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差し伸べられた手
しおりを挟む渡辺凛をエスコートして行った老人について行くように、何十人かのローブを羽織った人達も部屋から出ていった。
僕は、未だ現実味を感じないなと思いながらも、立ち上がろうとした。すると、如何にも騎士という人に手を差し伸べられた。
手を取らないのも感じが悪いかと思い触れて立ち上がると、すぐに手を離した。
手を差し伸べてくれた騎士は、僕が見上げなくてはならないほどに背が高く、年上っぽくて髪の毛が光に当たると白く見える銀髪のイケメンだった。
髪の毛が銀色ってファンタジーだな。
「……魔法省があの態度ですと、ここに住んでも居心地が悪いでしょう。貴方は私たち第一騎士団で引き取りましょう。初めまして、私はギルバート・アウグストです。第一騎士団に勤務しております。」
そういって、ギルバートは手を差し出してきた。
トルコ石のように青い、冷たそうな目を細め優しげに微笑んだ。
差し出された手をもう一度握る。
「……真緒、です。」
「マオ、ギルバートと呼んでください。
大丈夫、うちの騎士団はみな優しいものが多いです。貴方を害を与える人間なんて居ないので、肩の力を抜いて。そんなに不安そうな顔をしないで。」
ギルバートはそう言って、暖かく手を握りしめてきた。
僕はそんなに、不安そうな顔をしていただろうか。
自分じゃ分からないから、そうなのだろう。
やっと自分の状況や周りを見渡す余裕が出てきた。ここは王宮内なのか、立派な建物の中みたいで、天井は細かい幾何学模様の造りだった。初めて見たものを見て改めて異世界に来たことを実感する。
そして、ギルバートの話だと元の世界には戻れないそうだ。
僕はどうすればいいんだろう。
あ、あの家から出られたことを喜ぶべきかな。
今頃あの人はどうしてるんだろう。間違いなく気が狂ってるだろうな。
ついボーッと考えてしまった僕は、気づかないうちに同情を煽るような表情をしていたらしい。ギルバートがそれはもう女の子を扱うように、優しく僕をだだっ広い部屋から連れ出した。
☆ギルバート視点
それは迷った子猫のようだった。
ビクビクとしていて、眉を酷く下げたまま狼狽えていた。この状況では仕方がないだろう。
ここ近年、バーミリオン王国では魔物の増加や土地の汚染により、作物が取れない、貿易ルートが通れないなどの支障が積み重なり、国民は飢餓の危機だった。
国民を救うべく、参謀だけでなく騎士団までが会議に加わり話し合った結果、導き出されたのは『召喚』だった。召喚により女神から使い出された聖女により、その国の土地は癒え、人々を救うだろうと。
ただ、何人もがその意見に反対した。
呼び出される聖女はこの国、またはこの世界とは違った場合、家族とは離され重責を追うなどと。
その意見に対し、聖女にはそれ相応の国家予算をつぎ込み、快適な生活が約束され、また皇族しか許されない重婚を認め、その他保険など諸々と良いように采配された。
そうして、何度も話し合い、飢餓で苦しむ国民を見て国王は判断され召喚の儀式が執り行われた。
そして、無事、召喚できたわけだが何故か、呼び出されたのは2人だった。
1人は平民によくいる茶色髪のまだまだあどけなさが消えていない女性。そして、もう1人は黒髪を二つに束ね、居心地悪そうに座り込んでいる。その表情は不安気であり眉は垂れ下がっていた。
茶髪の女性によると、この人は男だという。
信じられないと誰もが思った。
線が細く、私たち騎士など比べ物にならないほど病的に肌は白い。その肌の白さに黒髪がよく映えた。
茶髪の女性が聖女だろうと仮定されたところで、マオは魔法省から置いていかれた。間違いなく、私たち騎士団に押し付ける気なのだろうと感じた。
たしかに今までの聖女は皆、女性だった。男は浄化する魔法する顕著されず、聖女である可能性など限りなく0に近い。つまり、この方は用済みなのだ。
魔法省は私たち騎士団を嫌っている。
まるでマオを取り残すかのように置いていく姿は、滑稽だった。
マオは、広いホールの上でペタンと座り込み、困惑といった表情だった。その表情に守りたいと自然に思えてきてしまう。
とりあえず立ち上がらせる。
立ち上がった瞬間にふわっと上がる短かすぎる異世界のスカートが目に毒で咄嗟に目を逸らした。
マオは、太ももまでの長い靴下を履いており、肌の露出はさっきの聖女(仮)に比べて少ないが、むしろその少ない肌の露出が卑猥に感じてしまう。
「あ、の…家に帰ることは……?」
「…申し訳ありません、元の世界に戻ることはできないです。」
マオはなにか思いにふけったように考え込むと、見るからして哀愁が漂うような表情になった。
その瞬間、心臓が鷲掴みにされるような痛みを感じた。
この子はなんて顔をするんだろう。
たれた眉毛に細くなった瞳。そして、何かを我慢するように口結ぶ。
まるで独りだというように。
寂しげに。
それはそうだろう。全く知らない血縁もいない異世界に勝手に呼び出され、家族と離れ離れだ。
痛む心と共に、でもこの儀式に最後の最後には賛成したのだ。恨まれることも嫌われることも覚悟しなくてはいけない。私を、私たちを彼は責める権利がある。
でも、彼は泣くわけでもなく、怒るわけでもなく、ただ感情を押し殺していた。
その悲痛な姿は責められる事より胸を締め付けられる。
私ができるのは、彼を少しでも安心させ保護することだ。そして魔法省の彼に対する態度には目が余るものがあり、今後の対応を考えよう。
まずは、こんな所から早く出よう。
「……大丈夫です。きっと今日は疲れてるでしょう?ここでは落ち着けませんし、移動しましょう。」
安心させられるように背中をポンポンと叩いた。
すると、マオは少し戸惑っていたが暫くすると体の力を抜き、儀式の間を後にした。
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