31 / 34
第4章 テイマーとして決断
8
しおりを挟む何であんな事を言ってしまったのか……
『聞きたくありません! 私は絶対に認めませんから! アポロさんの馬鹿!』
私は頭を抱え、一人落ち込んでいた。
こんな時、部屋にいると余計に苦しくなるだけ。だったら外に出て少し夜風に当たりましょうかって、
「よう、ウボーじゃないか」
宿舎を出て早々、そのヘラヘラとした顔を見た。ハイライト教官である。
「よし、やっぱ帰ろう」
「いや待て、何でそうお前らは俺に冷たいんだ。一体俺が何をやったっていうんだ」
ハイライト教官は項垂れ言った。少し可哀想に思えた。
「わ、悪かったですよ~、そう落ち込まないでくださいよ~」
「別に落ち込んではない」
ハイライト教官は拗ねたのか、口を尖らせる。
私以上に面倒くさい人、なのかもしれない。
「で、どうしたんだ? そんな浮かない顔して」
近くのベンチに腰掛けて、ハイライト教官はそう切り出した。
「別に、何てことはありません」
「それにしたって元気がないじゃないか?」
ハイライト教官はガハハと豪快な笑って、
「悩める教え子の相談役、このハイライト教官様に何でも話してみろ」
などと、年長者らしい事を口にしたのである。
どういう風の吹きまわしだ?
「まさか、私をおちょくろうとか考えてませんか?」
「まさか、この俺が可愛い教え子に対してそのような悪質な事をするように見えるか?」
私は即座に頷いた。
「おい! 少しは俺を信用しろ!」
「では、信用に足るだけの話を聞かせて下さいよ」
と言うのも、私はハイライト教官について何も知らなかった。私の知っている限りのハイライト教官とはいつも教官室に居て、ダラダラと過ごしているイメージでしかない。
故の、疑問。そもそも、何故ハイライト教官はこのひまわり牧場の管理、監督を任されいるのか?
ハイライト教官は「うーん」と唸り声を出して、ひたいに指を当て俯き込んでいた。
ほら、やっぱり。何も言えないんじゃないかーーと私、その場を離れようとして。
「そうだな、俺はこれでも昔はかなり優秀な奴だった」
口を開いたと思えば、そうは言い出した。
どうせ嘘に決まってる。
「へぇ、じゃあ聞きますが、どう優秀だったと?」
「具体的な例であげると、俺は上級テイマーとしての資格を有していた」
「……ははは、冗談にしても大きく出ましたね」
「冗談じゃない、事実だ」
ハイライト教官は言い切って、徐に胸ポケットに手を入れた。そして、その金色に煌めく紋章を見せてきた。その紋章には、竜の姿が象られている。
私はその紋章に心当たりがあった。確かこれと同じ物が、アポロさんの自室にも飾られていてーー
「こ、これはまさか……上級テイマーとして認められた者にだけ与えられるという、『特別金龍紋章』……ですか?」
ハイライト教官は静かに頷き、紋章を空に掲げ、眺める。
「過去の栄光、そうは言えるがな」
「どういう意味、ですか?」
「既にこの紋章は失効しているんだよ。つまり、俺は最早上級テイマーでも何でない、ということだ。今ではこの通り、何の威厳もないひまわり牧場の監督役としてはひっそり余生を送っている」
ハイライト教官は紋章を胸ポケットに戻し、「内緒だぞ?」と乾いた笑い声を浮かべる。
「どうだ、これで俺の偉大さが少しは理解できたか?」
「え、ええ……でも未だ信じられません、またかハイライト教官のような人が、上級テイマーだったなんて……」
「はは、そりゃあそうだ。誰にも言ったことはなかったし、言うつもりもなかったからな」
ハイライトは細い目を作って言った。その目は、これ以上は聞くなと、そう言っているように見える。
いや、自分から話しておいて何その感じ?
「で、お前の悩みはどうなんだ?」
「え? 私?」
「ああそうさ。今お前の中で渦巻いてる悩みは、人に言えば辛くような悩みなのかと、そうは聞いている」
「そ、それは……」
私は口籠る。そんな私の肩を、ハイライト教官はバンバンと叩いた。
「おいおい、超優秀な経歴を持つ俺に何でも話してみろよ! 遠慮はいらん! さぁ!」
う、うぜー……
「まぁ言わんでも分かるがな。どうせお前の事だ、アポロと何かあった、だろ?」
ハイライト教官はニヤニヤと卑しい笑みを浮かべて言った。
どうやら見透かされているらしい。ちょっとムカついた。
「図星か?」
図星である。
「ふ、ふん! ハイライト教官には絶対話したりしません!」
「ちょ、そう身構えるなって」
「五月蝿いです! 失礼します!」
私は立ち上がり、その場から離れようと走り出してーー
こけた。
「痛ッ!」
「おいおい、大丈夫か?」
「大丈夫じゃありません! ハイライト教官のせいですからね!?」
「え、俺!? いや俺何もしてないし!」
「……くっ、確かに」
何も言い返せない自分が悔しい!
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
この理不尽な世界を終わらすために、立ち上がりました
Ena
ファンタジー
謎の組織によって生き物を襲うモンスターがこの世界に出現した。
現実にないモンスターのせいで世界の空間が歪み、人間界と精霊界がくっついてしまう。
そんな世界の中、聖剣士少女である倉中佚鹿(くらなかいちか)は1人モンスターと戦っていた。
孤独で戦いにあけくれていた佚鹿に1人の精霊の手が差し伸べられる。
大精霊の弟子であり、次世代大精霊候補であるえなだった。
佚鹿はこの世界を終わらすためには約300ものボスモンスターを倒さなければならないことを知らされる。
えなは佚鹿を一緒に戦う仲間にならないかと誘うが、仲良しこよしのためにここにいるのではないと断られてしまう。
だが、えなは勝負をして強さを示し合うという条件をだした。佚鹿はこれには承諾し、勝負をした。
これはこの世界を終わらすために集まった、ある“トラウマ”を抱えた少年少女の物語______
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ドグラマ3
小松菜
ファンタジー
悪の秘密結社『ヤゴス』の三幹部は改造人間である。とある目的の為、冷凍睡眠により荒廃した未来の日本で目覚める事となる。
異世界と化した魔境日本で組織再興の為に活動を再開した三人は、今日もモンスターや勇者様一行と悲願達成の為に戦いを繰り広げるのだった。
*前作ドグラマ2の続編です。
毎日更新を目指しています。
ご指摘やご質問があればお気軽にどうぞ。
異世界に飛ばされた警備員は持ってた装備で無双する。
いけお
ファンタジー
交通誘導の仕事中に突然異世界に飛ばされてしまった警備員、交 誘二(こう ゆうじ)
面倒臭がりな神様は誘二の着ていた装備をチート化してしまう。
元の世界に戻る為、誘二は今日も誘導灯を振るい戦っている。
この世界におけるモンスターは、位置付け的にMMOの敵の様に何度でもリポップする設定となっております。本来オークやゴブリンを率いている筈の今後登場する予定の魔族達も、人達と同じ様に日々モンスターを狩りながら生活しています。
この世界における種族とは、リポップする事の無い1度死んでしまうと2度と現れる事の出来ない者達とお考えください。
精霊徒然日記
へな
ファンタジー
ある一部の地域で存在する精霊の長、カエデとその補佐である小鹿の霊、シキは霊達を管理する仕事を請け負っていた。 そんなある日、隣町の長の不穏な動きから、秘められた過去が暴かれていく――
心温まる和風ファンタジー短編小説。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
虹色の子~大魔境で見つけた少年~
an
ファンタジー
ここではない、どこかの世界の話。
この世界は、《砡》と呼ばれる、四つの美しい宝石の力で支えられている。人々はその砡の恩恵をその身に宿して産まれてくる。たとえば、すり傷を癒す力であったり、水を凍らせたり、釜戸に火をつけたり。生活に役立つ程度の恩恵が殆どであるが、中には、恩恵が強すぎて異端となる者も少なからずいた。
世界は、砡の恩恵を強く受けた人間を保護し、力を制御する訓練をする機関を立ち上げた。
機関は、世界中を飛び回り、砡の力を扱いきれず、暴走してしまう人々を保護し、制御訓練を施すことを仕事としている。そんな彼らに、情報が入る。
大魔境に、聖砡の反応あり。
聖砡。
恩恵以上に、脅威となるであろうその力。それはすなわち、世界を支える力の根元が「もう1つある」こと。見つければ、世紀の大発見だ。機関は情報を秘密裏に手に入れるべく、大魔境に職員を向かわせた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる