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第1章

第3話

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:アルフレートside

ガタガタと揺れる馬車の中。
窓から見える外の景色はなんの変哲もない田舎の景色だけど、のどかでいい所だった。
最後にこの景色だけが見たくて、わざわざ時間のかかる馬車を選んだ。
魔法で飛んでもよかったんだ。でも、考える時間も欲しかった。

はぁ、とため息が漏れる。

昨日の今日で、馬車に乗り王都へ向かうだなんて誰が思うだろうか。

王都は人が多いし、貴族もいるから身分制度が色濃く出る。
しかも魔法学院なんて貴族の子息子女がたくさん居るだろうからやっていけるか心配だ…

俺は悶々とこれからの未知な行く末を心配する中、隣ではミアがすやすやと眠っていた。
銀髪の長い髪が顔にかかり、たまに邪魔そうに手で払う。

また馬車が揺れ、髪が顔にかかったのでスっと払ってやると大きな藍色の瞳が開かれた。

ぐっと体を伸ばし起き上がる。

「王都着いた?」

「まだ。全然進んでないぞ。王都まで結構遠いからしばらくかかる。」

「はぁ…寝て覚めたら夢でしたとはいかないか…」

じたばたと体を動かしたと思ったら、急に俺の横に座ってくる。

「…狭いんだから前に座れよ」

「いーや。暇だから遊ぼ?」

そうして『遊び』が始まる。
それは俺達が幼い頃からやってる遊びだ。

自分の魔力を固めて創造し、面白いものを作る遊び。

これで、俺たちは変な魔法から結構使える魔法まで色々と作ってきた。

「今日のお題は?」

んー、と考えるミアはパッと思いついたように笑う。

「水!」

そこから俺たちは水を中心とした魔法を考え始めた。

「こんなのどうだ?」

俺は馬車の周りに結界をはると一気に馬車内の気温を氷魔法で下げた。次に水を出し馬車の天井につくギリギリで細かくさせる。風魔法でふわっと水と風を混ぜ合わせ氷魔法を強めると、水は白い塊になった。

「風と氷と水を合わせて作った。以前読んだ本に乗っていた雪だ」

ミアは不思議そうに雪を見つめ手を添えてみる。すると雪はあっという間に溶けて水になってしまった。

「わ!綺麗ねっ、リン達が喜びそうだわ……って、しばらく会えないんだった…」

先程の笑顔とは打って変わってしゅんと落ち込む。しばらく孤児院のチビ共と会えないのは確かに寂しい。
今までずっと一緒に居たのだ、心配だし気がかりにもなる。

俺は早々に風と火で馬車内を温めた。

「…大丈夫だ。長期休暇になれば戻れるだろ?それまでの辛抱だ。学院では俺もいるし…な?」

肩を強く抱き、頭を撫でてやる。するとミアは、しばらく俺にもたれ掛かってくると気持ちを切り替えたように強く頷いた。

「次はミアだぞ」

「うん、どっちがいい?面白い系?攻撃系?」

「じゃあ、攻撃系」

「じゃあ、馬車が止まってからね」

そうして、昼食のため馬車は一時停止した。馬車のおじさんは街で食べてくるとかでどっかに行ってしまい、俺達は持ってきたサンドイッチを食べる。

食べ終わるとミアは指に着いたパンくずを舐め取り立ちあがる。

「見てて」

そう言って2メートル程先にある木に向かって人差し指を立てた。

バキィっ!と音をたてた木を見ると幹の真ん中に丸い穴が空いている。

「…これ風穴か?」

「ううん、水だよ。この前風でも人差し指に魔力を集めて絞り出すように打つと威力が上がったじゃない?それって水も出来るかなーって。出来たみたいね」

へぇー…と感心してしまう。
面白いけど、恐ろしいな。1本の指で木に穴が開けられる女ってどうなんだろ。

「あ、おじさん戻ってきたみたい。ほら、アル乗るよ!」

まぁ、そんなの気にしなくていいか。

ミアは王都が楽しみになってきたらしい。確かに都会に行くのは初めてだから浮かれる気持ちもわからなくもないが…

幼い頃から変わらない笑い方をする少女はこんな日でも鈴が転がるように笑うのだった。


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