28 / 39
楽園破壊編
歩み寄りました
しおりを挟む思い立ったが吉日──わたしは勇気を振り絞って、魔狼族の子供たちがつくテーブルへと向かった。
すると案の定、わたしの訪れに気付いたガンブが皆を庇うように立ちはだかってきた。
「なにか用か?」
険しい表情で睨みつけてくるガンブ。「ぐるるる……」と喉を鳴らして、今にも噛み付いてきそうな勢いだった。
怒っている顔も、やっぱり可愛い……はっ⁉︎ ダメだだめだ! しっかりするのよ、わたし!
わたしは、なるべく優しい笑顔を作りながら、
「みんな、お腹空いてるでしょう? だからほら、遠慮しなくて食べていいんだよ?」
「ふん、誰が口にするものか。俺たちは、絶対に食べない」
「どうして? 美味しいよ?」
と、わたしはテーブルの上に並んでいた大皿から、料理をひと摘み。それをひょいっと口の中へと放り込み──おう、やっぱりいつ食べても美味しい味付け。料理長、すっかり腕を上げたね。
あまりの美味しさに、わたしはしばし言葉を失い料理の味に舌鼓を打っていた。すると、先ほど料理を食べたそうにしていた子供の一人が、ヨダレを口からだらだらと流しながらわたしのことを見つめてきて──グゥ~……その子のお腹の虫が、鳴った。恥ずかしそうに、俯く肩を縮こませている。その姿は、すごく哀れに思えて仕方がなかった。
「ねぇガンブ、そう意固地にならないでさ、もういいじゃない。みんなが可哀想だよ」
「うるさい! 俺たちは、こんなもの欲しくなんかない!」
「じゃあ、言って。あなたたちの食べたい物。わたしが、つくってあげるからさ」
「つくる、だって? ……ふん、バカバカしい」
「嘘じゃないよ、本当だよ?」
ガンブは、フンと花を鳴らしながら言った。
「じゃあ、シイナの実だ」
「シイナの実?」
「そうだ。俺たちの故郷に生えていた、野生の木の実だ。ほらどうした、つくれるんだろ?」
ガンブは、どうやらわたしがハッタリをかましているのだろうとたかを括っているみたいだった。どうせつくれないだろうから無理難題を吹っかけてきた、そんな様子である。
「できないくせに、勝手なことばかりを言うな。この、嘘つきめ──」
「できるよ。シイナの実って、オレンジ色の皮で、中に甘酸っぱい実がたくさん詰まってる果物のことでしょ?」
わたしがそう言えば、ガンブは目を見開き驚いていた。
「お前が、どうしてシイナの実を、知っている……」
「だって、わたしの故郷にもたくさんなってたから。小さい頃、たくさん食べたもの」
わたしが生まれ育った故郷の村には、それはそれはたくさんの果実の木が植えられていた。なんでも、わたしのご先祖さまに世界を放浪している方がいて、世界各地の珍しい果物の種を持ち帰ってきたのだと、昔お婆ちゃんから聞いたことがある。シイナの実は、その内の一つだ。
でもそうか。あのシイナの実は、ガンブたちの故郷で実っていた果実だったのか……縁とは、つくづく不思議なものだ。
それにわたしも、なんだか久しぶりにシイナの実が食べたくなってきたな。実際につくったことはないけど、見た目や味などは、しっかりと記憶している。
「じゃあ、ちょっと見ててね」
わたしは翳した手のひらに、ゆっくりと魔力を込めていく。シイナの実のことだけを考える。あれがどういう形で、どういう味だったかを思い浮かべ──虹色の光が、わたしの手のひらに集約していく。
そして、
「はい、シイナの実。これで、あってるよね?」
わたしは、創造したシイナの実をガンブへと渡した。ガンブは驚き言葉を失っている様子で、そのシイナの実がをまじまじと見つめていた。
「どうして、シイナの実がここに……」
「創造魔法。これが、わたしの力なの」
「創造魔法? 聞いたことが、ない──」
と、ガンブがぶつぶつと呟き言った、次の瞬間だった。子供たちの一人が突然ガンブの手からシイナの実を奪い取ると、躊躇いもなく齧り付く。
「おい、なにやってんだッ⁉︎」
