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第3章 語らない冒険者と未熟なテイマーと

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 三日目、私達は更に遺跡の奥へと進む。
 三日目にもなれば遺跡の構造はある程度慣れたおり、その足取りは軽い。
 逆に心境の程はと言うと足取りに相反して、本日もまた重苦しい雰囲気に肝を冷やす私だ。昨日一日の出来事を思い出しては、幸先が不安で不安でたまらないわけです。
 また昨晩シャトー様から聞いた話で、ハミルトンさんはモンスターに対して異常なまでの執念を燃やしているとの情報を仕入れてしまっている。下手に知ってしまった手前、これからどのように接していけばいいか悩みは尽きない。触れていい話題でないことは確かだし、だからといって他に目ぼしい話題があるわけでもないし、てかそもそも今日もまた私と話してくれるのか?
 ああもう! 何で私がこんなにも悩まなくちゃならないだよぉ!?
「……顔色が悪いぞ?」
 いつの間にか、振り向き私を見ていたハミルトンさんが言った。不意打ち過ぎて私はあたふたと取り乱す。
 いかん! 平常心も保て私。常に心は穏やかに、難しく考える必要なんてないんだ。
「ははは、そうですか?」
 ヘラヘラと、ニヤケ面を作って見せてはそう答えた。
「俺の気のせいなら、それでいい」
 ハミルトンさんはぶっきら棒な態度で言うと、再び足を遺跡の奥へと進めて。
「出来れば、今日中に終わらせたい。体調が悪くなったら、直ぐ言え」
「はい」
 心配しているのか煩わしく思っているのか、どちらにもとれる言い方である。どちらにせよ、声を掛けてくれただけマシだとはそう思う事にしよう。
 
 そのまま暫く進んで、開けた広間へと出た。その広間から続く道はなく、だだっ広い空間だけが広がるばかりである。言って、そこは行き止まりと呼べる場所であった。
「これで終わりですか。何だか呆気なかったですね」
 私は広間の中央まで進み呟いた。
 そんな私に対して、ハミルトンさんは「……いや、そんな筈はない」とは納得のいかない口振りでは広間を見回して。
「ゴブリン共がいた以上、どこかに抜け道がある筈だ」
「いやいや、もしかしたらあのゴブリンちゃん達もこの行き止まりに行き着いては引き返してきていたのかもしれませんよ?」
「忘れたのか? 俺たちが来る以前、あの道は石壁で塞がれていた」
「……ああ、そう言えばそうでしたね」
 私は掌に拳を打って納得。
「ではつまり、この広間の何処かに隠し通路があるとお考えですか?」
 ハミルトンさんは無言で頷くと、広間の壁を触り進める。私もハミルトンさんに続き、この広間におかしな箇所がないかを確認し始めた。
 うん、ないなぁ……
「ハミルトンさんの方はどうですか?」
「何もない」
「ですか……」
 これは根気のいる作業になりそうだ。
「ところで、ハミルトンさんはいつもこういった事をしているのですか?」
「ん、どういう意味だ?」
「いや変な意味じゃなく、冒険者の中には遺跡などに残された財宝を持ち帰り生計を立てているという方もいますよね?もしかしたらハミルトンさんもそうなのかなって……違いましたか?」
「無論だ。俺はそういったことに興味はない。俺はただ、モンスター共を駆逐出来れば、それで構わん」
「成る程。それはやっぱり、モンスターに襲われたという妹さんを思ってのーー」
 あ。
「……どこでその話を聞いた?」
「あ、はははは……すみません。今のはなかったことに」
「どこで?」
 と、ハミルトンさんの並々ならぬ覇気に気圧されて。
「ゴメンナサイ。シャトー様から聞きました、はい」
 私は素直に白状して、ハミルトンさんへと向き直り深々と頭を下げた。不覚だった。
「あいつ、余計な事をペラペラと」
「ち、違うんですよハミルトンさん? シャトー様はハミルトンさんの事を心配していてですね、それで、」
「そんな事を頼んだ覚えはない。お節介も度が過ぎれば、ただの迷惑行為に過ぎん」
 ハミルトンさんは吐き捨てるように言った。その口振りは心底うんざりとしているようで、私はそんなハミルトンさんの態度にどこか違和感を感じて仕方がなかった。
「どうして、そこまでシャトー様を邪険にするのですか?」
「どうしてこうもない。あいつは昔から、何かとお節介を焼きすぎる節がある。別に頼んでもないのにあれこれと、人の気も知らないで」
「それは……ハミルトンさんだって、同じじゃないですか?」
 ああ何言ってんだろ私。部外者のくせに失礼にも程があるでしょ……
 でも、あんなにもハミルトンさんの事を気にかけるシャトー様に対してそんな言い方しなくたっていいじゃないかって、そうは思ったのは確かで。
「ハミルトンさんだって、シャトー様の気持ちを分かってあげてないじゃないですか?」
 ズケズケと、そんな失礼を口走っていた。溢れる感情を抑えきれなかったのである。
「ほう、では聞くが、どうしてあいつの気持ちを分からなければならない?」
 と、ハミルトンさんは白けた言い方で。
 カチンときた。
「なっ! なんでそんな卑屈な言い方しか出来ないんですか!? 折角心配してもらってるのに、少しは感謝の気持ちってものを抱かないのですか!?」
「ないな。別に頼んだ覚えもない」
「はは、ははは……言いますねぇ」
「お互い様、だろ? お前とて、何も知らないでよく言う。アポロの助手だからというからどんな奴かと思えば、」
「今アポロさんは関係ないでしょうが!」
 と、私が思っ切り地団駄を踏んだーー
 その瞬間。広間の中にガタンと音は鳴り響く。
 えっ、なんの音?
「って、うひゃああああああああああ!」
 嘘嘘、なにこれ!? てか落ちてる!? 何でいきなり地面に穴が空くのさ!? もしかしてこれが隠し通路ってやつ!?
「お、おい!」
 ハミルトンさんが手を差し伸べてきた。
 ただ時既に遅し、私の体は真下に向け急降下。ハミルトンさんの姿が遠退いていく。
「な、なんでさぁあああああ!」
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