。いや、私が奴隷だったからディルク様にもジェイド様にも会えたんだ。
そんな『もしも』はいらない。
「マリアお、お母様…」
合っているか分からなくて、少し声が震えてしまった。それでも、呼んだあとに女神のように微笑んでくれるマリア様を見たら安心してくる。
「あぁ!!本当に可愛い!!ルナちゃんは私の娘なの!!これから、お母様とも仲良くして頂戴ね!お茶会もしたいし、もっともっとドレスも着てほしいわ!ここにあるドレス全部貴方のものよ!!」
「あ、あの、でも先日ジェイド様とディルク様にもドレスを買っていただいたばかりですので、その、」
「いいの!!女の子はドレス何着あってもいいのよ!!大丈夫、可愛いドレスしか着せないから!!」
マリアお母様は、そう熱烈に語るとまた次から次へとドレスを箱から出てきた。
しばらくして、私の顔に疲れが出たのかメイドさんが用意してくださったお茶を飲もうとソファに座った。
「ジェイドとディルクはどう?意地悪されない?大丈夫?」
「はい、ジェイド様もディルク様もとても良くして下さってます。ジェイド様もディルク様も優しいです。」
「そう。」
マリアお母様は、嬉しそうにほほ笑んだ。
「学園では、どんな風に過ごしてるの?」
「ジェイド様は、本を読んでいることが多いと思います。ディルク様は、ポカポカする所が好きみたいでよくお昼寝されてます。たまに、御二人で盤上のゲームをやったりお話されています。」
「…そうなの。よかった…あの子達はね、7歳の頃につけた家庭教師から、勉学を全て身につけてしまって、その後は自分たちで本を読んだりして学園で学ぶことがなくなってしまったの。
貴族だから、学園には通わなくては行けないけれど、それも退屈だったみたいで。よく、悪戯しては私達が呼び出されたわ。」
その重たいため息に、当時の苦労が感じられてしまう。御二人が悪戯してるのは、あまり想像がつかないけれど、本当のことなのだろう。
「あの子たちにつけた執事や従僕も虐めるものだから、どんどん辞職していって誰もあの子たちに近づかなくなった。それは、ここでも学園でも。」
「でも、今なら貴方が居る。ありがとう、あの子たちと一緒にいてくれて。どうか、困ったら私の事を頼ってね。だから、どうか。あの子たちを見捨てないであげて。」
人に居てもらえて感謝されることは、初めてだった。ただただ、商会をたらい回しにされて居場所なんてどこにも無かった。そんな私を買って、そばに置いてくれて、居場所を与えてくれたのはジェイド様とディルク様だ。
だから、もし見捨てられることがあるとすれば、私の方なのに…。
やっぱり、マリアお母様は少し不思議な人だと思った。奴隷にも優しくて、暖かくて、慈悲深い。
「…ジェイド様は、よく頭を撫でて下さいます。可愛いってたくさん言ってもらえて、甘やかされます。ディルク様は力持ちで、よくお膝に乗せられて…でも優しくて安心します。……見捨てるなんて有り得ません。御二人は、とても優しくて、大切です。」
いつものことを思い出して語ると、今一人でいる事が、御二人が隣にいないことがすごく寂しいと感じてしまう。無意識に、涙が込み上げてきて鼻がツンとした。
「あらあらあらあら、どうしましょう。寂しくなってしまったわね。大丈夫よ、もうすぐあの二人も帰ってくると思うから。」
マリアお母様は、私の隣に来て零れる涙をハンカチで拭いてくださった。
「失礼します、母上、そろそろルナを解放してください。もう小一時間はたって……えっ!?どうしたんだ!ルナ!!」
一度流れた涙は、壊れたように止まらなくて。入室してきたエルゼお兄様にも見られてしまった。
「ジェイド達が居なくて、寂しいみたいなの。そろそろ、帰ってくると思うのだけど……」
「ルナ、大丈夫だ!アイツらはもう帰ってくるぞ、だから泣かなくていい。あ、そうだ。ルナはベリーが好きなんだろ?ベリーのジュースを用意させるよ。ほら、だから泣かないで」
「…ご、ごめ、んなさい、っ」
「謝らなくていいのよ、いつも一緒に居たもの。居ないと不安で寂しいのは当たり前だわ。大丈夫よ、大丈夫。」
濡れるのをお構い無しに抱きしめられた。私の戸惑いに気づかないまま、ゆらゆらと頭を撫でられる。
暖かい温もりに、優しい手つきで撫でられ気づいたら私はそのまま眠ってしまった。
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