ガンブが慌てて止めようとするが、その子は一心不乱にシイナの実を食べ続けた。ゴクリと喉へと流し込み、
「……美味しい……美味しいよ……ガンブも、それにみんなも、食べてみなよ……これ、シイナの実だよ……もう二度と、食べられないと思ってたのに……」
「それ、どういうこと?」
わたしが尋ねると、その子は途端にバツな悪そうな顔を浮かべガンブの様子を伺っていたが、結局は話し出した。
「里も森も焼けちゃって、シイナの実は全部なくなっちゃったんだ。昔は、たくさんなってた。春になると、森の一面にシイナの実がなって、綺麗だった」
「そう、なんだ……大変だったんだね」
「……うん。だから、もう一度見れて嬉しいよ。お姉ちゃんは、とってもすごい魔法使いなんだね」
「え、わたしが?」
信じられずに聞き返すと、その子は「うん!」と瞳をキラキラと輝かせて力強く頷いた。
「食べ物を作れる魔法使いなんて、僕はじめて見たよ! すごいなぁ、お姉ちゃん」
「そ、そうかなぁ……」
冒険者たちには無能だって言われた創造魔法がこんな風に褒められるのは、なんだか素直に嬉しいな……もう少し、頑張ってみるか。
「ねぇ、他のみんなは、なにか食べたいものとか、欲しいものはないの?」
わたしは、子供たちを見回して尋ねてみる。どうせなら、みんなが喜びそうな物を作ってあげたかった。ガンブは、いつの間にかいなくなっていた。今なら、みんなが怒られることもないだろう。
「遠慮しなくていいんだよ。わたしにつくれるものだったら、なんだっていいよ」
と、わたしは手のひらにぽいぽいと様々な物を創造させた。それこそ、手品みたく。そんな様子に、子供たちは驚いているようだったが、頬を緩めて楽しそうに笑ってくれたり
やっぱり、子供は笑っているのが一番なのだ。子供の笑顔こそが平和の象徴だって昔誰かが言っていたけど、全くその通りだと思う。
「うわぁああああん! みんなが笑ってくれたよぉおおお!」
「「「ビルマ様⁉︎」」」
それから、子供たちを交えた宴は大いに盛り上がった。子供たちも少しずつ打ち解けてきて、「美味しい美味しい」と料理にも手をつけてくれた
また数日が過ぎて、わたしたちは手分けをして子供たちにディスガイアの暮らしについてを教えることに。島のいろんなところに連れて行ってあげたり、普段行っているお仕事(と言っても釣りとか採取とか大したことではないけど)を見てもらった。みんな、興味津々といった様子だった。
そんな、ある日のことだった。子供たちの一人が、こんなことを言った。
「楽園は、本当にあったんだ……里のみんなも、連れてきたかったなぁ」
しんみりと言ったその子には、かける言葉が見つからない。その胸に負った痛みがどれ程ものなのかも、理解してあげられない。
でも、だからこそ、彼らに寄り添ってあげたいと、わたしは心の底からそう思った。
それは、ガンブにしてもそうだった。
彼だけは、いつも一人。
決してわたしたちの呼びかけには応えず、ずっと一人で行動している。他の子たちも距離をとり始め、いよいよ孤立していたのだった。
1
お気に入りに追加
990
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
【完結】ある二人の皇女
つくも茄子
ファンタジー
美しき姉妹の皇女がいた。
姉は物静か淑やかな美女、妹は勝気で闊達な美女。
成長した二人は同じ夫・皇太子に嫁ぐ。
最初に嫁いだ姉であったが、皇后になったのは妹。
何故か?
それは夫が皇帝に即位する前に姉が亡くなったからである。
皇后には息子が一人いた。
ライバルは亡き姉の忘れ形見の皇子。
不穏な空気が漂う中で謀反が起こる。
我が子に隠された秘密を皇后が知るのは全てが終わった時であった。
他のサイトにも公開中。
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる