スコップ1つで異世界征服

葦元狐雪

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第5話「エンカウント」

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 俺は、目をパチクリさせてラルエシミラに問いかける。

「あの、大事なことなのでもう一度言ってくれませんか?」

「では、これからトガさんには世界を滅ぼしに行っていただきます!」

「あ、どうも」

 俺は腕を組み、白い雲に覆われた空を見て考える。
 なんか違うんだよなぁ

 うん、普通さ、『さらわれたお姫様を助けに行きましょう!』 とか、
『凶悪な魔王を打ち倒しに行きましょう!』とかあるじゃない?

 あの娘、さっきなんて言った?

『世界を滅ぼしに行く』とか言ったよな?
 完全に悪役だよね。
ゲームをクリアして変なところに連れてこられたかと思ったら、この仕打ちよ。
あー、ニートに戻りてぇ。

「ピンと来ていないようですので、詳しく説明しますね」

「あ、はい」

 俺がラルエシミラから聞いた話によると、どうやらその世界とは、数あるパラレルワールドのうちの1つである『チート能力者たちによって支配された世界』らしい。

 元々、そこは凶悪な魔王が存在していて、それを打ち倒すためにチート能力もちの最強勇者たちを派遣したところ、逆に、力を持て余した勇者たちが世界を乗っ取ったというわけだ。
なんという本末転倒。目も当てられん。

「と、いうわけで! 勇者たちを根絶やしにしてきてください」

「アホか! できるか、そんなもん!」

「ちなみに、チート勇者たちを根絶やしにした暁には、なんでも1つ願いを叶える義務を贈呈致します!」

「え? 今、『なんでも』って言った? というか『権利』ではなく『義務』なんだ」

「はい! 必ず叶えて頂きます」

「そ、そうか......なら永遠のニート生活を希望しようかなぁ。ずっと遊んで暮らせる夢の生活をよお」

「問題ありませんよ。まあ、気が変わる可能性もありますし、ゆっくりと考えながら勇者たちをぶち殺してきてください。それにしても......」

ラルエシミラは俺の全身ををジロジロと観察し、心配そうな顔で、

「そんな装備で大丈夫ですか?」

「大丈夫だ、問題ない」

 大丈夫じゃないけど、反射的にそう返してしまう。

「もう、そんなわけないでしょう。あっちでは死んでも復活したりしませんからね!」

 その言葉に俺は絶望しました。

 どうせ、死んでも生き返るのが最近の流行りだと思ってたのに.....
 おお.....もう、不安になってきたわ。

「ええ。ですから、私が特別に装備を差し上げちゃいます!」

「マジで!? さっすがラルエシミラさん! やっぱ、スウェット姿じゃ締まらないよな!」

 さあ、さあ! いったいどんな装備をもらえるんだろうな!なんか、ラルエシミラさんがスリットの隙間に手を突っ込んでゴソゴソしてるけど、まぁイイか!
 重厚な鎧かな? それとも、カッコイイ魔法使いのローブかな?

「はい! どうぞ!」

 おお......! こ、これは!

 『学ラン』だ。

 何の変哲も無い真っ黒な学ランである。
 しかも、なぜか第2ボタンだけ付いていない。

「エシミラちゃん、これが装備なの?」

 震え声で俺は言う。

「そうですよ! しかも、モテモテの証である第2ボタンなし仕様です!」

「いらんところに気ぃ回さんでええわ!」

 まさか、こんなところに来て学ランを着ることになるとは.....
 死んだ魚の眼をしている俺に構わず、ラルエシミラは話を進めていく。

「では、これからゲートを繋ぎますからね〜」

 何も無い空中にノックをすると、まるで扉が開くように真っ黒い空間が出現した。

「さ! それでは、いよいよチーターの世界、『モンドモルト』へ行きますよ〜!」

 ラルエシミラは俺の手を掴むと、学ランと一緒に真っ黒な空間に放り込む。

 ちょ、力強くね?
 あなただけで、チーターしばき回せそうなんだけど!?
 扉は抵抗する力を奪い、肉体をどんどん吸い込んでいった。

 暗闇の世界に吸い込まれた俺の意識は、プツリと切れた。



「ハッ! なんだ夢か!」

 言ってみたら夢オチになる気がしたが、そんなことはないようだ。
 周囲は荒れ果て,大地はひび割れ、空は眩しく、太陽が照らしつけていた。
 いつの間にか服装が違う。
 グレーのスウェットから学ランへ。
 仕組みはよくわからないが、来る途中に着替えさせられたようだ。

 周囲に目をこらす。
 草木があまり見当たらず、枯れ草がコロコロと転がっていく。
 あんなもの、映画でしか見たことないぞ。
 そんな視界に入る人らしき影が。
 姿は、どこかで見たことがある格好をしていた。
 そう、確かあれは.....
 十二単《じゅうにひとえ》......?

 「こんにちは」

 突如、
 後ろから女性の声。
 俺は驚き、後ろを振り返る。
 そこには、先ほど見ていた、平安時代から出てきたような姿の女性。
 まさか、一瞬でここまで来たのか?

 「あら、脅かしてもうてスンマセン。私、『十二単牡丹《じゅうにひとえぼたん》 』言います。以後、お見知りおきを」

 十二単牡丹と名乗る人物が、にこやかに手を差し延べている。
 紫色の足元まである髪。
 美しく品のある顔立ち。
 目はぱっちり大きく、瞳は紅い。
 色とりどりの着物を、何枚も重ねて羽織っている。
 それにしても、クッソいい匂いがする。

 なんだか、悪い人ではなさそうだ。
 現に今、俺を起こそうとしてくれてるし......

「あ! これはどうも、え〜っと...... ジュウニヒトエさん?」

 十二単牡丹がクスリと笑う。

「『牡丹』でええですよ。そんな、かしこまらんとって下さい」

 「スンマセン」と言いながら、手を伸ばす。
 白く華奢な手。
 強く握れば、壊れてしまいそうだ。
 指先が、あと少しで、触れる。

「何やってんですか!!!」

 手は、物凄いスピードで遠ざかる。
 襟を掴まれていたため、踏まれたカエルのような声が出た。
 暫く中を滑り、落とされる。
 俺は痛さに尻をさすると、

「いてーな! 何すんだよ!!!」

「『何してる』のはあなたの方です! あの方に触れてないでしょうね!?」

「何だって!?」

 点になった十二単・牡丹が見える。
 顔を上げると、冷や汗をかいたラルエシミラがいた。
 空中に浮かぶ、黒い楕円形の穴から半身だけを出している。
 何が何だかわからない。
 俺はただ、美少女と握手しようとしただけなんだが。

「理由は後で説明します。している暇があれば、の話ですが......」

 ラルエシミラは、一呼吸おいて言う。

「いいですか、あの姿を、よく覚えておいて下さい。あれがこの世界を滅ぼした、最強チート能力者のうちの1人です......!」

 遠くの方で、十二単牡丹がニヤリと笑った気がした。
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