上 下
23 / 34
第3章 語らない冒険者と未熟なテイマーと

9

しおりを挟む

 一週間という期間は瞬く間に過ぎていった。
 そして本日、モンスターテイマー訓練生ウボーは無事再教育課程を終えひまわり牧場へ帰っていく。
 果てしなく続く平原の、その地平線。早朝。
 私は貨車に揺られ遠ざかっていくウボーを見送りながら、少し寂しさを感じていた。こんな気持ちは、久々だった。
「ハミルトン、貴方もちょっと寂しいんじゃなくて?」
 私は隣に佇む男に訊いた。
 いつも変わらぬ鎧姿。冒険者ハミルトン。変わったとすれば、あの日以降彼は甲冑をつけていない。
 ハミルトンは緩い風に金色の髪を靡かせ、綺麗なエメラルドグリーンの瞳を真っ直ぐとウボーの方へと向けていた。
 ハミルトンは「ふん」と鼻息混じりに。
「まさかそんな訳ないだろう? 俺としてはやっと目の上のタンコブが取れたと、せいせいしている」
 と、相変わらずの冷めた口振り。
「そう? 私にはそうは見えないけど?」
「茶化すな」
「ははは、ごめんごめん」
 少しして、完全にウボーの乗る貨車は見えなくなった。私達は街へと戻るべく歩き出した。
「ところで、どうして甲冑を取ったの?」
「気分だ。最近やたらと暑くなってきたからな」
「ふーん。ま、あんたは普通にしてれば男前に見えるんだし、そっちの方がいいよ」
 そう、ハミルトンは外見は世の男共が嫉妬する程にカッコイイ。もっと具体的に言えば、私が惚れてしまうほどにはカッコイイと。
「心にもない事を言うな。お前の冗談は聞き飽きた」
「冗談じゃないんですけど!?」
「まだ言うか? しつこいぞ」
 ハミルトンはうざったらしそうに吐き捨てた。
 私の恋心は、どうも彼には伝わらないらしい。冗談なんてついてないのに、こんなのあんまりだ。
「ふんだ、せっかく褒めてあげたってのに、素直じゃないんだから」
「!?」
 一瞬、ハミルトンの体がビクンと揺れた。
 え? なんだなんだ?
「素直じゃない、か……そうだな」
 お?
「……ではシャトー、この場合俺は何と言えば良かった?」
 ハミルトンは首を傾げ、真剣な眼差しを作り尋ねてきた。
「ど、どうしたの突然!? あんたらしくない」
「あ、いや……お前が素直じゃないと言うからだろうが」
 ハミルトンはこっぱずかしそうに頭を掻いていた。また、らしくない台詞を口走る。
「俺はどうも感情表現が苦手だ。出来るなら、克服したいと思っているんだが、な」
「……ハ、ハミルトン……あんた……」
 か、可愛いぃいいいいい!
 と、言ったりはもちろんしない。
「悪いもんでも食ったんじゃなくて!?」
 言って、私も素直になれない。
「そんなわけあるか。俺は普通だ、極自然」
「そ、そう。うん、ならいいんだけど……」
 気まずい雰囲気が流れ始める。でも、悪い気はしなかった。むしろこのままずっと時が止まってしまえばいいのになって、そうは思った。
 もう直ぐ、街に着くーー残念だ。
「やっぱり、変わったよハミルトン」
「そ、そうか?」
「うん、私は……今のあんたの方が、良いと思うの。うん」
 ああ……何を言っているんだ私は!? 穴があったら入りたい、激しく。
「本当に、変われているのだろうか、俺は……」
 ハミルトンは途端に寂しそうな顔で、空を見上げ呟いた。そっと抱きしめてあげたくなるような、そんな横顔。
「あいつ……ウボーを見ていて、何だか羨ましく思ったんだ。こんなに素直に生きれたら、どんなにいいだろうかと」
「あ、それは私も思ったかも。あのアポロが助手になるような子だから、どんな子だろうと思ってたんだけど……接していて、その理由を納得しちゃってた」
 多分、アポロがウボーを選んだわけじゃない。ウボーがアポロが望んで、アポロがウボーを認めたんだ。
「ウボーちゃんのあの素直さにアポロの心が動いたんだろうね、きっと」
「……だろうな」
 ハミルトンはフッと微笑み、呟いた。
『もちろん、心を動かされたのはアポロだけじゃないんだけどね?』
 私はハミルトンを横目には、口に出さずそう思う。
「やっぱり間違いじゃなかった。短い期間だったけど、あんたとウボーちゃんを組ませて良かったよ」
「どうして?」
「ふふ、内緒」
 だって言ったって、あんたはどうせ否定するでしょ?
 変わったといっても、そんなのきっかけに過ぎないんだから。
『あんたはまだまだ変われる。私が変えてあげるんだから。絶対に……』
「少しはウボーちゃんを見習いなさい!」
「ふん、お前にだけは言われたくないな」
「な、何を!?」
 ああ、やっぱり素直じゃないな私。でも、これでいいんだよね?
 だってこれが、私達なんだから。これから私が、変えていくんだからーー
 そして今日もまた、私の日常は始まる。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今度のヒーローは……悪の組織の戦闘員!?

