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しおりを挟む「ここだよ。」
連れてこられたお店は白がベースの建物で、周りには植物が植えられている。
入口付近には、外で食べれるスペースも確保されており、白いテーブルに椅子が用意されていた。
御二人と一緒にお店に入る。
広々とした空間で、可愛らしい。ナチュラルウッドの床に小さなテーブルがいくつかセットされている。
中には結構お客さんが入っているみたいで、ドレスを着て着飾ったご婦人やご令嬢が屯っていた。
御二人に気づくとそこかしこから黄色い声と、好奇の目が向けられる。
ついでに、私という異物に向けられる何アレと言った目線も。
「いらっしゃいませ。」
優しそうなお婆さんが、朗らかな笑顔で迎えてくれる。
御二人はスっと手をあげると、つかつかと奥に進みどこかの部屋へ向かう。
入った部屋は、ガラス張りになっていてキラキラとした日光に照らされている。
部屋にはテーブルとソファのセット。
あぁ、見慣れているなと思えばいつも通り、片方のソファに御二人が腰を下ろし、その間に私を招く。
慣れとは怖いもので、私も素直に座るのだが。
「この部屋はVIP御用達ってやつだよ。ほら、メニュー読んであげるから食べたいもの全部言ってね。ベリーのムース、チョコケーキ、フルーツタルト、コラールのゼリー、マリナのロール、だって。」
…と、言われましても……
「…ルナ、ケーキって食べたことあるか?」
ディルク様は眉間に皺を寄せ、私の顔を覗きこんだ。
「な、ないです。」
「…よし、ジェイド。全部頼もう」
「そうだね。」
そう言って、デーブルのハンドベルを掴もうとされるのを止めた。
「い、いえっ!全部はいくらなんでも食べきれないのでは…」
「1個ずつ頼んで、3人で分けよう?気に入ったならもう一個頼んでいいし。それに、ケーキ自体もあまり大きくないんだよ?」
「そうだぞ、昨日の朝食のスコーンあっただろ?あれの2個分くらいの大きさだ。」
スコーンの2個分…私の手の平くらい?かな。それなら、3人で分ければ食べきれる…?
…まぁ、お腹いっぱいになったらどちらかのお口に運べばいいよね。
そうこう考えていたら、ジェイド様が注文していた。
注文を取りに来たお婆さんが引くと、ディルク様は私の膝に頭を乗せてゴロンと寝転がる。余ってしまった足をソファの手すりにかけ、私を下から見つめると片方だけ口角をあげる。
「…やっぱりルナ、ピアス似合うな」
開けたばかりの耳はあまり痛みも感じなかった。似合うと言われれば少なからず高揚感が生まれ、つい頬が緩んでしまう。
「……ありがとうございます」
サラッと流れたディルク様の前髪を元に戻すように撫で付けながら、お礼を言う。
「…あ''~……かわいい」
顔を隠すように私のお腹にピッタリとつけ、腕を背中にまわされる。
でも、見えている耳はほんのり赤くて何だか可愛らしいなんて失礼に思ってしまった。
「ディルクが照れるなんて珍しい」
「…うっせ」
「ふーん、ディルクがルナに甘えるなら、僕はルナを甘やかそっと。ルナ」
そう名前を呼ぶと、私の髪を梳くように優しく撫でる。もう片手は頬に触れられた。
「ふふ、ルナ」
熱がこもったように名前を呼ばれ、暖かく包み込まれる。お膝の上にあるディルク様の頭をゆっくりと撫でながら、首を傾け少し甘えるようにジェイド様に寄りかかった。
そうすれば、満足とも言える笑顔を向けられる。
「もう、本当に可愛いなぁ。どうしてくれよう、この子は……こんなに可愛いと直ぐに誘拐されそうだし(させないけど)、みんな好きになっちゃうだろうな(殺すけど)。」
「本当にな。これだけ可愛いと学院に連れていくのも嫌になる。でも、置いてくなんて選択肢は無いしな。俺達がずっと一緒にいるしかねぇ」
これはアレだろうか。
迷惑になっているのだろうか。
可愛い云々は激しく理解は出来ないし、誘拐?だとか好きになる?とか話が飛躍しすぎてて凄いけれど…一緒に居るの嫌なのかな…
思わず眉が下がれば、見上げてきたディルク様がそれに気づきガバっと身を起こす。
「お、おい、どうした。どっか痛いのか?」
「ルナっ?どうしたんたい?」
「……私と一緒に居なきゃいけないのって迷惑じゃ」
「「いやいやいやいや、迷惑とかないから!!」」
綺麗にハモった。
動作も同じ。激しく首と手を横に振る。
「いや、可愛すぎで、周りに目をつけられるのが嫌ってだけだから!学院に行かなきゃ行けないのは僕らの歳と身分のせいだし!あんなつまんない所、ルナとディルクが居なきゃ行けないし!」
「そうだぞ。しかも、ルナを置いてくなんて俺達はできない。四六時中一緒に居たいし、俺達が離れなれないだけだ」
「ルナ、わかるね?迷惑なんて微塵も思ってないよ。僕達はルナと一緒に居られて嬉しいんだし、それがいいんだ。」
「むしろ、家に置いてくだとかの方がよっぽど気になって仕方ない。だから、目の届く範囲に居てくれ。頼むから」
御二人はそれはもう焦ったように早口で、少し怖い顔をしながら勢いよく否定される。
なんだか悲しいなんて気持ちはどこかに吹っ飛んでしまった。
「……はい」
落ち着くように息を吐き、か細い声で返事をすれば御二人は両サイドから私を抱きしめたり撫でたりされた。
私も返すように抱きつけば、さっきまでの雰囲気に戻りまた穏やかな時間になる。
どうやらジェイド様は私に「可愛い」というのがハマったらしい。撫でる度に何度も言われ「ちゃんと自覚してる?」なんて聞かれる始末である。
それに曖昧な返事を返す時、丁度お婆さんが声をかけてきて台車と共に色とりどりの可愛らしいものを運んできた。
ベリーのムースは、甘酸っぱいクリームが固まったもの。
前食べたベリーのゼリーとは違った舌触りだけど、広がる軽減された甘みと酸っぱさのバランスがいい。御二人の口にも運ぶと御二人とも、「やっぱりこの店は美味しいな」と言う。
チョコケーキは、言わずもがなチョコのクリームとスポンジで構成されたもの。
ジェイド様がこれを召し上がりたいと仰ったので、口元に運ぶ。ジェイド様はチョコが好きらしい。口をほころばせると優しく「美味しいね、ルナほら」と食べさせてくれた。
フルーツタルトはサクサクの生地にカラフルな熟したフルーツがのり、
コラールのゼリーは透明な薄ピンクで甘みが遠く食べ終わりがさっぱりとする。
マリナのロールは南国のフルーツを使っているらしく、黄色の果肉を含んだクリームをスポンジで包み込み、丸めたものだった。
ディルク様はこれを召し上がりたいと仰ったので、「あーん」と口に運べばご自分の口の端に着いてしまったクリームを指で荒々しく舐めとる。そんな動作だけがまた官能的で…。内心ドキドキしているというのに、ディルク様は私にケーキを差し出し「美味いから食ってみろ、」と食べさせられる。濃厚なクリームの中に水々しい果肉が入っており、これもまた美味しかった。
どれも美味しい。お腹はいっぱいになってしまったけど。
「ルナ、どれが1番美味かった?」
「…どれも美味しかったです。今日はもうお腹がいっぱいですが、機会があればまたベリーのムースが食べたいです」
「そっか、それはよかった。ルナはやっぱりベリーが好きなんだね。また来ようか?」
「次は、ベリーか。ベリーならタルト…パフェでもいいな。また来るか」
「はいっ」
また一緒に出かけてくださる。
また一緒に出かけられる。
それだけが無性に嬉しい。今からでも楽しみになってしまう。
「…またデートですね」
浮かれたついでにポツリとそんな事を言ってみる。
「「またこの子はっ…!!」」
御二人は天を仰ぐように上を向き、片手で顔を覆う。
何かに身悶えるようき声を出し、重たいため息をついたのだった。
「うちのルナが可愛すぎる…もう、部屋に閉じこめて置きたい」
「いやそれやったら俺らが四六時中居るのが無理になるから、それは我慢しろ」
「我慢するよ…あぁ、でも本当に可愛い」
「……同感だ」
*すいません、長らくお待たせ致しました!
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