愛される王女の物語

ててて

文字の大きさ
上 下
32 / 36
第1章 家族

お茶会①

しおりを挟む


落ち着きを取り戻した私は陛下に手を引かれ、煌びやかなティーテーブルへやって来た。

白のアンティーク調の丸テーブルに、レースのクロスをひき、上にはカップや小さなケーキ、クッキーが置かれ花で飾られていた。

「かわいい…」

イスをひかれ座ると、陛下は向かい合わせに置いてあるイスを隣に移動させ座った。

変に意識してしまい緊張する。でも、せっかくのお茶会だからマナーが出来るようになったことを見て欲しい…なんて。

陛下はメイドから差し出された濡れタオルを受け取ると、私へ向き直り私の手を柔く包み拭き始めた。

(…え……えっ!?)

驚いて陛下のお顔を見つめてしまったことは安易に想像が出来るだろう。
男の人の手だ、と思わず感じてしまうほど強く分厚い手は壊れ物を触るような優しい手つきで私の両手を吹いていく。

「…へ、陛下…?」

「…きちんと手を拭かないと衛生上悪い」

「あ、ありがとうございます」

何か、やけに周りの目が生暖かい
ニクロスなんて手で口を元を隠してるけど笑ってるのが分かる。
あんまり笑うと…あ、陛下が投げたフォークが服の襟に……

「ちょ、うわぁっ!危ね、危ないでございましょうが!!」

取り乱しすぎて言葉が変に…
陛下はそれを鼻で笑う

なんだかいつも通りで、ほっこりしてしまう。メイドがいれてくれた紅茶を一口含むと口の中に砂糖の甘みと紅茶の香りが広がって口元が緩んだ。

テーブルに目を映せばたくさんの焼き菓子が並びどれを手に取るか悩んでしまう。

「……」

陛下はおもむろにクッキーのバスケットからピンクのクッキーを引き出すと、私の目と鼻の先に差し出してきた。

陛下は一体今日はどうされたのか。
理解しがたく、しかもこれは立派なマナー違反。差し出されたのであれば食べろと言うことだろうか。

分からなくてニクロスに助けを求め視線を移せば、ニクロスを初めとするメイドや騎士まで口パクで「食べて!!」と言っている気がする。いや、言ってる。
口元を指さしたり、咀嚼する真似をしたり、口を開けたり…(お願い、シルフィオーネ様!食べて!!お願いだから!!)と一致団結した心の声が聞こえた。

……はい。

口元を小さく開けてサクッと一口食べて、噛んで飲み込む。
…うん、味はしなかった。

陛下、と言えば片方の口元を上げ、いつもギラギラした怖い瞳が嘘のように優しい瞳でこちらを見つめている。

目を見開いてしまった。
さっきも助けてくださった時も、そして今も。

血走り、稲妻が走るようにギラついた青い瞳も、深みのある優しさが滲んだ青い瞳も。

好ましく、悲しいほどに暖かい。


その瞳を見つめたまま、近づき残ったクッキーを口に含んだ。苺の味がして、サクサクと食べて紅茶を飲めば、また美味しい幸福感に満たされる。

なんだか恥ずかしくなってしまって、陛下の顔を見ることは出来ないけれど、食べさせてもらうのって案外嬉しいものなんだなと思った。

ん?でも、ニクロスにされたらどうだろう……微妙…というか多分、食べない。

じゃあなんで陛下なら食べられるんだろう?

ん?と首を傾げ、悩み始めると後ろからニクロスの声が聞こえた。

「陛下、お楽しみ中失礼します。
大変申し訳ないのですが、いち早く目を通して頂きたい物がありまして、数分時間を割いてくださいませんか?」

「は?後にしろ」

振り向きもせず次のクッキーを、手に取ろうとする陛下にツカツカとニクロスは歩み寄り、耳元で小さく囁いたようだ。

(シルフィオーネ様のティアラの話ですよ。出来るだけ早く話を進めないとお披露目パーティーに間に合いませんがよろしいのですか?)

陛下は眉をピクっと動かして機嫌が悪そうに立ち上がると「直ぐに戻る、何か食べて待ってなさい」と伝えさっさと使用人のもとへ向かって行った。










次話は8/9 .12:00に更新します。


いつも感想&誤字報告ありがとうございます。嬉しいです。
しおりを挟む
感想 342

あなたにおすすめの小説

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

処理中です...