marupon_dou
ファンタジー
時は現代。世には悪の秘密結社"フェイスダウン"が夜の闇に潜み人々を襲っていた。 人造人間"フェイス"戦闘員を擁し、人間が持つ感情エナジーを奪う彼らと戦うのは―― その"フェイス"戦闘員だった! 精霊の力を宿した、不屈の戦士《ヒーロー》・アルカー。 彼と肩を並べ戦う、正義に目覚めた悪の戦闘員《ヒーロー》、ノー・フェイス! 人々を守り、フェイスダウンに狙われた少女を守る戦闘員の物語が今、始まる――。 ※最初の五話は挿絵がつきますが、以後は不定期(ときたま)になります。 ※第一部は毎日連載します。 ※90~00年代のライトノベルの作風を目指して執筆中です。 ※イメージの源流は特撮ヒーローですが、パロディ・オマージュ作品ではありませんので  パロディ・オマージュ・お約束などは非常に薄めです。 ※第一章~第二章は以下のサイトでも公開しております。 カクヨム:https://kakuyomu.jp/works/1177354054883360465 エブリスタ:http://estar.jp/_novel_view?w=24664562 Pixiv:https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8269721

ドグラマ3

小松菜
ファンタジー
悪の秘密結社『ヤゴス』の三幹部は改造人間である。とある目的の為、冷凍睡眠により荒廃した未来の日本で目覚める事となる。 異世界と化した魔境日本で組織再興の為に活動を再開した三人は、今日もモンスターや勇者様一行と悲願達成の為に戦いを繰り広げるのだった。 *前作ドグラマ2の続編です。 毎日更新を目指しています。 ご指摘やご質問があればお気軽にどうぞ。

異世界に飛ばされた警備員は持ってた装備で無双する。

いけお
ファンタジー
交通誘導の仕事中に突然異世界に飛ばされてしまった警備員、交 誘二(こう ゆうじ) 面倒臭がりな神様は誘二の着ていた装備をチート化してしまう。 元の世界に戻る為、誘二は今日も誘導灯を振るい戦っている。 この世界におけるモンスターは、位置付け的にMMOの敵の様に何度でもリポップする設定となっております。本来オークやゴブリンを率いている筈の今後登場する予定の魔族達も、人達と同じ様に日々モンスターを狩りながら生活しています。 この世界における種族とは、リポップする事の無い1度死んでしまうと2度と現れる事の出来ない者達とお考えください。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

魔導書転生。 最強の魔導王は気がついたら古本屋で売られていた。

チョコレート
ファンタジー
最強の魔導王だったゾディアは気がついたら古本屋に売られている魔導書に転生していた。 名前以外のほとんどの記憶を失い、本なので自由に動く事も出来ず、なにもする事が無いままに本棚で数十年が経過していた。 そして念願の購入者が現れることにより運命は動き出す…… 元最強の魔導書と魔導が苦手な少女の話。

精霊徒然日記

へな
ファンタジー
ある一部の地域で存在する精霊の長、カエデとその補佐である小鹿の霊、シキは霊達を管理する仕事を請け負っていた。 そんなある日、隣町の長の不穏な動きから、秘められた過去が暴かれていく―― 心温まる和風ファンタジー短編小説。

雌ゴブリンを賢者魔法で美少女にしたら、エライ事になった件。

飼猫タマ
ファンタジー
冒険者仲間に殺されてしまった賢者カイト·シルフィードは、転生し、ゴブリンの巣穴にさらわれた女から、産み落とされた。 「俺、ゴブリンになっちったの?!」 安心して下さい! 普通の人間の赤ちゃんでした。 そして、カイト·シルフィードは雌ゴブリンに育てられ、スクスク育ち、ついでに雌ゴブリンを、賢者魔法によって種族変更させ、美少女にするのです。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...