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第2章 ミシラス湖の特異個体
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しおりを挟む長い一日が終わろうとする頃、私達はひまわり牧場より遠く離れた丘の上にいた。
この丘は星がよく見える。それこそ今日のように雲のない夜には、満点の星々が空を彩る。私のお気に入りスポットである。
私とウボーとフルート、傷だらけの私達は並んで夜空を眺める、今はそんな時だ。
「あーあ、帰ったらなんて説明しようかな」
「まぁまぁ、帰ったら帰った時でその時考えましょうよ。今はただ、こうして皆んな無事だった事を喜びましょう!」
と、ウボーは笑って。
「GU!」
フルートは賛同の鳴き声を上げた。
確かにウボーの言う通り、今更どう考えたって仕方がない。
私達はミシラス湖の脅威であった特異個体をやっつけた。立派な勝利とは言えないけれど、こうして皆んなで星を眺め事が出来ているのだからそれをまた良しとしようじゃないか。
「そんなことより……フルート、ウボー、ごめんね」
私は改まって、頭を下げて謝罪した。
そんな私を不思議そうにウボーは見つめている。
「どうして、アポロさんが謝るんですか?」
「いやだって、今回の事は元はと言えば私が言い出した事だし、初めからギルドに報告してれば二人をこんな危ない目に遭わせずに済んだだろうし……」
「だから、何でそうやって全部自分で背負い込むんですか?ねぇ、フルートちゃんもそう思うでしょ?」
「GU!GU!」
フルートの鳴き声は「そうだ!そうだ!」と言わんはがし。
「いやだって、さぁ……」
「だって、何ですか?」
「……ううん、何でもない」
私は喉まで出かけた言葉を飲み込み、ただただ反省する事にした。かつての私なら「今回の事にあなた達は関係ないでしょ?」という場面に於いて、私はそう口に出してしまう事に躊躇いを覚えていたのである。
関係ないだなんて、二人に対して失礼過ぎるとは、そう思った。
だから変わりに、
「……ありがとう」
ボソリと、それだけを伝える事にした。
うん、らしくないな私。
「あははは、まさかアポロさんの口から『ありがとう』を聞けるなんて可笑しい!」
「わ、笑うな!」
「だ、だってぇ!」
「……くそ、言うんじゃなかった」
ちぇ、折角人が素直にお礼したってのにこんなのあんまりだ。
「フルート、あんたは私の気持ち分かってくれるよね?」
「……」
ウボーはうんともすんとも言ってはくれない。
つまり寝ていると、スヤスヤ寝息を立てるフルートを眺めては遣る瀬無い思いで一杯だった。
「疲れたんでしょうね。フルートちゃん、凄く頑張ってくれましたから」
「うん、そうだね……フルート、いつもありがと」
私はフルートの頭を撫でる。帰ったらたくさん構ってあげようとは、そんな思いを込めて。
「アポロさん」
ふと、真剣な眼差しを作るウボー。
「なに?」
「いや、そのぉ……先ほどから、私……アポロさんにすごく失礼な事ばかりを……」
「何を今更、いつもの事でしょ?」
「いつもって、そんな私失礼な事ばかり言ってますか!?」
「自覚はないと」
私はニヤニヤと笑みを浮かべて言った。
「……いや、アリです。ごめんなさい」
「ふふふ、冗談。確かに貴女は失礼な発言ばかりだけど、ただそれでも、間違ってる事ばかりを言ってるわけじゃないから」
そう、ウボーはただ素直なだけ。思った事を直ぐに口にして、有りの侭の感情を私に伝えてくれる。表現してくれる。
それは私が今ままで知り合ってきたどんな人にもない事で、私はそんなウボーの素直さに教えてもらったばかりだった。私の駄目な部分を、色々と。
「ウボー、貴女はそのままでいいよ。私は多分、そんな貴女だからこそ……好きになれたと、そう思うから」
私はウボーの肩を抱き寄せて言った。素直になってみたと。
「ア、アポロさん……」
「ふふ、今私先輩らしいでしょ?」
「はい!とっても!やっぱり……アポロさんは私の憧れです!」
「どうだかねぇ」
「ほんとですもん!私、今日もほんとは怖かったですけど……アポロさんがいたから、だから頑張れたんですもん」
ウボーは目に涙を溜めて。
「だから、これからも私の憧れでいて下さい!そしていつか絶対、アポロさんのような強くて優しいテイマーになりますから……だから」
いやいや、いくら何でも持ち上げすぎだっての。
「もう、そんなに期待しないでよ。荷が重いじゃん」
「えへへ」
全く。でも、まぁ。
「貴女の憧れであれるよう、精進しましょうか」
「はい!」
こういうもの悪くないって、そうは思ったわけですよ。
うん、やっぱり私らしくないな。
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