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第9話「払拭」
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赤い通り雨は過ぎたようだ。
若葉から滴る重さを持った雫は、ゆっくりと湿った地面に落ちる。
木々から差し込む白光は薄明光線のように神秘的であり、
その光が死闘を経た俺を、あたたかく抱擁してくれた。
「トガさん! 怪我はありませんか!?」
ラルエシミラが心配そうに眉を寄せて俺に話しかけてくる。
ああ、よかった。
生きていて、本当によかった。
俺はもう、思い残すことはない......
「しっかりせんかい!!」
「おぶっ!!」
俺のみぞおちに見事なブローが入る。
クッソ痛ぇ......
この人、どんだけボディブロー好きなのよ。
「痛いわ! ラルエシミラァ!」
「よかった。元気じゃないですか」
「何でみぞおち殴っちゃったの? ん? 怒らないから言ってみ?」
「これから死ぬみたいなことを考えていたので、つい」
「ちょいちょい思考を読むんじゃないよ!」
クスクスと笑うラルエシミラ。
なんだかこいつの顔を見るとホッとした。
出会ってからさほど時間は経っていないはずなのに......
不思議だ。
こんなに遠慮なくぶっ飛ばしたくなるやつもなかなかいない。
「なぁ、ラルエシミラ。ちょっとこっちおいで」
「殴られそうなので遠慮しておきますね!」
こいつ、また俺の考えを......
「そんなことより、時間がありません。これから信じられないくらい早口で言いますので、メモの準備をしてください」
「メモ? そんなもんあるわけ......」
あったわ。
魂の神器を入れていた反対側の内ポケットに。
「では行きます......この世界にはチート能力者の元勇者たちが跋扈 しているわけですが、その人数はなんと12人もいますので、それらを全て倒さなければなりません。それに、チート勇者の生み出した魔傑がたっくさんいますのでそれらが行く手を阻む障害物となるでしょう。ちなみに先ほど我々が倒したのは低級魔傑ですので気をつけてください。そして、私は魔力が切れそうなので帰ります。それでは! 頑張ってくださいね!」
「ちょ、ま......全然メモ取れてないんだけど!」
本当に驚くほどの早口で言いたいことだけを言って、
ラルエシミラは、再び白銀の短冊に変わった。
(あの女ぁ......次出てきたら1発入れてやらんとなぁ......!)
そんなことを思った俺は、落ち着くために深呼吸をしてみる。
くっさ。
獣くっさ! 鉄くっさ!
ってか俺の体、血まみれやんけ......
周囲をよく見ると巨大な低級魔傑の死骸が転がっており、
何から何まで血の色に染められていた。
まさに、地獄とはこのことではないかという惨状である。
「そうだ。あいつのことを忘れるところだった」
俺は先の戦闘で作られた深い溝をたどり、
勇敢に戦った戦士を探す。
ーー見つけた。
マーレは、溝の終着点から20メートルほど離れた場所に横たわっていた。
柔らかな土気色の肌は乾いた地面と同化し、
細い空気の漏れる音とともに、
体内で行き場を失った生命の源が小さな口から溢れ出ている。
弔ってやろう、そう思った。
力量に圧倒的な差があるにもかかわらず、勇敢に戦ったのだ。
結局、誤解されたままだったな......
と、視界に違和感を感じる。
なんだ。
何かが、マーレの隣にいる。
いつから居たのだ......
それは橙色のショートカットの髪に
体がすっぽりと包み込まれた青いコート。
それに、手にはペンのようなものが握られている。
すると、マーレの生気のない頬にペンを走らせた。
何かを書き込んでいる。
瀕死の少女の体に、書き込んでいる。
「誰だ! そいつに何をしている! どけ!」
俺はそいつに向かって叫ぶ。
アルマ・アニマを握りしめ、矛先を相手に向けて。
覚えたての殺意を放ちながら。
しかしそいつはこちらを見ることもせず
一瞬にして、生い茂る草木の群れに姿を隠した。
「マーレ!」
俺は小石に足を取られそうになりながらも
マーレの元へ駆け寄り、真っ赤に濡れた両腕で抱き起こし、
今にも崩れそうな体を支える。
すると、頬に書かれた文字がフナムシのように逃げ出し、
マーレの玉体を駆け巡る。
ーー薄い瞼が、ゆっくりと持ち上がった。
「あれ......? 魔傑は? 貴様、血まみれだよ......もしかして、貴様が倒したのか......?」
「俺と、俺の仲間が倒した。もう心配いらねぇ、よく頑張ったな」
「貴様......。いい人だったんだな! そんで、あたしの命の大恩人だよ〜!」
マーレが勢い良く俺のお腹に抱きついてくる。
痛い痛い!
嬉しいけど、力強すぎてクッソ痛いわ!
