スコップ1つで異世界征服

葦元狐雪

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第19話「狂喜乱舞」

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 いきなりの公開殺人予告に俺は驚き、パンパカーナと頭のイカれていそうな女を交互に見る。
パンパカーナは片目を照準器に当て、穴のない銃口は女をジッと見据えているようだ。
その女は艶やかな赤い唇を彼女自身の指でなぞっている。
まるで吸血鬼だ。
怪しく光る大きな瞳と、時折覗かせる白い八重歯がそう思わせた。

「神器を構えろ、戸賀勇希。そして、奴から目を離すな」

言葉だけをこちらに向けるパンパカーナ。
その声は鋭く、固い。
いつもの元気で軽快な感じは見られず、
片膝をついてライフルを構える姿は勇敢な兵士そのものだ。

「おうよ」

俺は腰に差しておいたスコップを取り出し、「なあ」と続けて、

「あいつの武器ってさ、もしかして......」

と言った。

「ああ。十中八九、魂の神器だろう」

やはり。
遠目に見た、手にした屋根瓦を矢に変化させたのは見間違えではなかったようだ。
能力の感じからして、おそらくは『現界型』。
俺たちと女には10メートルほどの間隔があり、その中間には煙を上げている屋根瓦が一つ。
女はヒールの先をコツコツと石畳に当て、腰に差してある矢筒から三本の矢を取り出す。

「あっはあ......ねえ、パンパカーナ。私とさ、ゲームしましょうよ。ゲ・エ・ム」

「ゲーム......だと?」

「そうよぉ。今からこの一本は当たり、二つはハズレの三本の矢を同時に放つから、その中の一つだけを撃ち抜いてごらんなさい。当たれば残りの矢は消え、私もここから立ち去るわ。どうかしら?」

「その前に、教えて欲しい。私たちを襲う理由。——そして、お前が何者なのかを」

「そうねぇ......私は通りすがりの『勇者落ち』で、あなたたちを見てると......こう、なんていうのかしら——殺したくなっちゃう?」

女はそう言うと、なんの脈絡もなくボロボロと涙をこぼし始めた。

「ああ、いやだわ、あなたたちの若い命を摘み取ってしまうなんて! とてもとてもいけないことよ」

そして、今度は笑い、怒りながら、

「でも......気持ちいい。たまらなく快感なの、爽快なの、愉快なのよ! んっ......はあ。——でも許せないわ、魂の神器使いは。あの勇者共と同じ力を持つ、あなたたちがね」

その場の雰囲気はとても重たく感じた。
路地に迷い込んだ、ねっとりとした生暖かい空気が首筋を撫でていく。
目の前で次々と表情を変える女の異様さに、こちらまでおかしくなりそうだった。
パンパカーナは何も返さず、ただ女を見ている。

「さ・て・と。それじゃあ、いくわよ」

そう言って、女は三本の矢を継がえてパンパカーナに矢先を向ける。
そのまま引き絞り、弓は三日月のように大きくしなる。
女が舌なめずりをする。俺はただ、その光景を見ている。

ヒュンッという音がした。
パンパカーナは見えない引き金を引き、小さな火の玉を打ち出した。
螺旋状に走る弾丸は一本の矢に命中すると、そのまま燃え尽きてしまった。
しかし依然として、もう二本の矢はパンパカーナに向かい続ける。

「残念。ハ・ズ・レ」

「——っ!」

矢はパンパカーナの左肩と胸の中心を射抜いた。
その後、体は仰け反るようにして後ろに倒れた。
それはスローモーションのようにゆっくりとして見えた。

「パンパカーナ!!」

俺はパンパカーナに駆け寄る。
白いローブに血が滲み出ている。
呼吸は浅く、早い。
ギュッと目を瞑り、眉間に皺を寄せている。
額には湿った前髪が張り付いている。

「待ってろ、今抜いてやるからな」

矢の軸を持つと、「ウッ」と体を震わせ、さらに呼吸が速くなった。
赤は白を侵食しようと、盛んに勢力を拡大している。

「どうすりゃいいんだよ......いったい、どうしろっていうんだよ......」

「あっはっはあ〜! もしかして私、殺っちゃったかしら!? パンパカーナァ!」

俺は狂ったように笑う女に視線を向ける。
次は俺を殺すつもりなのだろうか。
殺した後、あいつはまた、ああやって笑うのだろうか。
胸ポケットに手を忍ばせるが、何もせず、その手を膝に乗せる。
爪が食い込んで痛かった。

と、目の前に肉饅らしきものが落ちてきた。
それは肉饅と呼ぶには少々大きすぎたが、現実世界で見てきたものと遜色はなく、大変美味しそうだ。
すると、肉饅から大量の煙が吹き出し、辺りは白煙に包まれた。
ついでにスパイシーな香りもたちこめている。

「ほいっと」

何者かに体を持ち上げられた。
腹には固くて暖かい感触と、汗の匂いがした。
なにか言おうとしたが、声が出なかった。
すぐ近くで、「おらよっ」という野太い声も聞こえた。

「みなさん、ずらかりますよ!」

聞き覚えのある声がした。
体は空を飛んでいるような感覚だ。
足音に混じって、ヒステリックな叫び声が遠くから聞こえてきた。
俺は抵抗もせず、ひたすらに下唇を強く噛んだ。
口のなかは鉄の味と、しょっぱい味がした。
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