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第4章 テイマーとして決断

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 ヒルマ学園、その学舎の歴史は古い。
 始まりは100年前の、世界中が戦火に包まれていた暗黒時代の最中にも建設されたと聞く。また、憎まれ口を叩かれたながらの開校されたとも、そうは言われていた。
 当時、暗黒時代と呼ばれるその時代の於ける学舎とはあまり良い目で見られていなかったらしい。というのも、当時の若者の殆どは徴兵義務を課せられており、学舎へ赴く事即ち、徴兵を逃がれることと同義に等しかったのだ。
 学舎に赴く事を許された若者達の大半は貴族の生まれか、はたまた徴兵検査に於いてバッテン印(徴兵に属さない身体、身体上欠陥の多い者など)が押された者達であった。
 彼等学舎に属する事を許された者達はヒルマ学園に通い、多くの事を学び卒業していったという。ただ、学舎通いの若者達は嫌われ敬遠される事が専らで、貴族生まれの者達は別としてそれ以外の学徒達は息を潜め肩身の狭い思いをしていたとか。
 そんな彼等学徒が日の目を見たのが戦後、暗黒時代の終わった後の事であり、戦争で多くの知識人を失った世界で多くいに活躍を果たしたと聞く。その内の一人には、モンスターテイマーを志す者であれば知っていて当然とされる、かのカール・コイケヤも存在し、彼は学徒時代からモンスター分野の研究を主に行っていたという。
『人類にとって害悪とされるモンスターとは、果たしてただそれだけに過ぎないのか?』
 カールはその理念を掲げ、このひまわり牧場の開校に至ったとか。
 今日(こんにち)では然程珍しくないテイマーでも当時は異端者と揶揄され、その権利を勝ち取る為にたくさんの人達が動き、闘ったされている。

「だからね、ひまわり牧場とヒルマ学園はカール・コイケヤを通じて、密接な繋がりがあるみたいなの」
 傷の処置後、私はヒルマ学園についてを尋ねるウボーに説明を行っていた。ウボーは真剣な表情を作り、真摯な態度では聞き入っていた。
「そのヒルマ学園にネイルって人がいてさ、彼はそこの学園理事長を務める人なの。私はネイル先生と呼んでいるんだけど、」
「知ってますよ。ネイル・ハーニッシュ……モンスター研究の第一人者、ですよね?」
「そう、よく知ってたね?」
「もちろんです。だって、そのネイル様はひまわり牧場の創設者カール・コイケヤの一人息子だと有名ですもの」
 まさかそこまで知っていたなんてね、驚いたよ。
「じゃあ、前置きはこの辺にして本題に入るね。私は今、そのネイル先生にヒルマ学園に来ないかって誘われているの」
 そう言った折、ウボーがどういった反応を見せるかが気掛かりで仕方がなかった。もしかしたら先ほどのように取り乱すんじゃないかと、ある種不安に近い気持ちを抱いていたのだ。
 ただ、そんな私の気持ちとは裏腹に、ウボーが実に穏やかなものであった。
「そう、だったんですね……」
 ウボーは静かに呟く。
「でも、どうしてヒルマ学園に? あそこは確かにアポロさんのような凄く優秀な人達が集まる学園として有名ですけど、テイマーとしての訓練分野はない筈ですけど?」
「うん。でもほら、私ここでの訓練過程は終わってるし」
「あ、ああ……そうでした」
「それにね、ヒルマ学園には学生として呼ばれてるんじゃなくて、特別講師としてなんだ。つまり、先生だね」
「先生!?」
 ウボーは目を見開き声を上げた。
「そそ、先生と言っても見習いなんだけどね。モンスター研究の講師として、来ないかって」
「でもでも、何でそんな……だって、アポロさんは上級テイマーだし」
「うん、ウボーがそう思うのも無理はないと思うし、そう言うとも思ってたよ。正直、私としてもずっと迷ってた最中だったんだ。別に私のモンスター研究者でもないし、況してや先生なんて志しているわけでもないしさ」
 でもね、と私はそうは続ける。
「ウボーが来てから、私の中で何かが変わったんだ」
「わ、私ですか?」
「そうだよ。ウボー、貴女が私にたくさんの事を気づかせたくれたの。その中には、今の私に足りないものも含まれていた」
「そ、そんな! 私はアポロさんの足を引っ張るばかりだったし、それにアポロさんに足りないものなんてないですよ!アポロさんは完璧です、間違いありません!」
 ウボーは必死にそう言ってくれた。それが嬉しくもあり、またもどかしくもある。
 故に、私は、
「ウボーが思ってる程、私は完璧じゃない。目を向けなかっただけで、気付けば足りないものばかりでしかなかった。それはテイマーとしてもそうだし、人としてもそう。だからさ、今回の話が良いきっかけになればいいなって、そう思ったの。ネイル先生は言ってた、『学ぶ立場からじゃない見えないものもある』って。確かにその通りだった。ウボーを助手としてから、私は今まで気付けなかった自分に足りなかったものを見つけられたから、だから、」
「嫌です!」
 ウボーの叫び声が響き渡った。
 見ると、ウボーの表情の強張っていた。
「嫌です嫌です……そんなの嫌です! 私は認めません! せっかくまたアポロさんと一緒にいられると思ったのに、それなのに……」
 ウボーは立ち上がると、勢い任せには走り出した。
「ちょっと、話を最後まで、」
「聞きたくありません! 私は絶対に認めませんから! アポロさんの馬鹿!」
 ウボーは吐き捨て、逃げるようにその場から去っていった。
 私は一人取り残され、沈む夕日に背を傾けた。
「だから、話を最後まで聞けっての……」
 
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