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しおりを挟む「あ、起こしてしまったかな」
私を覗き込む鮮やかな赤の瞳。思わず眩しくて目を細めてしまう輝く金髪。
ジェイド様方と同じ黒い制服をまとい、少し屈んで私を見つめるこの人は誰だろうか。
「起こすなよ」
上から怒りが交じるジェイド様の声が降ってくる。パタンと本を閉じ、私を抱え直すと膝の上に座り直す形になった。
本当に眠り落ちる寸前だった私は、まだ頭がはっきりと動かずぼんやりしてしまう。
「ジェイド、交代」
向かいのソファーに座っていたディルク様が、立ち上がり金髪様を避けて隣に座る。そして私を引っ張り、次はディルク様の膝の上に着地した。
ディルク様は私の頭を撫でながら、どうせ眠いんだったら寝てもいいぞと言う。
鼻腔をくすぐるように香る香水の匂いが安心して、またふわふわと眠りに誘われた。
「え、無視は良くない。それに、私にも噂の彼女を紹介してほしいな」
噂…?
聞きなれない単語に目が冴えてきた。
金髪様の方に目を向けると、それはそれはいい笑を浮かべる。金髪様も御二方同様に整った顔でそれでいてマスクが甘い。「ん?あれ、いつもだったらこれくらい笑うと赤らめるのに…」などと言動は理解し難いが私にはわからない程難しいことを考えていらっしゃるのでしょう。
「おい、ルナに色目を使うな。もぐぞ」
「何を!?…あぁ、はいはい。私が悪かったよ、だからそんなに睨まなでくれ。全く…あの有名なクラリネス伯爵令息達が女の子を連れて登校してきたって言うんだからどこもかしこも大騒ぎだよ。みんな信じられない光景を見て授業どころじゃないし、教師達は話を信じきれず君たちの兄に殺到する始末だ。
そして、当の本人達は私のプライベートサロンでくつろいでるんだから。文句の一つや二つや色目も許して欲しいもんだよ。」
「「おつかれ」」
「それで、彼女は誰なんだ?」
「「お前は知らなくていい」」
「意地悪だな!!」
そこから金髪様と御二方の攻防が繰り広げられる。私は目が覚めてしまっためディルク様のお膝から辞退しようとしたのだが腰をしっかり掴まれているため諦めた。…このまま私は1人でソファに座ることなんてないんだろうか…。
あれ、そういえば金髪様は確か『私の』プライベートサロンって…ここって王族専用…あ、この方が知り合いか。
どうやらこの方が王族の知り合いの方らしい。確かにお金持ちみたいだな、なんか気品がだだ漏れてる、なんて思いながらチラッと見た。
「私は、レオン・ユーステリネス。ジェイドとディルクの数少ない友達だよ。一応、第三王子だけど気にしないでレオンって呼んでね。」
朗らかに、太陽みたいに笑う人だ。
「ルナです」
会釈しながら答えておく。
きっと、身分的に考えれば不敬もいい所だろうが、本人が気にしなくていいと言ったのだ。有言実行させてもらう。
それに、私は正しい作法なんか知らない。奴隷の私にとってはこれか地面に頭をつけて頭を垂れるのが最上級の作法だ。
レオン様は特に気にしないみたいだが。
「そう、ルナちゃんか。ルナちゃん、この2人を相手するのは大変だろうけど頑張ってね。あ、サロンはいつでも使ってくれていいからね。」
どこかで聞いた言葉だけれど…あぁ、エル兄様と同じ事を。
「大変ではないです。むしろ私の方がいっぱい面倒かけて、大変だと思います…」
面倒で大変。自分で言ってやっと気づいた。
これは現実なんだろうか。
こんなに甘えて。引っ付いて。
私が作り出したただの夢では…?
