猫系男子の優雅な生活

ててて

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飼い主

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ギルバートに連れて来られた場所は、大きなお屋敷だった。気づいたら長い廊下を終え、重厚な扉をぬけ、庭を通り過ぎ、門をくぐる。そしてたどり着いたのは、これまた大きな凱旋門をくぐった青い建物だった。

城から出る時、何人かの文官のような人達が僕を城から出すことを反対していた。でも、ギルバートが『彼は僕達第一騎士団に任されましたので。』といい笑顔で言っていた。

僕はとりあえず大人しくしていた。
だって、この世界に来て未だに名前を知ってるのはギルバートだけだから。他の人は名乗ることも無ければ、目も合わせない。そんな人達について行こうとも思わなかった。


建物の1番上には、青い龍の紋章が書かれた旗が靡いている。ギルバートの来ている軍服も青く、胸元のブローチには龍の紋章が飾ってあるため、ここはギルバートの勤めている建物なのだろう。


「ここは、第一騎士団の兵舎です。私たち第一騎士団は主に王城の護りを行っております。あとは王族の護衛などが主な仕事でしょうか。」

ギルバートはそんな風に教えてくれながら、スタスタと長い足で屋敷に入っていった。
そして入っていった部屋は、大きな机と椅子があっていくつもの本棚が並ぶ部屋だった。

「ここは私の執務室です。ほら、ここに座って。」

ふかふかのソファにゆっくり座った。
ギルバートはポットを使って紅茶を入れてくれた。

「マオ、ミルクとお砂糖は?」

「……お願い、します」

ミルクは多めに、砂糖も多めに。
並々になったカップを置かれた。

ちょっとカップを持ち上げたけど、熱い。
ミルクもホットミルクだったのか、湯気がたってる。

少し唇をちかづけたけど、熱気が来て熱いことがよくわかる。僕は飲むのを諦めて、机に戻した。

「…?マオ、どうしたんですか?」

「ちょっと熱すぎて…まだ飲めない、です」

「あぁ、」

ギルバーは納得すると、カップを持ち上げ口から白く冷たそうな息を吹き、冷ましてくれた。少しは冷めたのか、カップを貰うと口をつけることが出来た。

「……今のは?」

「…魔法です。マオの世界には魔法がないのですか?」

頷いて肯定する。

「この世界には魔法があります。個々に使える魔法が決まっていて、魔力量は人によるでしょう。私は氷と水の魔法が使えます。」

流石異世界だ。魔法なんて初めてみたから驚いたけど、ギルバートが水の魔法を使うのは似合うなと思った。
そうして、丁度いい温度の紅茶をもう一口飲む。暖かくて甘い紅茶が、染み渡りほっと息がつける。

「マオは熱いのが苦手なのですね、覚えておきます。あと、敬語が話しずらいのであれば普通に話してくださって大丈夫ですよ。」

「……うん、ギルバートも敬語無し?」

「っ、いいえ、私は敬語の方が話しやすいので。…ふふ、初めて名前を呼んでくれましたね」

優しく頭を撫でられた。ギルバートは騎士なだけあって、手が大きい。男の人って感じの手のひらは、優しい手つきでなんだか心がむず痒くなった。

コンコン

「副団長~、なんか変な噂が流れてるんですけどまた何処ぞのご令嬢に言い寄られ……て?」


ノックの返事も聞かぬ間に開かれた扉からは、緑の髪の毛の男の人が顔をのぞかせた。僕と2、3歳くらいしか変わらなさそうな彼は、僕と目が合うと口を開けたまま固まっていた。


「……ヒュウ、ノックした意味が無いと何度も言っているでしょう。」

「え?あ、申し訳ありません。え、その、は??」

ギルバートはさりげなく、僕の頭に乗せていた手を下ろした。それを目で追ってしまったのは別に意味なんてない。


分かりやすく混乱しているヒュウという人は、ギルバートと同じ軍服に身を包んでいるところから、この騎士団に所属しているんだろう。

「もしかして、さっきの噂は本当…?副団長にもとうとう春…!?」

さっきから『副団長』という呼び名に気を取られる。もしかしてギルバートはこの第一騎士団の副団長なのか。しかも、第一騎士団は王族を守るという、それなりにいや、かなり偉い人なのでは無いだろうか。


「はぁ……そんなしょうもない噂を立てるくらいなら、素振りでもしなさい。彼は今日聖女召喚の儀式で呼び出された、異世界人ですよ。」

「異世界人!?!っては!?彼!?!?」

あまりにもリアクションが大きい。コメディアンみたいにうるさいリアクションに思わず眉に皺が寄った。

ヒュウはまじまじと僕に近づいてきた。

「え、本当に男なの……?どう見ても可愛い女の子なんだけど。というか、その服の丈短くない?いくらここが第一騎士団としても、その丈は流石にエ…」

その瞬間、バコンと猛烈な音でヒュウは頭を抑えながら後ろによろめいた。その横にはギルバートがニコニコと微笑んでいる。


「近すぎです。そして、失礼でしょう。まずは挨拶をなさい。」


「っっ~~!!う、はい、、初めまして、ヒュウ・タルクです。第一騎士団所属で今年18になります。よろしくお願いしまっす。」

頭を抑えながらも涙目で、自己紹介をしてくれた。

「…マオです。よろしくお願いします。」

「あ、本当だ。思ってたより声低めだ、でも男の子か~、こんなに可愛いと分からないっすね」


「…ありがとう」

僕が可愛いことは僕もわかってる。だから、褒められたらお礼は言う。


「では、ヒュウ。マオの生活用品を揃えてきなさい。」

「…絶対たまたま来た俺に押し付けたんですよね??いいですけど!……あ、マオくん、マオくんの服って男物がいいのかな、それとも女物??」

服や生活用品を買うお金なんて僕は持ってない。
どうしようと困惑しているとギルバートが教えてくれた。

「大丈夫です、今回の儀式で呼ばれた聖女には不自由な生活はさせないと国庫からそれなりの資金が出ますので、気にしないでください。それに、必要でしょう?」


「……うん……下着が男物で…服は………。」


服は……女物?もうあの人もいないのに?
もう家には帰れない。あの人もいない。だったら僕は男の姿に戻ってもいいんだ。いいはずなんだ。いいはずなのに…


「……ならば、男物と女物を半々に買ってきてください。きっと、どちらもマオには似合うでしょう。センスは貴方に任せます、ヒュウ。金は出し惜しみせず、気になったものは買ってきなさい。」


「はいっす!俺に任せてください!行ってきまーす!!」

ヒュウはお金が入ってるだろう袋を握ると元気に部屋から出ていった。

「あの……僕…」

あぁ、なんでこんなに話せないんだろう。
話したいことあるんだ、伝えたいこともある、でも言葉を繋ぐのは難しい。もし、怒られたら、蔑まれたら、そう考えると言葉が続かない。

焦って音にならない声を出す僕に、ギルバートは優しく微笑んでくれた。

「……貴方は男性でも、女性の服が似合いますから。実は、こちらの世界の女性服も見てみたいという私のわがままなのです。付き合ってくださいね。服は貴方が着たいと思う物を着たい日にきてくださればいいので。……あぁ、ヒュウはああ見えて商家の息子なので流行にはうるさいんです。きっと服のセンスも悪くないはずですよ」


そう言って、紅茶を口に着けた。

着たいと思う物を着たい日に。
そんなこと言われたこと無かった。いつも用意された服で。他に選択肢はなくて。

自分で服選べるんだ。
自分で決めていいことに、嬉しさを噛み締めた。
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