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第3章 語らない冒険者と未熟なテイマーと
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しおりを挟む一週間という期間は瞬く間に過ぎていった。
そして本日、モンスターテイマー訓練生ウボーは無事再教育課程を終えひまわり牧場へ帰っていく。
果てしなく続く平原の、その地平線。早朝。
私は貨車に揺られ遠ざかっていくウボーを見送りながら、少し寂しさを感じていた。こんな気持ちは、久々だった。
「ハミルトン、貴方もちょっと寂しいんじゃなくて?」
私は隣に佇む男に訊いた。
いつも変わらぬ鎧姿。冒険者ハミルトン。変わったとすれば、あの日以降彼は甲冑をつけていない。
ハミルトンは緩い風に金色の髪を靡かせ、綺麗なエメラルドグリーンの瞳を真っ直ぐとウボーの方へと向けていた。
ハミルトンは「ふん」と鼻息混じりに。
「まさかそんな訳ないだろう? 俺としてはやっと目の上のタンコブが取れたと、せいせいしている」
と、相変わらずの冷めた口振り。
「そう? 私にはそうは見えないけど?」
「茶化すな」
「ははは、ごめんごめん」
少しして、完全にウボーの乗る貨車は見えなくなった。私達は街へと戻るべく歩き出した。
「ところで、どうして甲冑を取ったの?」
「気分だ。最近やたらと暑くなってきたからな」
「ふーん。ま、あんたは普通にしてれば男前に見えるんだし、そっちの方がいいよ」
そう、ハミルトンは外見は世の男共が嫉妬する程にカッコイイ。もっと具体的に言えば、私が惚れてしまうほどにはカッコイイと。
「心にもない事を言うな。お前の冗談は聞き飽きた」
「冗談じゃないんですけど!?」
「まだ言うか? しつこいぞ」
ハミルトンはうざったらしそうに吐き捨てた。
私の恋心は、どうも彼には伝わらないらしい。冗談なんてついてないのに、こんなのあんまりだ。
「ふんだ、せっかく褒めてあげたってのに、素直じゃないんだから」
「!?」
一瞬、ハミルトンの体がビクンと揺れた。
え? なんだなんだ?
「素直じゃない、か……そうだな」
お?
「……ではシャトー、この場合俺は何と言えば良かった?」
ハミルトンは首を傾げ、真剣な眼差しを作り尋ねてきた。
「ど、どうしたの突然!? あんたらしくない」
「あ、いや……お前が素直じゃないと言うからだろうが」
ハミルトンはこっぱずかしそうに頭を掻いていた。また、らしくない台詞を口走る。
「俺はどうも感情表現が苦手だ。出来るなら、克服したいと思っているんだが、な」
「……ハ、ハミルトン……あんた……」
か、可愛いぃいいいいい!
と、言ったりはもちろんしない。
「悪いもんでも食ったんじゃなくて!?」
言って、私も素直になれない。
「そんなわけあるか。俺は普通だ、極自然」
「そ、そう。うん、ならいいんだけど……」
気まずい雰囲気が流れ始める。でも、悪い気はしなかった。むしろこのままずっと時が止まってしまえばいいのになって、そうは思った。
もう直ぐ、街に着くーー残念だ。
「やっぱり、変わったよハミルトン」
「そ、そうか?」
「うん、私は……今のあんたの方が、良いと思うの。うん」
ああ……何を言っているんだ私は!? 穴があったら入りたい、激しく。
「本当に、変われているのだろうか、俺は……」
ハミルトンは途端に寂しそうな顔で、空を見上げ呟いた。そっと抱きしめてあげたくなるような、そんな横顔。
「あいつ……ウボーを見ていて、何だか羨ましく思ったんだ。こんなに素直に生きれたら、どんなにいいだろうかと」
「あ、それは私も思ったかも。あのアポロが助手になるような子だから、どんな子だろうと思ってたんだけど……接していて、その理由を納得しちゃってた」
多分、アポロがウボーを選んだわけじゃない。ウボーがアポロが望んで、アポロがウボーを認めたんだ。
「ウボーちゃんのあの素直さにアポロの心が動いたんだろうね、きっと」
「……だろうな」
ハミルトンはフッと微笑み、呟いた。
『もちろん、心を動かされたのはアポロだけじゃないんだけどね?』
私はハミルトンを横目には、口に出さずそう思う。
「やっぱり間違いじゃなかった。短い期間だったけど、あんたとウボーちゃんを組ませて良かったよ」
「どうして?」
「ふふ、内緒」
だって言ったって、あんたはどうせ否定するでしょ?
変わったといっても、そんなのきっかけに過ぎないんだから。
『あんたはまだまだ変われる。私が変えてあげるんだから。絶対に……』
「少しはウボーちゃんを見習いなさい!」
「ふん、お前にだけは言われたくないな」
「な、何を!?」
ああ、やっぱり素直じゃないな私。でも、これでいいんだよね?
だってこれが、私達なんだから。これから私が、変えていくんだからーー
そして今日もまた、私の日常は始まる。
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