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第4章 テイマーとして決断

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 何であんな事を言ってしまったのか……
『聞きたくありません! 私は絶対に認めませんから! アポロさんの馬鹿!』
 私は頭を抱え、一人落ち込んでいた。
 こんな時、部屋にいると余計に苦しくなるだけ。だったら外に出て少し夜風に当たりましょうかって、
「よう、ウボーじゃないか」
 宿舎を出て早々、そのヘラヘラとした顔を見た。ハイライト教官である。
「よし、やっぱ帰ろう」
「いや待て、何でそうお前らは俺に冷たいんだ。一体俺が何をやったっていうんだ」
 ハイライト教官は項垂れ言った。少し可哀想に思えた。
「わ、悪かったですよ~、そう落ち込まないでくださいよ~」
「別に落ち込んではない」
 ハイライト教官は拗ねたのか、口を尖らせる。
 私以上に面倒くさい人、なのかもしれない。

「で、どうしたんだ? そんな浮かない顔して」
 近くのベンチに腰掛けて、ハイライト教官はそう切り出した。
「別に、何てことはありません」
「それにしたって元気がないじゃないか?」
 ハイライト教官はガハハと豪快な笑って、
「悩める教え子の相談役、このハイライト教官様に何でも話してみろ」
 などと、年長者らしい事を口にしたのである。
 どういう風の吹きまわしだ?
「まさか、私をおちょくろうとか考えてませんか?」
「まさか、この俺が可愛い教え子に対してそのような悪質な事をするように見えるか?」
 私は即座に頷いた。
「おい! 少しは俺を信用しろ!」
「では、信用に足るだけの話を聞かせて下さいよ」
 と言うのも、私はハイライト教官について何も知らなかった。私の知っている限りのハイライト教官とはいつも教官室に居て、ダラダラと過ごしているイメージでしかない。
 故の、疑問。そもそも、何故ハイライト教官はこのひまわり牧場の管理、監督を任されいるのか?
 ハイライト教官は「うーん」と唸り声を出して、ひたいに指を当て俯き込んでいた。
 ほら、やっぱり。何も言えないんじゃないかーーと私、その場を離れようとして。
「そうだな、俺はこれでも昔はかなり優秀な奴だった」
 口を開いたと思えば、そうは言い出した。
 どうせ嘘に決まってる。
「へぇ、じゃあ聞きますが、どう優秀だったと?」
「具体的な例であげると、俺は上級テイマーとしての資格を有していた」
「……ははは、冗談にしても大きく出ましたね」
「冗談じゃない、事実だ」
 ハイライト教官は言い切って、徐に胸ポケットに手を入れた。そして、その金色に煌めく紋章を見せてきた。その紋章には、竜の姿が象られている。
 私はその紋章に心当たりがあった。確かこれと同じ物が、アポロさんの自室にも飾られていてーー
「こ、これはまさか……上級テイマーとして認められた者にだけ与えられるという、『特別金龍紋章』……ですか?」
 ハイライト教官は静かに頷き、紋章を空に掲げ、眺める。
「過去の栄光、そうは言えるがな」
「どういう意味、ですか?」
「既にこの紋章は失効しているんだよ。つまり、俺は最早上級テイマーでも何でない、ということだ。今ではこの通り、何の威厳もないひまわり牧場の監督役としてはひっそり余生を送っている」
 ハイライト教官は紋章を胸ポケットに戻し、「内緒だぞ?」と乾いた笑い声を浮かべる。
「どうだ、これで俺の偉大さが少しは理解できたか?」
「え、ええ……でも未だ信じられません、またかハイライト教官のような人が、上級テイマーだったなんて……」
「はは、そりゃあそうだ。誰にも言ったことはなかったし、言うつもりもなかったからな」
 ハイライトは細い目を作って言った。その目は、これ以上は聞くなと、そう言っているように見える。
 いや、自分から話しておいて何その感じ?
「で、お前の悩みはどうなんだ?」
「え? 私?」
「ああそうさ。今お前の中で渦巻いてる悩みは、人に言えば辛くような悩みなのかと、そうは聞いている」
「そ、それは……」
 私は口籠る。そんな私の肩を、ハイライト教官はバンバンと叩いた。
「おいおい、超優秀な経歴を持つ俺に何でも話してみろよ! 遠慮はいらん! さぁ!」
 う、うぜー……
「まぁ言わんでも分かるがな。どうせお前の事だ、アポロと何かあった、だろ?」
 ハイライト教官はニヤニヤと卑しい笑みを浮かべて言った。
 どうやら見透かされているらしい。ちょっとムカついた。
「図星か?」
 図星である。
「ふ、ふん! ハイライト教官には絶対話したりしません!」
「ちょ、そう身構えるなって」
「五月蝿いです! 失礼します!」
 私は立ち上がり、その場から離れようと走り出してーー
 こけた。
「痛ッ!」
「おいおい、大丈夫か?」
「大丈夫じゃありません! ハイライト教官のせいですからね!?」
「え、俺!? いや俺何もしてないし!」
「……くっ、確かに」
 何も言い返せない自分が悔しい!
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