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怒涛の入学式
しおりを挟む「はぁ、どうしよう!セレシア!明日よ、、ついに明日になってしまったわ!!私、緊張しすぎて眠れないっ!」
忙しなく動きながらも、楽しみで仕方がないと言ったように彼女は無邪気に笑った。
明日、というのは待ちに待った貴族の子息子女が通う学校への入学式だ。この王国の貴族の子は皆、その学園を出てようやく一人前の大人と言われる。
「エミリー、緊張は分かるけれど少し落ち着いて。興奮で顔が赤いわ」
私は伯爵家の長女で、エミリーは男爵家の一人娘。身分は違えど、エミリーの両親と私の両親はとても古い友人関係を持ち、私達も産まれてからずっと一緒に過ごしていた。いわゆる、幼なじみだ。
エミリーは、波を打つブロンドの髪で透き通るような青い瞳を持つ。少し身長は低めで、甘いものが大好き。いつも笑顔でみんなを幸せにする子だ。
妹のようで、親友で、私の大事な幼なじみ。
「うふふ、だってセレシアと同じ学園に通えるんだもの!とても楽しみだわ!明日からもよろしくね、セレシア」
「えぇ、こちらこそよろしくね、エミリー」
つられて、笑顔になってしまう。
明日からの学園生活に胸をふくらませながら、私たちのお茶会はお開きになった。
*
「こんなものかしら」
今日は入学式だけだ。
一応、筆記用具とハンカチーフ。乾燥クリームをカバンに入れる。
鏡の前に立ち、見られない制服を正す。
真っ直ぐに伸びた銀色の髪に青紫の瞳。
制服は紺色で、私が着ると暗い印象が強くなる。
あぁ、ダメだわ。怖い顔になってる。エミリーのようににこやかに笑わないと、怖がられてしまうわ
頬の筋肉を伸ばし、顔を強ばりをとかした。
制服にホコリがついていないかを確認し、部屋を出る。
私は伯爵令嬢ではあるが、身の回りの最低限は自分で行うようにしている。兄がいるため、伯爵を継ぐ心配はないが、出来ないことより出来ることが多い方がいいと思うからだ。
父と母、兄は玄関まで見送ってくれた。
母は私の手を握ると「行ってらっしゃい。エミリーちゃんをよろしくね」と言われる。
彼女はお転婆な所もあるから、心配しているのだろう。
「今日は入学式だけですし、彼女も緊張はしているでしょうが大丈夫だと思います。行ってきますね」
そう伝え、馬車は走り出した。
母にとっても、エミリーは第二の娘のようなものなのだろう。
屋敷から学園までは馬車で20分程で着く。
ゆらゆらと馬車に揺られながら、緊張と期待でドキドキしているとあっという間に学園に着いてしまった。
学園の門の前で馬車からおり、受付にいる在校生から今日の予定を聞くと、エミリーと待ち合わせしている木の下で彼女を待った。
だが、何時になっても彼女は姿を見せなかった。
もうすぐ、入学式が始まってしまうというのに。
私は少しずつ焦りはじめ、何度も時計を確認しながら彼女が来るのを待った。門へ視線を向けたり、時計を見たりと繰り返すが彼女の姿は一向に見えない。
もしかして、緊張のあまり熱を出してしまったとか?いいえ、彼女はそこまで身体が弱くないはず。至って健康体だろう。では、ここに来るまでに馬車が事故にあった?どうだろう…
アレかコレかと分からない憶測を立てながら、待っていたが彼女は現れなかった。
「ねぇ、貴方新入生ではなくて?もうすぐ入学式が始まるから講堂へ移動した方がよろしいわよ。」
そう声をかけられた。振り向けば、赤い髪に赤い瞳。明らかに在校生と思われる女性が立っていた。
ガーネット公爵家の方だわ、、
皇太子婚約者候補筆頭のロイズ・ガーネット様だった。
「…っはい、ご助言ありがとうございます。失礼します」
そう言って、軽くカーテシーをとると講堂へ向かった。案内された席に座り、汗が滲んだ手をにぎりしめる。
まさか、ガーネット公爵令嬢に話しかけられるなんて。年齢も一個上で、身分も違うため社交界でお見かけしたことはあっても話しかけたことはなかった。
それに待ち合わせに間に合わなかった、エミリーが心配で入学式なんて集中ができない。
そんな私の気持ちとは裏腹に入学式は始まってしまった。
学園長の挨拶から始まり、在校生代表、2年の皇太子様が祝辞を述べられる。
そして、新入生代表では筆記テストで満点だった現宰相の子息がスピーチを始めるときだった。
この場にふさわしくない、バタンっ!と勢いよく扉が開く音が聞こえる。
皆がその音に視線をやると、私は目を瞑りたくなるような光景が映っていた。
その扉の音の正体は、エミリーだった。
まさかとは思うが廊下を走ってきたのだろう。肩で息をする彼女は、髪をなびかせながら何故かにこやかに微笑み、そこに立っていた。
嘘でしょエミリー!こんなに目立つなんて!!
それになんで笑っているの!!
私は焦りで思わず、目を逸らしたくなってしまった。彼女は、教師たちに何やら注意されると大人しく、最後尾の椅子に座った。
「…えー、ごほん。暖かな春の訪れとともに……」
新入生代表のスピーチの中、私はエミリーの方へ視線を向けた。彼女は髪を整えたり、落ち着きがなく辺りを見渡している。
怪我はしていないみたいね…
そこだけはホッとしつつ、入学式が終わったら話を聞かなくてはと考えた。
私は想像だにしていなかった。
まさか、自分があんな目にあうだなんて。
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