愛される王女の物語

ててて

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第1章 家族

父親

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*陛下が女々しいです。



ちいさな足音。体の動きに左右されながら揺れる銀色の髪。
ふわふわと輝くその姿を見ているとつい、口元が緩む。

その小さな姿で、弱々しい彼女は今までどれほどの苦痛をおってきたのか。
私は分からない、否、分かっても同情する事も許されないだろう。

あの日から見向きもしなくなった後宮に、この子が居る事も確認しなかった愚考を今でも悔いている。

「……お兄様っ」

執務室からは庭がよく見える。声がすると見てみれば、レオンとシルフィが遊んでいた。

…私はあの子に父親として接してもらうことはないだろう…

そんなことを思う権利はないというのに、考えてしまうのは愚の骨頂と言えるだろう。思わずため息が出る。

「それで…ん?話を聞いていますか陛下!大切な話なんですよ!!…あれシルフィオーネ様……遊びたい気持ちは分かりますが我慢して下さい。」

「…違う。」

この馬鹿が。

「じゃあ、なんです?シルフィオーネ様のお披露目パーティーの打ち合わせ中に上の空になる程の悩みは。」

馬鹿のくせにこういう時だけ頭が回る。本当に腹ただしい

「ほらほら、なんです?この国の宰相様が万事解決してみせますよ?ほら、」

普段なら絶対に相談などしない。
ただ、気が滅入っていたのか。

「……あの子は、俺のことを許さないだろう。父親として見ることが出来ないだろうな。例え、あの子の望むことをし、忌まわしい場所を消しても、過去のことは変えられない、報われない。」

震える手を紛らわすように強く組む。

「…あの子は私のことを恨むだろう。今はまだ幼いが、大きくなったら、大人になっても昔の嫌な記憶というものは消えにくい。俺は…こんなことを言うなんて許されないだろうが……」

''父親と思われたい''

''お父様と呼んで欲しい''

''あの小さな体を抱きしめる許しがほしい''

どうか、''娘''として接することを…

言えもしない事を…ただは許して欲しい…


グッと皺がよるのを指で抑える。そんな姿を見たニクロスは信じられないものを見た気分だった。

これほど陛下が感情を昂らせることがあるだろうか。
あの陛下がこんなにも弱々しい姿を見せたことは今までにあっただろうか。

「……陛下、過去を悔いても変わりません。それを罪と思うならば私も同罪でしょう。悔いても仕方がないのですよ。私たちに出来ることは償うだけ。それと、シルフィオーネ様はお優しいですからね。これ以上、傷つけないようにお守りすることですよ。
ほら!シルフィオーネ様のお披露目パーティーのドレスとティアラを発注しなくては!シルフィオーネ様は何色がいいですかねぇ~ピンク…赤…ん~黄色なんかも…」

「………馬鹿が。あの子は絶対に寒色だ。青か緑だろう……」

少し震えたその声をニクロスは気づかなかったことにした。


そして、数日後。やっととれた時間にシルフィオーネを連れて茶会を開いた。



「…っ……ぉとう、さま……」



言い慣れていない、舌足らずな音で紡がれたそれは幻聴かと思った。

とうとう、俺も末期だろうか。

顔を赤らめ、足元を向き、ドレスをぎゅっと掴む。でも、何かを頑張ろうと踏み出す姿は弱々しい姿に反して気高かった。

一呼吸置くと、バッとこちらを向く。
そしてはっきりと。


「…お父様」


ピンク色の唇がはっきりと紡ぐその言葉に息を飲んだ。

嬉しさ、歯がゆさ、愛おしさが止まらない。怖がらせまいとしていたのに我慢ができず、気がついたらその体を抱きとめていた。

体に感じる温かさが愛おしい。
少し鼻をくすぶる甘い香りが愛おしい。

背中に、震える小さな手を伸ばされた時とても言葉では言い表せなかった。

あぁ、なんて……

俺はきっとこの日のことを忘れられないだろう。

救われるはずない私を、許してくれた。その事実だけで救われた。





茶会が終わり、城に帰る頃にはシルフィは疲れたのか馬車の中で眠ってしまった。

そっと起こさないように膝に乗せ体にもたれされる。触れる程度に額に口付けを落とす。

「…シルフィ…いい夢を。」

腕の中で眠るシルフィは天使のように朗らかに眠っていた。







ニクロスは流石に空気を読んで、馬車の中では空気になろうと頑張った。










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