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第5章
4
「それで、二人は今日どうするの?」
パンを頬張るボムズは尋ねる。
はて、どうしようかーー
そう思うヒポクリフトに、今後の予定など皆無だった。
というのも今まではただダンジョン攻略をしていただけで、自由に過ごす時間などなかった。
故に考える必要すらなかった。
それがいきなりなくなったとあらば、いよいよする事はない。
少なくとも転移魔法陣(ゲート)の起動に必要な残り2日はその状態が続くのだろう。
ヒポクリフトは頭を捻って、どうしようか考えあぐねていた。
一方、ガンスレイブはそんなヒポクリフトとは違っていた。
「俺は少しやる事がある」
ボソッと言って、ガンスレイブは席を立つ。
目の前の食事を綺麗に平らげて。
「どこ行くんだい、獣の?」
「答える義理はない」
ガンスレイブは即座に答えた。
むう、とほっぺを脹ませるボムズ。
「どうせまたロクでもないことするんでしょ?」
嫌味たらしくボムズが訊いて、ガンスレイブは無言で階段を降りて行った。
結局、どこへ行くかは分からない。
「何よあいつ!せっかく泊めてやってるってのに!」
「まぁまぁ……」
怒りを露わにするボムズに同情するヒポクリフト。
ただそう平然に振る舞うヒポクリフトとて、納得はしていなかった。
ここまでガンスレイブと共に歩んできて、何とか地下8階層まで進んできた。
ずっとガンスレイブは一緒で、彼と片時も離れたことはなかった。
それが地下8階層に来た途端、どうだろうか。
私を置いて、一人では勝手にどこかへ行ってしまった。
確かに、例の一件で少し気不味い雰囲気ではあったけれど、それでも一緒にここまで進んで来た事実は変わらない。
あの時、ガンスレイブが何を思い冒険者達を殺したのか、その理由は未だ謎のままであるが、絶対理由があった筈だ。
その事について、色々と聞きたかったんだけど…
最早私は他人で、どうでもよくなってしまったのだろうか?
ヒポクリフトは一人悩んでいた。
ガンスレイブにとって、私は既に用済みなのだのかーー
そんな不安心が、ヒポクリフトの心中を掻き乱していたのである。
「……ヒポちゃん?どうしたの暗い顔して?」
突然、ボムズが顔を覗き込み尋ねてきた。
はわわ、ヒポクリフトは慌てて平然さを取り繕う。
「い、いえ!何でもありませんよ!?それにしても、このスープは絶品ですね!?お代わりを貰ってもいいですか?」
「え?ああ、うん、いいよ!」
「ありがとうございます!」
だめだ私、今は暗い事は考えないようにしないとーー
それでもヒポクリフトの脳裏には、先程見た去りゆくガンスレイブの背が、いつまで脳裏にはこべりついていたのだった。
◆◇◆◇
フードを被る巨体の人型は、やけに目立つ。
通り過ぎるガンスレイブを見て、道行く冒険者達の足は止まり、振り向く。そんは状態が続いていた。
「あれ、誰だろう?」
「さぁ?」
そんな冒険者達の会話が、凡(あら)ゆるところから聞こえてくる。
この地下8階層には、たくさんの冒険者達がいた。
皆このダイスボードに訳あって訪れた冒険者達で、中にはガンスレイブ達同様に上から一階ずつ降りてきた冒険者達もいれば、転移魔法陣(ゲート)を潜って、そのまま地下8階層に訪れた冒険者達と様々だ。
ただ一貫して、それらは平凡なる冒険者諸君である。
故に冒険者諸君は、歩く異様に巨大なガンスレイブの姿に目を奪われていた。
『多分、あれは攻略組じゃないか?』
『風格がただ者じゃない……』
思い思い、皆はガンスレイブの姿に並々ならぬオーラを感じ取る。
そんな冒険者達に目もくれないガンスレイブは、明確な足取りのその場所に向かう。
その場所。
道を抜けた建物の中の、頼りない蝋燭(ろうそく)の照らす一室。
部屋に入って、ガンスレイブはその男に向かい合った。
「……情報だ」
「毎度」
その男、冒険者とはまた違う雰囲気を醸し出す。
また、ガンスレイブの怪しげなフード姿を見てさえ、驚きの一切を見せてはいなかった。
その理由として、彼の客に普通な者などまずいない。
彼ーー名をサーチ。
彼はこの地下8階層で、情報屋という稀有な商売を営んでいた。
髭面のボサボサ頭に、風貌はかなり怪しい。
それは日陰者の情報屋らしい姿格好で、部屋も大量の書物やらで汚く、それもまた情報屋らしいと言えばそうであろうか。
まぁ座ってくれ。
サーチは書類に埋もれた椅子を開ける。
ガンスレイブはそこに座り、サーチと向かい合った。
「で、何を知りたい?」
サーチはいきなり本題へ、にやけ面を作り尋ねた。
「とある人物について、知りたい」
「とある人物、とは?」
「人間の娘だ。これ以上は貴様が知っているか知っていないかだ」
「成る程ね」
サーチは席を立つと、背後の机の引き出しをガサゴソと漁り始めた。
そして、紐で括(くく)られた書類の束を片手に戻って来て、ガンスレイブへと手渡した。
「これが札付きの人間の娘のリストだ」
札付き、それは比喩表現。
ここでいう札付きとは、人間の娘の中でも訳ありの者達、ということになる。
それは王国の娘から貧民の娘まで、訳ある人間の少女達の情報がズラリと並んでいた。
「極秘リストだ」
サーチはガンスレイブに手を差し伸べる。
前金を寄越せ、サーチは無言の要求を見せる。
「……いいだろう」
ガンスレイブは金貨2枚をサーチへ。
「毎度あり」
上客だ、サーチは目元を卑(いや)しく細め笑った。
サーチは言ってないが、ただのリストの閲覧に金貨2枚は破格の額である。
むしろ情報によっては、金貨1枚でも十分過ぎるぐらい。
その事を黙るサーチは、ペラペラと書類を捲(めく)るガンスレイブを恍惚そうには見つめていた。
さぁて、どれくらい踏んだくってやろうかーー
直ぐ後、ガンスレイブの書類を捲る指が止まった。
「…見つけた」
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