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3話
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五月に入り、あっという間にゴールデンウィークに入った。奏さんの提案もあって、わたし達はショッピングモールへ出かけることになった。休みということもあって、やはり家族連れが多く、賑わっていた。まるで別世界のようであった。わたしは周りを見渡しながら、歩いていた。どこを見ても人、人、人だ。わかってはいたけれど、少しだけ恐い。足ががくがくと震えた。
「愛美ちゃん、手つないでないとはぐれそうね」
奏さんがいたずらげに笑みを浮かべ、手を差し伸べた。「わたし、そんなに子どもじゃありません」と反論すると、奏さん達が声を出して笑った。
――完全に遊ばれてる。
二人からしたら、わたしは妹のようなモノなのだろうか。大人しくて憶病な末っ子のように思われてしまっているのかもしれない。こればかりはあきらめるしか選択肢はない。童顔ということもあって年齢相応に見られたことなんてないに等しい。溜め息を吐いて肩を落とした。
「もしかして怒った?」
「ううん。怒ってないよ。なんだか二人と比べたら、まだまだ子どもなのかなって、思っただけ」
「そんなことないって。相楽さんのことちゃんと同い年って思ってるし、雰囲気のある子だな思うときあるよ」
「雰囲気のある?」
「うん。例のやつができるからって意味じゃないよ。なんだか自分達とは違うなって感じかな。上手く言葉にできないけれど」
近藤さんは自分の気持ちを必死で伝えようとしてくれていた。彼女が嘘を吐くのが苦手なのはわかっている。彼女と話していれば、それぐらいわかる。それでもネガティブに考えてしまうのが、わたしの悪い癖だ。
彼女と親友になりたい。そう心に願ってから、日は経つけれど、どうすればいいのか。さっぱりわからない。ましてやわたしは不登校という身だ。約二年、同級生との関わりを避けてきた。今更、親友がほしいだなんて、わがままなのだろうか。
自分に自信が持てないわたしは、本当に大ッキライだ。自分の力で、誰かの幸せに結びつけたとしても、未だに臆病でいる。二人がわたしのことを好きでいてくれているのに、それだけに心苦しくなってしまう。また以前のように暗い表情を浮かべ、二人の前で俯いてしまった。パンッと手を叩く音がし、わたしは顔を上げた。奏さんが笑顔を浮かべ一つ提案を口にした。
「ねぇ、ショッピングモールはやめて、近くの喫茶店に行きましょ。これだけ混雑してるんだから、ゆっくり買い物ができそうにないし。どうかしら」
笑顔を崩さず、穏やかな調子でわたし達を促した。近藤さんは少し考え、奏さんの提案に同意をした。二人に対し、とても罪悪感を包み込んだ。わたしは着ていたカーディガンの裾をギュッと握りしめた。二人がせっかく話しやすい環境を整えてくれるようとしてくれているのだ。雲がかかった頭を懸命に回して、自分の答えを見つけた。
「そうですね。本当にすいません」
「いいのいいの。あたしも人混みはあまり好きじゃないし」
奏さんはやさしくわたしの肩に手を置いた。
二人が楽しみにして、予定を組んでくれていたのに。わたしが、それを壊してしまったことがとても心苦しい。
わたし達は静かにショッピングモールをあとにした。
*
お昼前ということもあって、待つことがなく、スムーズに座ることができた。わたしは二人と向かい側に座りうつむいたまま目を合わせることができなかった。
「愛美ちゃん。大丈夫だよ。あたし達、怒ってないから」
「そうだよ。相楽さんのこと責めたりはしないよ。だから顔を上げて」
二人のやさしさに甘えてばかりだ。
どうしてこんなにも優しくしてくれるのだろう。わたしにはそんな資格なんてないのに。それなのに、どうしてなのだろう。不思議で仕方がなかった。
「愛美ちゃん。もしかして、あたし達のこと苦手?」
奏さんの問いかけに肩がビクッと震え上がった。決してそんなことはない。むしろ二人のことはすごく好きだ。だからこそ、きらわれたくない。わたしは首を横に振り、ゆっくり顔を上げた。二人はとても切なそうな表情を浮かべていた。それだけわたしの感情が、二人を傷つけてしまったのだ。
「苦手なんかじゃありません。わたしは二人のことすごく好きです。だから二人に嫌われたくないです。今日だってすごく楽しみにしていました。ただ自分の自信のなさで、二人の楽しみを壊してしまったのが、すごく辛いです」
二人に対するわたしの想いをすべて吐き出した。引かれてしまっただろうか。キラわれたくない。もっともっと二人と一緒にいたい。心の底からそう願った。小動物のように、小さく縮こまり震えていると、クスクスと笑う声がした。
「本当にバカな子なんだから。あたし達が、そう簡単にキライになったりしないわ。自信のないところも含めてあなたなんだから、嫌いになんてなれないよ。あたしは…、あたし達は、あなたが可愛くて仕方がないのよ。だからね。これからも気軽に会えたり、話せるようになりたいのよ。それは近藤さんだって同じだよ」
近藤さんは強く頷いた。
彼女と親友となりたいと願っていたのにも関わらず、わたしは信じることができていなかったのだ。本当にわたしは最悪だ。じんわりと泪が溢れ出て、何も答えることができなかった。二人はそんなわたしを笑うことはせず、やさしく見つめていた。二人とだったら、わたしはわたしでいられる。ありのままの自分を好きでいてくれる二人とだったら、わたしはもしかしたら新しい一歩を踏み出せるかもしれない。だから、わたしはもっと変わりたい。固く噤んだ口を懸命な思いで一つの言葉を吐き出した。
「こんなわたしでも良かったら。わたしと…わたしと、し、親友になってくれませんか」
二人の反応が、正直恐い。だけれどこの思いに、目を逸らしたくはなかった。二人は目を合わせ合い、にんまりと笑顔を浮かべ「もちろん」と答えた。
「愛美ちゃん、手つないでないとはぐれそうね」
奏さんがいたずらげに笑みを浮かべ、手を差し伸べた。「わたし、そんなに子どもじゃありません」と反論すると、奏さん達が声を出して笑った。
――完全に遊ばれてる。
二人からしたら、わたしは妹のようなモノなのだろうか。大人しくて憶病な末っ子のように思われてしまっているのかもしれない。こればかりはあきらめるしか選択肢はない。童顔ということもあって年齢相応に見られたことなんてないに等しい。溜め息を吐いて肩を落とした。
「もしかして怒った?」
「ううん。怒ってないよ。なんだか二人と比べたら、まだまだ子どもなのかなって、思っただけ」
「そんなことないって。相楽さんのことちゃんと同い年って思ってるし、雰囲気のある子だな思うときあるよ」
「雰囲気のある?」
「うん。例のやつができるからって意味じゃないよ。なんだか自分達とは違うなって感じかな。上手く言葉にできないけれど」
近藤さんは自分の気持ちを必死で伝えようとしてくれていた。彼女が嘘を吐くのが苦手なのはわかっている。彼女と話していれば、それぐらいわかる。それでもネガティブに考えてしまうのが、わたしの悪い癖だ。
彼女と親友になりたい。そう心に願ってから、日は経つけれど、どうすればいいのか。さっぱりわからない。ましてやわたしは不登校という身だ。約二年、同級生との関わりを避けてきた。今更、親友がほしいだなんて、わがままなのだろうか。
自分に自信が持てないわたしは、本当に大ッキライだ。自分の力で、誰かの幸せに結びつけたとしても、未だに臆病でいる。二人がわたしのことを好きでいてくれているのに、それだけに心苦しくなってしまう。また以前のように暗い表情を浮かべ、二人の前で俯いてしまった。パンッと手を叩く音がし、わたしは顔を上げた。奏さんが笑顔を浮かべ一つ提案を口にした。
「ねぇ、ショッピングモールはやめて、近くの喫茶店に行きましょ。これだけ混雑してるんだから、ゆっくり買い物ができそうにないし。どうかしら」
笑顔を崩さず、穏やかな調子でわたし達を促した。近藤さんは少し考え、奏さんの提案に同意をした。二人に対し、とても罪悪感を包み込んだ。わたしは着ていたカーディガンの裾をギュッと握りしめた。二人がせっかく話しやすい環境を整えてくれるようとしてくれているのだ。雲がかかった頭を懸命に回して、自分の答えを見つけた。
「そうですね。本当にすいません」
「いいのいいの。あたしも人混みはあまり好きじゃないし」
奏さんはやさしくわたしの肩に手を置いた。
二人が楽しみにして、予定を組んでくれていたのに。わたしが、それを壊してしまったことがとても心苦しい。
わたし達は静かにショッピングモールをあとにした。
*
お昼前ということもあって、待つことがなく、スムーズに座ることができた。わたしは二人と向かい側に座りうつむいたまま目を合わせることができなかった。
「愛美ちゃん。大丈夫だよ。あたし達、怒ってないから」
「そうだよ。相楽さんのこと責めたりはしないよ。だから顔を上げて」
二人のやさしさに甘えてばかりだ。
どうしてこんなにも優しくしてくれるのだろう。わたしにはそんな資格なんてないのに。それなのに、どうしてなのだろう。不思議で仕方がなかった。
「愛美ちゃん。もしかして、あたし達のこと苦手?」
奏さんの問いかけに肩がビクッと震え上がった。決してそんなことはない。むしろ二人のことはすごく好きだ。だからこそ、きらわれたくない。わたしは首を横に振り、ゆっくり顔を上げた。二人はとても切なそうな表情を浮かべていた。それだけわたしの感情が、二人を傷つけてしまったのだ。
「苦手なんかじゃありません。わたしは二人のことすごく好きです。だから二人に嫌われたくないです。今日だってすごく楽しみにしていました。ただ自分の自信のなさで、二人の楽しみを壊してしまったのが、すごく辛いです」
二人に対するわたしの想いをすべて吐き出した。引かれてしまっただろうか。キラわれたくない。もっともっと二人と一緒にいたい。心の底からそう願った。小動物のように、小さく縮こまり震えていると、クスクスと笑う声がした。
「本当にバカな子なんだから。あたし達が、そう簡単にキライになったりしないわ。自信のないところも含めてあなたなんだから、嫌いになんてなれないよ。あたしは…、あたし達は、あなたが可愛くて仕方がないのよ。だからね。これからも気軽に会えたり、話せるようになりたいのよ。それは近藤さんだって同じだよ」
近藤さんは強く頷いた。
彼女と親友となりたいと願っていたのにも関わらず、わたしは信じることができていなかったのだ。本当にわたしは最悪だ。じんわりと泪が溢れ出て、何も答えることができなかった。二人はそんなわたしを笑うことはせず、やさしく見つめていた。二人とだったら、わたしはわたしでいられる。ありのままの自分を好きでいてくれる二人とだったら、わたしはもしかしたら新しい一歩を踏み出せるかもしれない。だから、わたしはもっと変わりたい。固く噤んだ口を懸命な思いで一つの言葉を吐き出した。
「こんなわたしでも良かったら。わたしと…わたしと、し、親友になってくれませんか」
二人の反応が、正直恐い。だけれどこの思いに、目を逸らしたくはなかった。二人は目を合わせ合い、にんまりと笑顔を浮かべ「もちろん」と答えた。
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