29 / 34
第4章 テイマーとして決断
6
しおりを挟むヒルマ学園、その学舎の歴史は古い。
始まりは100年前の、世界中が戦火に包まれていた暗黒時代の最中にも建設されたと聞く。また、憎まれ口を叩かれたながらの開校されたとも、そうは言われていた。
当時、暗黒時代と呼ばれるその時代の於ける学舎とはあまり良い目で見られていなかったらしい。というのも、当時の若者の殆どは徴兵義務を課せられており、学舎へ赴く事即ち、徴兵を逃がれることと同義に等しかったのだ。
学舎に赴く事を許された若者達の大半は貴族の生まれか、はたまた徴兵検査に於いてバッテン印(徴兵に属さない身体、身体上欠陥の多い者など)が押された者達であった。
彼等学舎に属する事を許された者達はヒルマ学園に通い、多くの事を学び卒業していったという。ただ、学舎通いの若者達は嫌われ敬遠される事が専らで、貴族生まれの者達は別としてそれ以外の学徒達は息を潜め肩身の狭い思いをしていたとか。
そんな彼等学徒が日の目を見たのが戦後、暗黒時代の終わった後の事であり、戦争で多くの知識人を失った世界で多くいに活躍を果たしたと聞く。その内の一人には、モンスターテイマーを志す者であれば知っていて当然とされる、かのカール・コイケヤも存在し、彼は学徒時代からモンスター分野の研究を主に行っていたという。
『人類にとって害悪とされるモンスターとは、果たしてただそれだけに過ぎないのか?』
カールはその理念を掲げ、このひまわり牧場の開校に至ったとか。
今日(こんにち)では然程珍しくないテイマーでも当時は異端者と揶揄され、その権利を勝ち取る為にたくさんの人達が動き、闘ったされている。
「だからね、ひまわり牧場とヒルマ学園はカール・コイケヤを通じて、密接な繋がりがあるみたいなの」
傷の処置後、私はヒルマ学園についてを尋ねるウボーに説明を行っていた。ウボーは真剣な表情を作り、真摯な態度では聞き入っていた。
「そのヒルマ学園にネイルって人がいてさ、彼はそこの学園理事長を務める人なの。私はネイル先生と呼んでいるんだけど、」
「知ってますよ。ネイル・ハーニッシュ……モンスター研究の第一人者、ですよね?」
「そう、よく知ってたね?」
「もちろんです。だって、そのネイル様はひまわり牧場の創設者カール・コイケヤの一人息子だと有名ですもの」
まさかそこまで知っていたなんてね、驚いたよ。
「じゃあ、前置きはこの辺にして本題に入るね。私は今、そのネイル先生にヒルマ学園に来ないかって誘われているの」
そう言った折、ウボーがどういった反応を見せるかが気掛かりで仕方がなかった。もしかしたら先ほどのように取り乱すんじゃないかと、ある種不安に近い気持ちを抱いていたのだ。
ただ、そんな私の気持ちとは裏腹に、ウボーが実に穏やかなものであった。
「そう、だったんですね……」
ウボーは静かに呟く。
「でも、どうしてヒルマ学園に? あそこは確かにアポロさんのような凄く優秀な人達が集まる学園として有名ですけど、テイマーとしての訓練分野はない筈ですけど?」
「うん。でもほら、私ここでの訓練過程は終わってるし」
「あ、ああ……そうでした」
「それにね、ヒルマ学園には学生として呼ばれてるんじゃなくて、特別講師としてなんだ。つまり、先生だね」
「先生!?」
ウボーは目を見開き声を上げた。
「そそ、先生と言っても見習いなんだけどね。モンスター研究の講師として、来ないかって」
「でもでも、何でそんな……だって、アポロさんは上級テイマーだし」
「うん、ウボーがそう思うのも無理はないと思うし、そう言うとも思ってたよ。正直、私としてもずっと迷ってた最中だったんだ。別に私のモンスター研究者でもないし、況してや先生なんて志しているわけでもないしさ」
でもね、と私はそうは続ける。
「ウボーが来てから、私の中で何かが変わったんだ」
「わ、私ですか?」
「そうだよ。ウボー、貴女が私にたくさんの事を気づかせたくれたの。その中には、今の私に足りないものも含まれていた」
「そ、そんな! 私はアポロさんの足を引っ張るばかりだったし、それにアポロさんに足りないものなんてないですよ!アポロさんは完璧です、間違いありません!」
ウボーは必死にそう言ってくれた。それが嬉しくもあり、またもどかしくもある。
故に、私は、
「ウボーが思ってる程、私は完璧じゃない。目を向けなかっただけで、気付けば足りないものばかりでしかなかった。それはテイマーとしてもそうだし、人としてもそう。だからさ、今回の話が良いきっかけになればいいなって、そう思ったの。ネイル先生は言ってた、『学ぶ立場からじゃない見えないものもある』って。確かにその通りだった。ウボーを助手としてから、私は今まで気付けなかった自分に足りなかったものを見つけられたから、だから、」
「嫌です!」
ウボーの叫び声が響き渡った。
見ると、ウボーの表情の強張っていた。
「嫌です嫌です……そんなの嫌です! 私は認めません! せっかくまたアポロさんと一緒にいられると思ったのに、それなのに……」
ウボーは立ち上がると、勢い任せには走り出した。
「ちょっと、話を最後まで、」
「聞きたくありません! 私は絶対に認めませんから! アポロさんの馬鹿!」
ウボーは吐き捨て、逃げるようにその場から去っていった。
私は一人取り残され、沈む夕日に背を傾けた。
「だから、話を最後まで聞けっての……」
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?
marupon_dou
ファンタジー
時は現代。世には悪の秘密結社"フェイスダウン"が夜の闇に潜み人々を襲っていた。
人造人間"フェイス"戦闘員を擁し、人間が持つ感情エナジーを奪う彼らと戦うのは――
その"フェイス"戦闘員だった!
精霊の力を宿した、不屈の戦士《ヒーロー》・アルカー。
彼と肩を並べ戦う、正義に目覚めた悪の戦闘員《ヒーロー》、ノー・フェイス!
人々を守り、フェイスダウンに狙われた少女を守る戦闘員の物語が今、始まる――。
※最初の五話は挿絵がつきますが、以後は不定期(ときたま)になります。
※第一部は毎日連載します。
※90~00年代のライトノベルの作風を目指して執筆中です。
※イメージの源流は特撮ヒーローですが、パロディ・オマージュ作品ではありませんので
パロディ・オマージュ・お約束などは非常に薄めです。
※第一章~第二章は以下のサイトでも公開しております。
カクヨム:https://kakuyomu.jp/works/1177354054883360465
エブリスタ:http://estar.jp/_novel_view?w=24664562
Pixiv:https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8269721
ドグラマ3
小松菜
ファンタジー
悪の秘密結社『ヤゴス』の三幹部は改造人間である。とある目的の為、冷凍睡眠により荒廃した未来の日本で目覚める事となる。
異世界と化した魔境日本で組織再興の為に活動を再開した三人は、今日もモンスターや勇者様一行と悲願達成の為に戦いを繰り広げるのだった。
*前作ドグラマ2の続編です。
毎日更新を目指しています。
ご指摘やご質問があればお気軽にどうぞ。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
魔導書転生。 最強の魔導王は気がついたら古本屋で売られていた。
チョコレート
ファンタジー
最強の魔導王だったゾディアは気がついたら古本屋に売られている魔導書に転生していた。
名前以外のほとんどの記憶を失い、本なので自由に動く事も出来ず、なにもする事が無いままに本棚で数十年が経過していた。
そして念願の購入者が現れることにより運命は動き出す……
元最強の魔導書と魔導が苦手な少女の話。
精霊徒然日記
へな
ファンタジー
ある一部の地域で存在する精霊の長、カエデとその補佐である小鹿の霊、シキは霊達を管理する仕事を請け負っていた。 そんなある日、隣町の長の不穏な動きから、秘められた過去が暴かれていく――
心温まる和風ファンタジー短編小説。
異世界に飛ばされた警備員は持ってた装備で無双する。
いけお
ファンタジー
交通誘導の仕事中に突然異世界に飛ばされてしまった警備員、交 誘二(こう ゆうじ)
面倒臭がりな神様は誘二の着ていた装備をチート化してしまう。
元の世界に戻る為、誘二は今日も誘導灯を振るい戦っている。
この世界におけるモンスターは、位置付け的にMMOの敵の様に何度でもリポップする設定となっております。本来オークやゴブリンを率いている筈の今後登場する予定の魔族達も、人達と同じ様に日々モンスターを狩りながら生活しています。
この世界における種族とは、リポップする事の無い1度死んでしまうと2度と現れる事の出来ない者達とお考えください。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
元世界最強の人間と行く地獄のワールドツアー
ユウ
ファンタジー
世界を守るため、多くの資産家・貴族が動き長年の戦争が終結した。しかし、失ったものは資産だけではなかった。世界のほとんどが新しい世界を進みゆく中、アーティと呼ばれる20代の天才講師(先生)は過去の栄光を求める研究者だった。過去の栄光とは、古代の残した、古代機器を初め古代魔法、古代技術、全てを求め続けた。これは、一人の男性である、アーティの物語
補足
初めて読む方は、『全ての結末』をスルーして次の章『名もない不思議な街』から読むか、『全ての結末』のタイトルに各章の名前を書いているので、それを読んでいただけば、最低限の内容はまとめています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる