7 / 40
第1章 出会い
7
しおりを挟む*
──ある日。ユキマサの父、稗月木枯はパチスロへと足を運んでいた。
(雨だ……今日はパチスロ日和だな)
さて、何を打つか……
(パチンコなら〝ホスト無双〟スロットなら〝パシリスト絆〟だな……悩み所だ……)
顎に手を当て、小遣いである一万円札を握りしめ、木枯は朝イチのパチ屋の入場抽選を待つ。
抽選の順番は10番、平日の特にイベントでも無い日としてはまあまあの入場順だ。
(よし、今日はパシリストだ! 絆を打つぞ!)
木枯は決意を固める。
そうして打つこと100回転前後、木枯はフリーズを引いた。
「おいおい、マジか!?」
引いた木枯自身が驚く。
結果、この日、木枯は5000円でフリーズを引き、なんやかんやで8000枚(16万円)と大勝利を果たした。
ご機嫌なテンションで木枯は帰路に着く。
家に着くと、木枯は吹雪の前で正座していた。
「──あぶく銭です」
稗月家にはこんな家訓がある。
〝汗水垂らして稼いだ金は自分達の為に使え、あぶく銭は可能な限り他人のために使え〟
この家訓の為の吹雪の対応である。
「ま、待ってくれ、今までスッたのを計算するとそんなに勝ってないんだ!」
「あぶく銭です!」
ニッコリと吹雪が笑う。
「まあ、家族で外食ぐらいは行きましょうか」
その場にぐったりと木枯は膝を吐く。
その日、家族6人で食べ放題の焼き肉チェーン店に晩飯を食べに行き、残った金は母さんが全額孤児院に寄付していたのだった──。
*
「夏祭り?」
理沙が口を開く。
「ああ、今日の夜だ! 屋台、見に行こうぜ!」
俺は楽しげに理沙に言う。
「で、でも……」
チラりと母さんを理沙が見る。
「いいじゃない、せっかくのお祭りよ、理沙ちゃんも見てきなさいな」
「う、うん!」
「よっしゃあ、決まりだな!」
「いや、何で親父が一番嬉しそうなんだよ?」
まあ、ということで、その夜──
「こ、混んでるね」
「理沙はお祭り来たこと無いのか?」
「うん、来たこと無い」
「まじかよ」
「あ、理沙ちゃん、はい、お小遣い!」
と、理沙に母さんが5000円を渡す。
「え、こんな大金、受け取れないよ」
「いいのよ、むしろ店の手伝いをしてくれてるんだから、普通ならこの100倍ぐらい渡したい所よ」
100倍って……まあ、一年以上店を手伝ってるんだからそれぐらい出ても、何ら不思議じゃないか。
「じゃ、じゃあ、ありがとう、な、何、買おうかな」
「たこ焼き、焼きそば、りんご飴、唐揚げ、ポテト、早く回らないとだな」
「ユキマサはどれだけ買うつもりなの?」
「ん? 制覇に決まってるだろ? 名が廃る」
「俺はユキマサに賛成だ、金は俺が持つ、好きに食べてこい」
「流石は親父だ、分かってるな!」
ガシッと、腕を絡ます俺と親父。
「はーいはい、理沙ちゃんバカは放っておきましょ、それより、花火の場所取りをしてくれてる、お義父様とお義母様を探さなきゃね」
「……うん」
*
「たこ焼き1つ」
「焼きそば1つ」
「りんご飴1つ」
そんな感じでどんどんと俺は屋台を回る。
「おい、ユキマサ、そっちはどうだ?」
「どうだも何も、俺は飲食系の屋台を回ってるだけだぜ? 親父こそ、そのキツネの面はどうしたんだよ?」
いつの間にか、キツネの面を斜めにかける親父は上機嫌で話しかけてくる。
「あ、やっと見つけた! おかーさんが探してたよ」
と、現れたのは理沙だ。
だが、理沙の手にはりんご飴とわたあめが握られており、どうやら理沙も理沙で夏祭りを満喫しているみたいだ。
「理沙か、どうだ? 祭りは?」
「うん、すごい楽しい、おばーちゃんにりんご飴も貰ったし──美味しいね、これ」
「にしし、だろ?」
「何でユキマサが誇らしげなのよ?」
「おい、ユキマサ、理沙、そろそろ花火が始まるぜ? 吹雪達と合流しなきゃな? 理沙、案内頼むぜ?」
「あ、うん、こっち」
理沙に案内され、かき氷、大判焼き、お好み焼き、を買いながら俺達は母さん達と合流する。
と、その時だ、ヒュ~ン、ドッカーン!
大きな花火が打ち上がる。
「綺麗……」
「にひひ、だろ? 花火は良いよな」
感動したような声で理沙が呟き、俺はその隣で楽しく笑う。花火は良い、特に誰かと見る花火は格別だ。
「おーい、理沙、ユキマサ、かき氷の屋台があるぜ! 夏の醍醐味だ、食おうぜ、さて何味にするか?」
俺と理沙の間に割って入り、右手を俺に、左手を理沙の頭の上に乗せる親父は子供のように笑顔だ。
「親父、花火見ろ、花火! もう始まっちまったじゃねぇか! ブルーハワイ!」
「バカ野郎! 花火の下で食う、かき氷ってのが乙なんだぜ? お前もやってみろ?」
「な、花火の下で、かき氷だと……!?」
最高に決まってる。
く、馬鹿は俺だ。
「私はイチゴにしようかな」
「お、いいねぇ。俺は変化球でコーラ味だな。よし、おやっさーん! かき氷3つ、ブルーハワイ、イチゴ、コーラで頼むぜ!」
でも、時間は無駄にはしまいと、さっさかと親父は注文と会計を済ませる。
「ありがとな、親父」
「ありがとう。おとーさん」
かき氷を受けとる、シロップもケチケチせず、たっぷりだ。
しかもよく見るとシロップはかけ放題らしい。気前が良いね。
「おうよ。ゆっくり食べな、キーンてなるからな? さ、じゃあ、食いながら、吹雪たちと合流しようぜ」
サクッと刺し、パクっと食う。うん、美味い。
ブルーハワイのこの青色が実に涼しげだよな。
「ていうか、おとーさんもユキマサも手荷物いっぱいだね。どれだけ買ったの?」
かき氷を食いながら、ビニール袋に入った屋台の食べ物を両腕にこれでもかとブラ下げる俺と親父を見て理沙が驚き半分呆れ半分といった様子で見てくる。
「ん? 目に止まった物、全てだが?」
然も当然かのように答える俺に、理沙はやはり呆れ気味だ。
花火の打ち上がる空の下、俺と理沙と親父は、席を取っていた母さんと爺ちゃん婆ちゃんと合流する。
「あら、遅かったですね、花火始まってますよ」
母さんが少しズレて、俺たちの席を開ける。
「おい、木枯、早くせい、先にもう飲んどるぞ」
「あらあら、飲み過ぎないでくださいね」
「いいねぇ。屋台で色々買ってきたぜ、皆で食おう」
親父がビールをグラスに爺ちゃんに注いでもらいながら返事を返す。
ヒュ~ン、ドッカーン!
花火が打ち上がる。
「どうした理沙?」
ふわぁ、と、感動したように花火を眺める理沙に俺はイタズラ気に声を掛ける。
「うん、綺麗だなって!」
花火に負けない明るい笑顔だ。
「理沙ちゃん、理沙ちゃん、たこ焼き食べる?」
「食べる、お婆ちゃんも一緒に食べよ」
婆ちゃんの隣に座り、たこ焼きを爪楊枝で食べ始める。理沙は、たこ焼きを食べると、花火が上がると、少しオーバーなぐらいのリアクションを取る。
でも、凄く楽しそうだ。婆ちゃんも笑ってる。
「本当に綺麗、たこ焼きも美味しい──」
笑みを溢す、理沙。
──花蓮理沙は、この日見た花火を生涯忘れない。
19
お気に入りに追加
2,057
あなたにおすすめの小説

