18 / 36
第1章 家族
朝の後宮
しおりを挟む「早く私のもとへ連れて来いって言ってるのよ、この役立たず!
あの女の娘をどこへ隠したのよ!早く言わないと殴るわよ」
そう言いつつドミニカ様は私の胸ぐらを痛いほど掴んでいた。
これほどご立腹なのは言うまでもない、シルフィオーネ様の姿が見えないからだ。
昨日、ドミニカ様の命令で庭に放り出されたシルフィオーネ様は、姿を消していた。
それは最早、私達使用人が夜になり姿を探した時には居なかったのだ。
心配した私を始め、他のメイドや料理人までもが一緒になり探した。
そんな中、悲しくも日は昇ってしまい、ドミニカ様に事のことがバレたのだ。
そして、シルフィオーネ様を私たちが隠したと思っているこの方はそうそうメイド達を問い詰めはじめた。
その最初の餌食になったのは、私だった。
「ほら!言いなさい、ミーナ! あなた、知っているんでしょう?早く言わないと後悔するわよ・・・!」
そういいつつ、片手を大きく後ろに振りかぶる。
ーーー私だって、シルフィオーネ様がどこにいるのか知りたいわ!
そう叫びそうなのを必死に我慢して目をつむる。
ああ、心配でたまらない。この後宮を出たこともないあのお方が無事なのか。真っ暗な夜に一人ぼっちになってしまったあの方が生きているのか。
そうしてドミニカ様のお手が大きくて風を斬ったその時、私の体がこわばった。
パアンと音はなったが、一向に痛みはやって来ず恐る恐る目を開けると男性がドミニカ様のお手を受け止めていた。
この後宮に、男性が立ち寄ることは一応禁止されている。
なので、その男性を見た私も、周りにいたメイドも、あまつさえドミニカ様さえも驚きを隠せないでいた。
「あら・・・貴方は誰かしら?」
何事も無かったように猫を被るドミニカ様は
あぁ、この人も一応は貴族の娘なんだなと感じる様だった。
「失礼いたしました。私は、カスティリア王国国軍第一部隊隊長ハンスと申します。
国王様直々の命により、何名かの使用人を王宮に移動させて頂きます。
ご了承ください。」
そう言い、突然入ってきたハンス様は次々に使用人達に指示を出し始めた。それもシルフィオーネ様をお慕いする者達ばかりに。
指示を出された使用人達は何もわからず、だがハンス様の方が当然身分が上なのでその通りに動き始めた。
そうしてやっと、呆けていたドミニカ様が覚醒し怒鳴り始めた。
「何を勝手なことをしているんです!!!
貴方、私の使用人に勝手に命令して許されると思っているの!?
不敬罪よ、不敬罪!!ここは私の後宮なのだから!!!」
そう叫び出すドミニカ様を見て、ハンス様は静かに溜息をついたように見えた。
「これは、国王陛下のご命令です。貴方様がそれを覆す言われはございません。
・・・あと、もう一つ陛下からのご命令です。2日後、王宮の謁見の間に来るようにと。」
その言葉を聞いたドミニカ様は、先ほどの態度が嘘かのように笑顔になった。
「あらあらあら、やっと・・・やっとなのね!!
やっと、私を正妃に迎えると決めたんだわ!こうしてはいられないわね。エステに新しいドレスも用意しなくては・・あと、宝石も・・・あ!ラベンナもおめかしをしなきゃ・・・」
そう言ってドミニカ様は慌ただしく部屋を出て行かれた。
「シルフィオーネ様は王宮にいらっしゃる。」
そのハンス様の言葉を聞いて私たちがどれほど安堵したものか。
ああ、やっとあのかたが救われる
やっとあの方のお誕生日を普通に祝える
そうはじめは喜んだ。だが、よく考えてみると、王宮?
なぜ今更?なぜ今まで助けてくださらなかったの?なぜ・・?
そんな怒りがふつふつと湧いてきた。
私たちにそんなことを言える資格がないのは重々承知だ。
一番シルフィオーネ様の近くにいたくせして、身分のせいで助けることもできなければ
恐れて口を出すこともできなかった。
そして私たちよりも幼い少女に守られるという情けに姿だ。
だけど、陛下なら、王子様なら…
シルフィオーネ様をお救い出来たはずだ。
なぜ、今になってシルフィオーネ様をようやくお救いしてくださるの?
何かにシルフィオーネ様を利用するの?
シルフィオーネ様を何か危険な目に合わせるの?
シルフィオーネ様は王宮でも無事なの?
そんな不安に駆られ、良くない考えが頭を巡ってしまう。
あぁ、どうか、シルフィオーネ様
ご無事でいてください。
私達は、優しくて、美しくて、可愛らしい貴方が大好きなのです。こんな役立たずの私達ですが、貴方を今度こそは、今度こそは守ります。
『誓い』をたてましょう。
例え、陛下が相手でも守ってみせると。
51
お気に入りに追加
8,276
あなたにおすすめの小説
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

てめぇの所為だよ
章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。


私は、忠告を致しましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。
ロマーヌ様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!
月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。
そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。
新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ――――
自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。
天啓です! と、アルムは――――
表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる