愛される王女の物語

ててて

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第1章 家族

後悔の日

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突然亡くなったアリナは国民に大きな衝撃を与え、誰もが悲しんだ。

確かに公務は忙しく、時には厳しい人だったが、誰にでも分け隔てなく優しい所、そしてその真摯な立ち振る舞いは皆の心を奪っていた。

そんな母上の死を受け止められなったのは私もだった。

皆が並ぶお見送り葬式の時、涙ぐっと耐える私に、その不器用な大きな手で優しく撫でてくれたのは父上だった。

その数日後もぽっかりと空いた穴は埋まらず、何事もやる気力が起きなかった。

父上に呼び出され、執政室に入る。


「…これから後宮に行く。ソフィアに会いに行くのだが…行くか?」

ソフィア様とはもう1人の側妃の方だ。
そろそろご出産が近く、前の来訪の時には体調が優れないそうだったので会いに行けなかった。

まだ会ったことのない側妃の方に会いに行く機会なのだから行くべきだろう。

「はい、行きます。」

せっかくなので行くことにした。
…なんだか、今のままでは勉学にも集中できないし。



そうして、訪れた久々の後宮はどこか慌ただしく、父上がいらっしゃったにも関わらず出迎えが遅かった。

「誠に申し訳ございません、国王陛下。
ですが、失礼ながら少しお急ぎください。
そろそろお生まれになるのです。」

そういって出迎えそうそうに急ぎ走り出したのはメイド長だった。

どうやら、ソフィア様のお腹の子が産まれるらしい。なんとも大変なタイミングで来てしまった。

だが、引き返す訳にも行かずそのままソフィア様の部屋に向かう。

中からは沢山のメイドたちの励ましの声が聞こえ、女の人の悲痛な叫び声も響いていた。


そうして、わぁぁと歓声が上がると共に赤子の泣き声が響いた。

数分が立ち部屋に招かれる。
ベットには少し汗をかき、息絶えだえに横たわる女性がいた。

ベットに散らばった銀色の髪に、鮮やかな橙の瞳。そして、疲れているだろうにも関わらず綻ぶような笑顔に息を飲んだ。

美しい人だと。


「産まれたのか」

「はい、陛下。こんな姿で申し訳ございません。……そちらはレオン王子様でいらっしゃいますか?」

父上の無愛想な言葉にも笑顔で返す。だが、やはり疲れているのかどこか弱々しい声だった。

「は、はい。レオン・クラン・カスティリアと申します。」

「ソフィアですわ。こんな姿でごめんなさい。しっかりと挨拶も出来ずに……」

「いいえ、そんなことは。ご出産おめでとうございます。」

「…どうも、ありがとうございます」

「ご苦労だったな、ソフィア。…男か?女か?」

「…女の子でごさいます。申し訳ありません、私に力が足りず。」

「別によい。レオンがいるだろう。
……もし女だったら、お前に名前を付けさせようと思っていたのだ。…どうする」

ソフィア様は目を見開くが嬉しそうに頬を染めた。

「…シルフィオーネなんて…どうでしょうか。」

「いい。……疲れただろう。寝たらどうだ?
落ち着いたらまた顔を見に来る。」

「はい……そうですね…っゴホっっゴホ」

突然、荒い咳をするとその右手には生々しい赤い血が付着していた。
次の瞬間、よろけた身体を父上が咄嗟に支える。

「…ソフィア!!」

私は部屋から駆け出し、急いで医師を呼びに行った。



隣の部屋に控えていた医師は何事かと駆けつけ、直ぐにソフィア様の治療が始まる。

中からは酷く荒らげた医師の声が聞こえ、これが只事ではないのだと感じた。

そうして、後に部屋から出てきた医師は顔を真っ青にし、下をふいていた。

それで分かったのだ。
あの方も、私の母上のように逝ってしまったのだと。

私はその事を察すると、しばらくそこから動けなくなる。

父上は黙って部屋に入った。



正妃と共に側妃まで連れてなくなるのだから、国民の不安は高まった。

その不安を拭うため父上は執政に付きっきりになり、私ももう感情を押し殺すように元通りな日々を送った。

最早、感情は死んでいたと言っても過言ではないかもしれない。


後に、メイド長から乳母が誤って赤子を落としてしまい亡くなった。

という、訳の分からない話がきた。
だが、私も父上もその時には正気じゃなかった。

あぁ、赤子も死んだのか。と
それだけで片付けた、ただそれだけでだ。

わかるだろうか。
母親と、話したばかりの人を目の前で亡くす感覚を。

人の命は呆気ない。
それは戦を知る父上も、それを学んだ私も分かってはいたのだ。

だが、大切な人を亡くすというのは知らなかった。

それほど大きいものだった。
少なくとも私にとっては。



これが私と父上の最大の誤ちだろう。
その時に、赤子の、シルフィオーネの生死を確認しなかったのを。

酷く痛む心の中、憎い奴らが目に浮かぶ。
そして、その誤ちを犯した自分自身にも。
ぶつけられない怒りを感じた。

それを握りしめる手に込め、爪が食い込み血が滲む。ピリッとした痛みが走る。だが、こんなものじゃない。この子がおってきた痛みはこんなものじゃないんだ。

すると、そっと小さな手が私の手に触れた。

「…痛いですよ。…ね?」

眉を下げ、心配そうにこちらを見る。
その瞳は私と同じ青色で、でもまん丸として可愛らしくて。

「…ごめんね」

それしか言えない自分が情けなくて。

「……?」

何について謝っているのかわからないのだろう。泣きはらした赤い目をこちらに向け首を傾ける。

私の手に自分の手を合わせ、ぎゅっと握りしめてきた。

私もそっとその手を合わせる。

すると、嬉しそうに顔を綻ばせ喜ぶ姿にはソフィア様の面影が重なった。













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