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しおりを挟む突然入室してきたその人は私を見つめ動きが止まった。目は見開いたまま、口は空いたまま。呆然と私を見つめている。
「エル兄、部屋に入るなら扉を閉めてくれ。体が冷える」
そう御二方に言われ、消えそうな声で「あぁ…」というと後ろ手に扉を閉めた。そして、私から一切目を逸らさず向かいのソファに腰を下ろす。
人に見られるのには慣れているけれど、ここまで凝視されるとちょっと…
居心地が悪く感じ思わずといったように体がたじろぎ、ジェイド様の背中に隠れるように顔を隠す。
後ろからディルク様の「そっちに行くのか」という声が耳に届くことはなかった。
「エル兄さん、用件は?何か急いでたみたいだけれど。」
「はっ…そうだ!そうだよ!!その、女の子はどうしたんだ!?突然連れてくるし、どこの家の子か分からないし、話を聞いた僕も使用人も驚きすぎて頭が回らないよ!!」
「あぁ、彼女は奴隷だよ。今日買ってきたんだ。」
「買ってきた!?というか奴隷!?はぁー!?」
チェストの上に置かれた花瓶もガタガタと揺れるほどの声量で叫ぶ。
別に怖い訳では無いけれど驚いてしまった。すると、後ろから手が差し込まれ、ぐいっと引っ張られる。
気づいたらディルク様の膝の上にいて、頭をディルク様の首の斜め左下に固定される。何故か、全然宜しくない体勢なのに落ち着いてしまった。
ジェイド様もすすすっとディルク様の横に詰め寄り、私の足をご自分の膝にのせる。
この御二方はやりたい事をやる『気まぐれ』だと言っていたので、あえてそれを邪険に扱わずされるがままに務めた。
正直、あまり嫌だと感じない。今まではベタベタ触られると気持ち悪くてその手から出来るだけ逃げたり、嫌な顔をしたりしていたけれど、不思議な程に嫌悪感を抱かなかった。
「エル兄さん、あんまり大きな声を出さないでよ。彼女がビビってるよ」
「あ、ごめん。悪かった。っていや、そーじゃなくて!!なんで奴隷を買ってんの!?しかも…くぅっ、なんか美人だし!!なんか可愛いし!何これ僕も撫でたい!!」
「はいはい、落ち着いてねエル兄さん」
「近づくなエル兄」
2人にぺっぺっと手で追い払われ、その人は不満そうに頬を膨らました。
「いい大人が何やってんだよ」
ディルク様に言われ、何故かショックを受けた顔(コイツには言われたくないという顔)をするが何かを言い返しては倍になって嫌味やななんやら帰ってきていた。
私は目線だけその人に向ければ、その人は私に気づいたようで、片手を差し出してくる。
「あぁ、ごめんね紹介が遅れて。この2人の兄でエルゼ・クラリネスです。エル兄って呼んでね、えっと…君のお名前は?」
そう聞かれてから、私の顔上にいた御二方はハッとして「あ、名前…」と呟いた。
「…私、名前ないです」
決まったものは。毎度商会で買われる度に何か名前をつけられるが、どれも愛着はなく名前として教えれるものがなかった。
「…じゃあ、ルナね」
「ルナ…?」
「そう。お前の名前は今日からルナだよ。ずっと、そう名乗るんだよ」
ジェイド様にそう言われ、戸惑いながらも頷いた。私が頷けばジェイド様は満足したように微笑み私の頭を撫でてくれる。
「ルナ」
ディルク様に呼ばれて振り向けばディルク様は私を抱える腕に力を込めた。
すると、私は腕の中にすっぽり入ってしまい、動けなくなる。
「…えっと、僕はこの差し出して握られない手をどうすればいいのかな。」
「切り落としとけよ」
「何を物騒なことを言うんだ!全く…はぁ、ルナ。君を買ってしまったなら今日から君はうちの契約の子になるね。この2人の面倒は本当に本当に本当に、大変だろうだろうから何かあったらこのお兄様に頼ってね。何もなくても頼っていいからね。」
「うるせぇ」
「兄さん、用が終わったなら帰って」
御二方はさっさと追い出すようにたし流し、私をちらっと見てくる。
「…?」
「……それはそうと随分気に入っているんだね」
「「…………まぁな(ね)。」」
気に入っている?何を…?
私には彼らの主旨を察することは出来ないみたいだ。
お腹は満足したように膨れてて、まだ体はポカポカで、ディルク様の体温が伝わって安心感があるせいか、少しウトウトしてきた。
「ルナ、眠いみたいだね」
「あぁ」
「おっと、それじゃ僕はお暇するよ。
おやすみ、ディルク、ジェイド、ルナ」
「「おやすみ」」
「…おやすみなさい」
「う“っ…かわいい」
「「さっさと出てけ」」
また御二方に追い払われるようにされしょんぼりと項垂れながらエルゼお兄様は部屋を退出された。
「よっと…」
ディルク様に引っ張られたと思えばまた横抱きにされ、次は今の奥にある扉を開いた。そこには商会に置いてあった閨用のベット(ダブル)よりも倍のサイズのベット(キング)が置いてあり、カーテンなどが閉められた寝室になっていた。
ベットの中央に身を置かれる。
思わずその柔らかい感触のシーツに身を預けながらも、体は自分でもわかるほど強ばっていた。
あぁ、これから閨の時間。憂鬱で嫌なあの一時。この人たちにも飽きたと言われ売れる日が来るだろうか。使えないと言われ罵られるだろうか。
いつもとは違う恐怖が込み上げてくる。
人に捨てられるのも期待を裏切るのも慣れたはずなのに、何故こんなにも怖いのか。少し優しくされたからと絆されてしまうほど私は単純な人間だったようだ。
布団をめくられ、戸惑いながらも入り込むと、ディルク様もジェイド様もベットに身を沈めた。
そしてピッタリとくっ付き合いながら「おやすみ」と一言。
私は困惑してしまう。だって、私は愛玩奴隷だから。閨、つまり夜のご奉仕は一番の仕事。なのに、彼らは服を脱がず私の服も脱がさす、いやらしく触らず何もしない。
私の顔の前にはジェイド様のお顔があり、彼は私のこめかみに手を差し込むと、指の腹で優しく撫でてくれる。
ふと、ディルク様を見ようと後ろを振り向くと、ディルク様は腕で自分の顔を着きながら空いている方の手で私の髪をいじっていた。
「どうした、眠れないのか」
言うか言わないかを悩みながら、結局聞いてしまう。
「……いえ、今日は閨をしなくてもいいのかなと」
あまり恥ずかしさが出ないように素っ気なく言う。返事がないた目を合わせると、ディルク様は石像のように固まって動かず、ジェイド様を見やると豆鉄砲をくらったような顔をし、直ぐに顔をゆがめた。
「…やらなくていいよ」
「あぁ、気にしず寝ろ」
ディルク様は私の頭を撫で、ジェイド様は苦しくないほどにギュッと抱きしめてくる。
私は、なにもしず、ただ安眠をしてもいいと言われ心が満たされた気がした。
そのまま強ばっていたものが抜け、私は意識を手放した。
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