ふと、マーレが鼻を指でつまみながら言う。
「む。『きさま』血なまぐさい。一緒にお洗濯しよ〜! 家まで案内するよ〜!」
若葉から滴る重さを持った雫は、ゆっくりと湿った地面に落ちる。
木々から差し込む白光は薄明光線のように神秘的であり、
その光が死闘を経た俺を、あたたかく抱擁してくれた。
「トガさん! 怪我はありませんか!?」
ラルエシミラが心配そうに眉を寄せて俺に話しかけてくる。
ああ、よかった。
生きていて、本当によかった。
俺はもう、思い残すことはない......
「しっかりせんかい!!」
「おぶっ!!」
俺のみぞおちに見事なブローが入る。
クッソ痛ぇ......
この人、どんだけボディブロー好きなのよ。
「痛いわ! ラルエシミラァ!」
「よかった。元気じゃないですか」
「何でみぞおち殴っちゃったの? ん? 怒らないから言ってみ?」
「これから死ぬみたいなことを考えていたので、つい」
「ちょいちょい思考を読むんじゃないよ!」
クスクスと笑うラルエシミラ。
なんだかこいつの顔を見るとホッとした。
出会ってからさほど時間は経っていないはずなのに......
不思議だ。
こんなに遠慮なくぶっ飛ばしたくなるやつもなかなかいない。
「なぁ、ラルエシミラ。ちょっとこっちおいで」
「殴られそうなので遠慮しておきますね!」
こいつ、また俺の考えを......
「そんなことより、時間がありません。これから信じられないくらい早口で言いますので、メモの準備をしてください」
「メモ? そんなもんあるわけ......」
あったわ。
魂の神器を入れていた反対側の内ポケットに。
「では行きます......この世界にはチート能力者の元勇者たちが跋扈 しているわけですが、その人数はなんと12人もいますので、それらを全て倒さなければなりません。それに、チート勇者の生み出した魔傑がたっくさんいますのでそれらが行く手を阻む障害物となるでしょう。ちなみに先ほど我々が倒したのは低級魔傑ですので気をつけてください。そして、私は魔力が切れそうなので帰ります。それでは! 頑張ってくださいね!」
「ちょ、ま......全然メモ取れてないんだけど!」
本当に驚くほどの早口で言いたいことだけを言って、
ラルエシミラは、再び白銀の短冊に変わった。
(あの女ぁ......次出てきたら1発入れてやらんとなぁ......!)
そんなことを思った俺は、落ち着くために深呼吸をしてみる。
くっさ。
獣くっさ! 鉄くっさ!
ってか俺の体、血まみれやんけ......
周囲をよく見ると巨大な低級魔傑の死骸が転がっており、
何から何まで血の色に染められていた。
まさに、地獄とはこのことではないかという惨状である。
「そうだ。あいつのことを忘れるところだった」
俺は先の戦闘で作られた深い溝をたどり、
勇敢に戦った戦士を探す。
ーー見つけた。
マーレは、溝の終着点から20メートルほど離れた場所に横たわっていた。
柔らかな土気色の肌は乾いた地面と同化し、
細い空気の漏れる音とともに、
体内で行き場を失った生命の源が小さな口から溢れ出ている。
弔ってやろう、そう思った。
力量に圧倒的な差があるにもかかわらず、勇敢に戦ったのだ。
結局、誤解されたままだったな......
と、視界に違和感を感じる。
なんだ。
何かが、マーレの隣にいる。
いつから居たのだ......
それは橙色のショートカットの髪に
体がすっぽりと包み込まれた青いコート。
それに、手にはペンのようなものが握られている。
すると、マーレの生気のない頬にペンを走らせた。
何かを書き込んでいる。
瀕死の少女の体に、書き込んでいる。
「誰だ! そいつに何をしている! どけ!」
俺はそいつに向かって叫ぶ。
アルマ・アニマを握りしめ、矛先を相手に向けて。
覚えたての殺意を放ちながら。
しかしそいつはこちらを見ることもせず
一瞬にして、生い茂る草木の群れに姿を隠した。
「マーレ!」
俺は小石に足を取られそうになりながらも
マーレの元へ駆け寄り、真っ赤に濡れた両腕で抱き起こし、
今にも崩れそうな体を支える。
すると、頬に書かれた文字がフナムシのように逃げ出し、
マーレの玉体を駆け巡る。
ーー薄い瞼が、ゆっくりと持ち上がった。
「あれ......? 魔傑は? 貴様、血まみれだよ......もしかして、貴様が倒したのか......?」
「俺と、俺の仲間が倒した。もう心配いらねぇ、よく頑張ったな」
「貴様......。いい人だったんだな! そんで、あたしの命の大恩人だよ〜!」
マーレが勢い良く俺のお腹に抱きついてくる。
痛い痛い!
嬉しいけど、力強すぎてクッソ痛いわ!
ふと、マーレが鼻を指でつまみながら言う。
「む。『きさま』血なまぐさい。一緒にお洗濯しよ〜! 家まで案内するよ〜!」
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