私は不安に思ってるのか
御二方に捨てられること?嫌われること?一度、こんな優しさを、心が満たされる、幸福を知ってしまえば、それが無くなるのが本当に怖い。
でも、どこかで、その覚悟をしている自分がいる。
甘えるように寄り添っても、頭を撫でられても、笑いかけてくれても。
どこかで私は怖いまま、不安なまま。
捨てられる覚悟をしている。
嫌われる覚悟をしている。
『拒絶』『憎悪』『悲しみ』
嫌なのに、慣れてしまっているんだ。
受け止めようとしているんだ。
あぁ、足りない…
なんだか体が寒くなってしまった。
心が何かを欲している、足りないと叫ぶ。
ブルリと体を震わせ、そのままディルク様に引っ付く。どうか、拒否しないで。どうか、捨てないで。
彼の首の横、肩口に顔を寄せる。
両手を彼の後ろに回し存在が分かるように、拒否しないでと願いながら強く抱きついた。
「…昨日と比べると今日はよく甘えるな。慣れてきたのか。」
ディルク様は難なく私の背に腕を回してくれる。答えるように受け止めてくれる。
「そういえば今日は甘えてくるね、ルナ。いい子だな…(癖にさせよ)」
ジェイド様もディルク様に引っ付く私の頭を撫でてくれる。
「なんか私の存在忘れてない?ねぇ、レオン様って読んでみてよ、ルナちゃん。」
「「空気を読め、邪魔をするな」」
「……レオン様、遅くなりましたがサロンにお邪魔させて頂いてます。ありがとうございます。」
「ううん!いいんだよ~、ルナちゃん二人に勿体ないくらい、いい子だなぁ!せっかくだし私もこのまま…」
「あ、本当にルナがいる!!!」
レオン様の言葉を遮るように、サロンに入ってきたのはエルゼお兄様。レオン様は不服そうにエルゼお兄様を睨む。
でも、エルゼお兄様は全く気づいた様子なく一直線にこちらに歩み寄ってきた。
「おい!なんでルナがいるんだ!この学院の生徒じゃないから連れてきちゃダメだろう!!!」
また大きな声が…両耳を抑えたくなるのを我慢してディルク様にしがみついてしまった。
「うるせぇ」
「うっ、なんでディルクが怒るんだ…!僕の方が怒ってるのに……」
やっぱり私は学院に来ては行けないらしい。それは、そうですよね。だって、部外者だし。生徒じゃないし、というか奴隷だし…でも、お二人に命令されれば無理です、とも嫌ですとも言えないのだ。
「へぇ…じゃあ、エル兄さんはルナを誰もいない部屋に置き去りにしてこいという訳か。一人ぼっちで可哀想だな…ルナ泣いちゃわないかな…」
え、泣く?
「そうだよな。きっとルナなら寂しくて泣くぞ。それはもう目がパンパンに腫れるくらいにな」
パンパン?
「それに、僕達もつまらないからまた学校で玩具を探さなきゃいけないね」
玩具?
「確かにな。ルナが居れば、暇じゃないが、居られないなら暇だしな。何かまた時間つぶしを探すか」
「…サロンはいつでも使っていいからルナちゃん連れてきなよ…。皆の平和のために…エルゼ、そうした方がいいよ。それに、もしかしたらルナちゃんが居ることで2人が大人しくなって、エルゼさんも仕事が減るかもよ」
「……そ、うですね…うん、学院長に掛け合ってみる。なんか十中八九許可が出そうだけど。」
ん…ということは?
「ルナ、僕達と学院来てもいいってさ」
「よかったな、これで寂しくないぞ」
…寂しいなんて一言も言ってないけれど、もしかしたら1人になったら寂しいと思えるのかな。『寂しい』か
「はい」
一緒にいてもいいんだ。寂しくない。
心が浮かれる。『嬉しい』んだ。
与えられるものが多い。感情はこれほど自分にあったんだ。
「嬉しいです」
思ったことをそのまま、素直に吐き出しみる。御二方はそうだろうと言わんばかりに、私を見て微笑んだ。
「……もう、私は完全に忘れられてるな。」
「あ、御機嫌麗しゅう、レオン様」
「遅れた挨拶ご苦労さま」
「失礼しました」
「はぁ…ところで、あの2人は一体一日で何があったのですか。別人ですよ、悪魔の微笑みなんて初めて見ました。」
「何があったといえば…ルナでしょうね。彼らの場合、とんでもない気分屋ですのでどうなるかは分かりませんが、大層気に入ったみたいです。」
「へぇ……ルナちゃん、ね。」
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