死にたがり幼女とマフィア
狐鳳
恋愛
その屋敷に住まう幼女は産まれてすぐブランドン伯爵家の屋敷の前に捨てられていた。
少し大きくなってからはそこに住まうブランドン伯爵家一家や使用人達に虐げられる毎日…。
そんなある日屋敷を訪れたとても美しい青年に救われた幼女は何も知らなかった世界を知り、そして色んな人達から溺愛される毎日を過ごして幸せとは何かを知り始める、そんな物語。
※ブランドン伯爵家の方は結構雑に扱ってます。溺愛のほうを中心にしていきます。
もしかしたら、番外編とかでブランドン伯爵家とかの話を出すかも…?
あまり期待しないでください。気分で変わるかも…
※後々国の詳細やマフィアの仕組みの詳細、キャラクターの詳細などを載せて行きます!
※長編…のつもり!!
※※HOT22入りありがとうございます!!
※作者が学生なのでスローペースになると思います!!
※初めて作ったので何か言葉がおかしくなっていたり、誤字脱字があったりとあると思いますが、ご了承ください!
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

愛人をつくればと夫に言われたので。
まめまめ
恋愛
"氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。
初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。
仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。
傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。
「君も愛人をつくればいい。」
…ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!
あなたのことなんてちっとも愛しておりません!
横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。
※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…


キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる